【人間界でのそれぞれの動き】
ルセルやマーギランが寝泊まりしている家のリビングで人間界の地図を広げ、タウナは魔王軍と西方諸国の現状について改めて2人に説明した。
「おさらいしておくとイート国は壊滅し、その土地にダークジェギスが作られた」
タウナは地図上を指で示し、ダークジェギスがある場所をトントンと叩く。
「隣国ビイール国はダークジェギスと戦争
ビイールはソーニナ国とリゴーシュ国の二国と同盟を結び三国で魔王軍と戦おうとする、そこまではいいわ」
タウナの言葉に二人は頷く・
「けれども各国バラバラの動きで連携もせず戦った結果、ソーニナは魔王軍の虐殺によって街も王都も壊滅
籠城戦をしていたビイールの各砦は内部から崩壊
ビイール王都も攻撃を受け落城
戦わずして逃げたリゴーシュは魔王軍の次なる攻撃目標として風前の灯
・・・とまぁ、現状はこんな感じね」
その説明にルセルとマーギランは眉を寄せる。
「リゴーシュ国は絶体絶命じゃの
連携して戦っておったなら、或いは今だに拮抗しておったかも知れんが」
マーギランの言葉にルセルは疑問を口にする。
「なぜ連携をしなかったんだろう?」
「・・・情報ではリゴーシュ王は暗愚らしいわね
本来は魔王軍に恭順の意を示し地位の保証を求めたかったらしいけど、国内の抗戦派に押されて渋々同盟を結び軍を出した
けれども結局恐れをなした王は抗戦派の主導者達を粛清して軍に撤退命令を出した・・・という話」
「不安定な王じゃの」
マーギランは白髭を触りながら呆れる。
「ね、もっとも人間界の・・特に西方の国々は大体こんな感じよ」
「で、僕たちが乗り込むって訳ね」
ルセルの言葉にタウナは笑む。
「そ、リゴーシュには降伏はささせない
ライオネル王国を動かすまで粘ってもらうわ」
そのタウナの言葉にマーギランは苦笑した。
「西方最大の大国じゃな」
「大国と言ってもエルフ界を想像されると困るけど」
「まぁ、人間界では大国・・・と言う事だの」
マーギランが言い終わるか否かかにルセルが言う。
「ライオネルって冒険者の店がある?」
「そうよ、でも冒険者は今は殆ど居なくなってるって話よ
期待しない方がいいわ」
「そうか、しかし居ない訳じゃないって事だね」
ルセルの言葉にタウナとマーギランは苦笑した。
ソーニナ国とビイール国の国境の外にあるとある村。
この村がある地はソーニナともビイールともモスターノとも属していない中間地帯で言わば国なき地域である。
その地帯には国に属さない大小合わせて幾つかの村々が点在していた。
その中の一つが魔王軍の攻撃を受けたのは一昨日である。
正確には魔王軍ではない。
正規の魔王軍に属さない、しかしダークジェギスの総督タウナの了承を得た魔王軍の別働隊とも言える部隊である。
構成的には骸骨使士に操られたスケルトン部隊だ。
スケルトン部隊は魔界から連れてきた動物型が主力の部隊だ。
骸骨部隊の指揮を取る男はまだ若い。
15歳のウキャンという少年である。
若いと言ってもスケルトンマスター達もまた若い10代20代のメンバーで構成されているのだが、その中でも一番若い年齢のウキャンが部隊長である。
ウキャンは人間界で死んだ友人の仇を討つべく山賊殲滅のために人間界入りした。
勿論、魔界のエミリアや総督ターリィナの了承を得てだ。
ただ貴族とはいえ、ウキャンが人間界入りするにはバルダムの推薦状は必須だったが。
友人の名はロッチ。
この間、合成魔獣のスタッフとして人間界に入り山賊襲撃の際に戦死した一人だ。
かつて魔界の王子であるバルダムをリーダーとした女を食い漁るグループのメンバーとして多くの女を抱いて楽しんでいたウキャンとロッチ。
そんな仲間を殺されて黙ってはいられない。
ウキャンの人間界入りを危険として最初は止めたバルダムだったが、折れないウキャンに諦めて推薦状を書いたのだ
ロッチを殺した山賊に頭にきていたのはバルダムも変わりはなかったからだ。
ウキャンの友人関連に骸骨使士がおり、その辺りから今回の部隊のメンバーを集めた。
20年前に精霊界で行った戦争で猛威を振るった動物型を主力にエミリアの許可をもらい人間界に乗り込む事になった。
ただ公的な軍ではなく私設部隊であり、それに係る費用は全てウキャン持ちだ。
しかし費用捻出は容易かった。
バルダムの資金援助があったからだ。
そして移動については奴隷商達と行動を共にした。
奴隷商達もまたダークジェギスに向かうからだ。
何やら、新たなるビジネスを展開する為に少年奴隷の入手が目的らしい。
何にしても同行すれば比較的楽にダークジェギスに着く事が出来るためその点は助かった。
ただ、驚いたのはベヒーモスという巨大な象に似た魔獣をエミリアの依頼でダークジェギスに移送する部隊も一緒に行動した点だ。
ベヒーモスのその大きさと威圧感にウキャンも魔獣が突然暴れないかと本気で不安になった程だ。
そんな心配をよそに無事ダークジェギスに着いたウキャンは総督ターリィナと会い、山賊殲滅特殊部隊及び部隊長として任命された。
もっとも、こちらも公式の軍ではなくあくまで軍に協力する私設部隊としての扱いだが。
ただ、自由に動ける分そちらの方がウキャンに取っては良い
そして総督府からの情報を元にこの村の攻撃を決行した。
襲撃から二日目、村では村人に偽装している山賊の疑いがある者、もしくは山賊の事を知っているらしき者を捕まえ拷問にかけた。
他の村人は手向かわぬ様に六ヶ所の比較的大きな家に押し込めてある。
若い女は兵たちの欲望の対象となった。
ウキャンも若い姉妹達を相手にひとしきり楽しみ一服していた時、数名の部下が部屋の外から声を掛け使用していた家に入ってきた。
「何だ?」
「はい、捕らえた1人が口を割りました」
「へ~、それで?」
「はい、この村から北西の方角にあるヤクリラン村が山賊共のアジトのようです」
「距離は?」
「は、およそ30キロ程とか」
「そうか・・・なら向かうぞ、極力気づかれないようにな
・・・と言ってもこの村の襲撃は知られてしまっているかも知れないが、関係ない
全て叩き潰してやる、糞山賊共
用意しろ!、出来次第出発する」
「は!!」
1人が出て行く中、ウキャンは残った2人の内の1人に指示を出す。
「男共は全員殺せ、女は放っておけばよい」
「は!!」
1人が外に出て行く中、ウキャンは裸でうずくまっている姉妹達を見た。
「あ~・・いや、コイツ等は殺処分しろ」
残りの部下に姉妹達の処分を言い渡しウキャンは服を着て部屋の外に出る。
その直後部屋の中から姉妹達の悲鳴が聞こえてきたが、それは直ぐに静かになった。
自分のモノで人間如きに孕まれてもそれはウキャンの由緒ある家系に傷が付くだけであり、何のメリットもない。
だから使った後は処分するに限る。
それがウキャンの流儀だ。
「さ~て、覚悟しろよ山賊共」
ウキャンはロッチの仇たる未だ見ぬ山賊に向かってニヤッと不適な笑みを浮かべた。
「お~い 助けてーーー!!」
森の中を馬に乗って移動していたデュラハン部隊を目撃したデルロイはありったけの声で叫んだ。
最初は無視されたが、二度目の叫びにデュラハン部隊の誰かが声を出す。
「止まれーーー!! 止まれーーー!!」
「止まれーーー!! 止まれーーー!!」
デュラハン部隊が前から順に声を上げ、それは後ろに伝わり後ろから徐々に止まり始める。
森の中なので速度は常歩~やや速足ぐらいで動いていたから直ぐに全隊が止まる事ができた。
「おーーーい!!」
馬に追いついたデルロイがデュラハン部隊の最後尾のすぐ側まで追いついて両手を膝に付きゼィゼィと息を切らす。
「た・・・助かった
乗せてください、頼みます!!」
デルロイの懇願にデュラハン部隊の女達は顔を見合わせ困惑する。
先頭にいた二人の女がデュラハン部隊の横側を通って最後尾までやってきた。
「何者だ?、お前は?」
リーダー格らしきデュラハンの女がデルロイに問う。
「ボクはグール軍団の副長補佐のデルロイです、グール軍は全滅しました
お願いです、ルービアンカまで乗せて下さい」
グール軍と聞いて女の眉がピクリと上がる。
「・・・そうか
しかし残念だがデュラハン部隊の馬に乗せる事は叶わないな
こいつらはデュラハンしか乗ることができない特殊な馬でね
デュラハン以外のモノが乗れば魂は砕け散る」
デュラハンの女はデルロイを見下げて言う。
「それに例え乗れたとしても、我々デュラハンは男を乗せたりはしない」
「そういう事よ、代わりの馬もいないし、諦めて歩くか走って帰りなさいボク」
もう一人の女が話しかけてきた。
こちらの方はデュラハンではない。
見た所デルロイよりは少し上ぐらいの年齢だ。
「そ・・・そんなぁ・・・」
「そもそも全滅という事は傭兵はともかくパピリコ殿達は死を覚悟でエルフ達と戦い切り死にされたという事だろう?
副長補佐って事はお前もグール族の筈だな?
なぜお前だけ逃げてきているのだ?」
「そ・・・それは・・・」
デュラハンの女の厳しい視線にデルロイは口ごもる。
「た・・・戦おうと思ったんです・・・ボクも
グール族の名に恥じないように
で・・・でも、パピリコさんが「若いお前は生きろ」と
「生きてグール族の再興を果たせ」と
それで・・・ボクだけ戦場から逃がされ離れました・・・」
二人はは互いに顔を見合わせる。
ややあってデュラハンではない方の女が声を出した。
「仕方がないな
私の後ろに乗れ、ただし変な所は触るなよ」
「は・・・はい!!、ありがとうごさいます!!」
笑顔のデルロイとは裏腹に女は目を細めた。
「・・・・・夢か」
デルロイは目を開けた。
この夢は当時から今に至るまでよく見る。
かつてエルフ界で戦ったアンデッド戦争時の夢。
そしてデルロイが初めてアトニーノに会った時の夢である。
現在デルロイはダークジェギスの一角にある場所を拠点に新しいビジネス展開の為に人間界に来ていた。
新しいビジネス。
それは女性向けの商品の開拓である。
「・・・・・」
アトニーノの夢。
それはデルロイに取っては甘い夢だ。
ただ夢でアトニーノに会うだけで心が高揚する。
「すぅすぅ・・・」
デルロイの隣では秘書兼愛人のレリーナが寝息を立てていた。
「あれから20年か・・・」
今見た夢が随分昔の事である事にデルロイは時の流れが早い事に眉を上げ、再び眠る為に毛布を体に掛けた。




