【ホイクールとアリス】
「手枷を外しても良いですか?」
「どうぞ?」
謁見の間に連行されてきたホイクールの言葉に玉座の横にある竜と鳳凰の装飾が施された椅子に座っていたタウナは答えた。
その言葉を聞きホイクールは手枷に目を集中させる。
ピシッという音と共に木製の手枷にヒビが入る。
鉄製ならば厄介だが、木製なら何とかなるモノだ。
ピシッ・・パキキ・・パキッ・・
ヒビは大きくなり、全体に広がった。
そして・・・
コンッ・・コココンッ・・カラカラ・・
ホイクールが少し力を入れると手枷は割れ、床に乾いた音を立てる。
同じく横にいたレトルダも手枷を外した。
「楽になりました、手の自由が利かないというのは鬱陶しいモノですね」
そのホイクールの言葉にタウナは苦笑する。
「まぁ、そうでしょうね」
「・・・はい、そして初めまして
私はホイクールと言います、隣にいるのはレトルダです」
「ホイクールにレトルダね
わが国にようこそ、私はタウナよ」
「タウナですか
貴女はこの国の女王・・・という事で良いのですか?」
「あぁ、私は宰相みたいなモノだと思って」
「宰相?、・・・なるほど」
タウナの言葉にホイクールは一応頷く。
門の封印を解き、それを使ってアリシュトロ国に瞬間移動したホイクールとレトルダ。
移動した先の情報が分からないため、取りあえず周囲を調べていたら村を発見した。
そこの住人達から聞き込みをした結果、ここはアリシュトロという東方に位置する新興国家らしい。
しかし完全に無から興った訳ではなく、昔の滅びた王国を土台とした国のようだ。
かつて滅びた国の名はアウランズ王国。
20年前に魔王軍の侵攻にあい破壊された国だ。
ホイクールはその点に関して少し興味を持った。
しかしその直後、兵士に取り囲まれたホイクールとレトルダは情報を得るために抵抗をする事なく大人しく捕まった。
「で」
「はい?」
「門を潜って何しにここへ?、魔族の方々」
「おや、単刀直入ですね
私たちは自由の魔族で、たまたま門を見つけたので入ってきました」
「自由ね、ちなみにターリィナと会った事は?」
「・・・ありますよ?」
「ターリィナの使い?」
「・・・いえ、ただの個人的興味です」
「個人的興味?」
「はい、赤い戦士と呼ばれる者への興味です」
「・・・・・」
そこまで聞いてタウナは足を組み、椅子の右肘掛けに肘を掛けて頬に右手を付け体勢を崩した。
「赤い戦士ね」
「はい、貴女は知っていますか?」
「名前だけはね」
「・・・なるほど」
「それで、これからどうするつもり?」
「はい、一応目的は果たしましたからどうするかはこれから考えます」
「目的を果たした?」
「取りあえずは赤い戦士に会うことです、つまり貴女です」
タウナは少し口元を上げる。
「私が赤い戦士?」
「そうです、話してみて分かりました
この国に張られた侵入者を探知する結界の事
自由の魔族について知識がある事
総督がターリィナである事を知っている事
そして極端に抑えている様ですが貴女は強力な魔力の持ち主である事
何よりその人間らしからぬ綺麗な容姿
・・・つまり貴女が赤い戦士です」
「・・・・へぇ~、流石ね
そうよ、私が赤い戦士よ」
誤魔化すと思いきやあっさりと答えるタウナに少々拍子抜けしたホイクールだったが、しかし答えた所でタウナが不利になる要素はなさそうな事からの発言であると気づいた。
「それで?、門の存在はターリィナ側は知ってるの?」
「いえ、知らないでしょうし私達は知らせていません」
「どうして?」
「知らせる程の仲でもありませんし」
「別に知らせてもらっても構わないわよ?
私が赤い戦士だという事も含めてね」
「・・・なるほど、戦力を各個爆破していくという訳ですね?」
実は門の使用には制限がある。
ある一定以上の魔力を持たなければ潜れない事と1日に2人までしか使用が出来ないという制限だ。
圧倒的に便利である半面、制限もまた厳しい。
それを踏まえれば、ターリィナ側に門の存在が知れて敵を送って来られても返り討ちにすれば良いだけの話だからだ。
勿論返り討ちに出来る戦力と、門からやって来た者を即座に探知し見つけ出せる体制があるならの話だ。
あと赤い戦士がアリシュトロ国に居ると判っても、西方に拠点を置く魔王軍と東方のアリシュトロ国では距離がありすぎて直接魔王軍を進軍させてくる事は出来ない。
出来たとしてもそこに至るまでの多くの国々が盾になり、それらを攻略するのに時間がかかり過ぎる。
「・・・特に言うつもりはありませんよ?
私がターリィナに門やこの国について報告しなければならない義務や義理はありませんし」
「まぁ・・・でしょうね」
タウナの言葉にホイクールは目を細める
「それはそうと・・・」
「何?」
「貴女は何者です?
魔族というのは判りますが、正体が分かりません」
「・・・アリシュトロ国の宰相
それ以上でもそれ以下でもないわ」
「・・・そうですか
まぁ、敢えては聞かないでおきましょう」
ホイクールはタウナから視線を外し、衛兵と一緒に近くに控えていたルセルに向かって言う。
「所で・・・アナタは何者ですか?」
「?」
言われたルセルは最初自分の事とは思わず周りの兵や隣に立っているマーギランを見るが、ホイクールの視線が自分に向いている事に気づき口を開いた。
「僕・・・じゃない
俺ですか?、ただの勇者ですよ」
「・・・ただの勇者?」
怪訝な面持ちでルセルを見たホイクールは少し口元を上げる。
「勇者とは何ですか?」
「ん~、勇気ある者
魔物を倒し人間界に平和をもたらす戦士・・・かな」
「・・・そうですか、まぁいいです
ちなみにアナタは人間ではありませんね?
その横のご老人も」
ご老人と言われたマーギランは白い髭を触りホイクールを見た。
「いかにも、儂らはエルフじゃ
儂はハイエルフでこっちはただのエルフじゃがの」
マーギランの説明にホイクールは得体の知れない笑顔を見せる
「ハイエルフ!
なるほど・・・ご老人はハイエルフですか
そちらの者はハイエルフではなくただのエルフ・・・と?」
「まぁ、そうじゃな」
その言葉にホイクールは目を細めた。
「アナタの名前は?」
「ルセルです」
ルセルはホイクールの異様な関心に眉を寄せる。
「ルセルですか
ではルセル、君に聞きますが君はただのエルフではないですね?」
「え・・・」
ホイクールの言葉にルセルはタウナを見た。
タウナは頷き、それを見たルセルはホイクールに答える。
「そう、俺はエルフであってエルフではないです」
「?、どういう事ですか?」
「エルフとドラゴンの血を持つ混血です」
「混血?、エルフと・・・ドラゴン!?」
この説明にホイクールも、隣で話を聞いていたレトルダも流石に驚いた。
「なるほど・・・君から感じた只ならぬ気配はそれですか
エルフとドラゴンとは・・凄いですね」
「その気配を感じたアナタも十分凄いわよ」
「それはどうも」
タウナの讃辞にホイクールは笑み、更に話を続けた。
「しかしまさか竜族が関わっているとは思いませんでした
宰相タウナ、魔王軍に挑む貴女の自信はここから来ているのですか?」
その言葉にタウナは笑う。
「あはは、ルセルもそうだけど他にも色々あるわよ」
「ほう、それは面白いですね
それでどうですか?、魔王軍には勝てそうですか?」
「やってみないと分からないわよ?
もっとも負ければ終わりな戦いだから、勝つために全力を尽くすけどね」
「・・・なるほど、期待していますよ
魔王軍侵攻を見にきましたが、予想外に面白くなりそうな展開なので何よりです」
ホイクールの言葉にルセルは眉を上げた。
「魔王軍侵攻を見にきた?、予想外に面白い?
アナタは一体・・・」
そのルセルの言葉にホイクールは答える。
「魔王軍の侵攻には興味がありましてね
私やそこにいるレトルダは単にそれを見にきただけです」
「・・・つまり野次馬ですか?」
「早い話が」
「そういう魔族は多いんですか?」
「いえ、多くはないと思いますよ?
我々が特殊と言えば特殊なのです」
そう言うとホイクールはルセルから視線を外し再びタウナの方を向く。
「今日は貴重な話を聞けました、では私達は門で帰ります」
「・・・門は1日2回までの移動しか出来ないわよ」
「おや、そう言われてみればそうでしたね
では私達は明日ダークジェギスに帰ります」
「宿泊場所は用意させましょう」
「それはどうも、ちなみに・・・」
「なに?」
「もし私達が暴れていれば、ルセルやそこのご老人と戦う事になっていたでしょうか?」
「まぁ、そうなるわね
もしかして戦いたかったの?、ホイクール」
タウナのその言葉に苦笑するホイクール。
「いえ、確かにどれ程強いのか興味はありますが暴れなくて正解でした
流石にドラゴンと戦って無傷で済むとは思えませんからね」
「勝てないとは言わないのね」
「勿論です、私も結構強いですからね」
そのホイクールの言葉は虚勢の類とはルセルは感じなかった
むしろ本当に強いのだとニオイとオーラが告げている。
レトルダには勝てるだろうが、ホイクールとの勝敗については確実に勝てるというイメージがルセルに湧かない。
戦えば双方無事では済まないというホイクールの言葉は間違ってはいないだろう。
そういう意味ではこの先は判らないが、少なくとも今は戦わなくて済みそうだという安堵感はルセルにもある。
「思い出した事があります」
宿泊施設に案内されたホイクールとレトルダは割り当てられた個室の一室で話をしていた。
「何をだ?」
レトルダの問いにホイクールは笑む。
「アウランズ王国・・・この地は以前そう呼ばれていました・・・
そして魔王軍との戦争・・・国は陥落し魔界に連れていかれた女達・・・」
頭を巡らせていたホイクールはレトルダに聞く。
「レトルダ、アウランズの王女と王妃が魔王の下に連れて行かれたのは知っていますか?」
聞かれたレトルダは首を捻る。
「さぁ?、知らんな」
「そうですか・・・
まぁ、記憶が正しければ合っている筈です」
そのままホイクールは更に頭を巡らす。
「魔王と人間の女との間に生まれた王子と王女・・・
炎の祭典・・・精霊界で死んだ魔王の娘・・・
滅びたアウランズ王国・・・復興・・・赤い戦士・・・」
・・・・・
・・・・・
・・・・!
「なるほど・・・そういう事ですか」
「???」
よく判っていないレトルダを余所にホイクールはタウナの正体に気づいた。




