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竜怜のハーフ  作者: ナウ
三章・前半
40/84

【魔界の王女ターリィナ】

「ビイール国の状況はどうなっていますか?」


二階の窓から外を見ていたターリィナは振り向き、部屋に入ってきた三人の部下を見やる。


一人は鎧に身を固めている金髪の戦士。

一人はローブを着た銀髪の魔法使い。

一人は同じくローブを着た赤髪の魔法使い。

金髪と銀髪は男だが赤髪は女だ。


三人は一礼し、銀髪の男がターリィナの問いに答えた。


「ビイール国はもはや風前の灯

あと少し・・・一週間以内には落ちましょう」


「ふふ・・・そうですか

中々に持ち堪えたという所でしょうか、立派なものです

後は美しく散るだけね」


そのターリィナの言葉に金髪の戦士は赤髪の魔法使いと目を合わせる。


「コホン・・」


赤髪の女は咳払いし、銀髪の男の前に進み出た。


「姫様・・そのビイール国なのですが・・その・・」


言いにくそうにする赤髪にターリィナは優しい口調で話しかける。


「どうしましたか?」


「いえ・・あの・・ビイール王が降伏を申し出ているようです、如何いたしましょう?」


ターリィナはその言葉に自身の目を冷たく光らせた。


「降伏ですか?」


「はい」


「なるほど・・・しかし、最初の段階で三度も降伏勧告を行いました

それを蹴ったのはビイール王自身の筈」


「はい」


「しかも敗戦間近の状況下で降伏とは見苦しいですね

将軍に伝えなさい、降伏は許しませんと」


「は、畏まりました」


ターリィナの指示に三人は深々と頭を下げた。



現在ターリィナが居るここは人間界の西側諸国の一つであるイート国である。

いや、元イート国と言った方が正しい。


魔王軍が人間界に入り最初に攻撃したのはこの小国のイート国である。

圧倒的な魔王軍の戦力の前にイート軍は壊滅し、街々も都も魔王軍の支配下に置かれる事になった。


ダークジェギスと名前を変え、魔王軍の拠点として王都は要塞に作り変えられつつある。


イート国は特に文化的にも産業的にもめぼしいモノはなく、支配地としてメリットがない。

しかしそれ故に徹底的な破壊を行っても特にダメージはなく、だからこそ要塞化させるには打って付けの土地だった。

最初の攻撃目標になったのはそうした事を考慮した結果である。


イート国を征服したターリィナは、手始めに人間の管理から着手した。

まず国王や血筋の男達は処刑し、王家の若い女達は魔界本国へ送った。


民としては30歳以下の男達は奴隷労働者として要塞の建設に従事させ、30歳以下の女達について正規兵達に分配し与えた。

30歳以上の男女は存在自体が不要なので収容所を多数設け魔獣の餌用としてそこに収容させている。

子供達については将来的な奴隷として生かしてある。


やがて魔族と奴隷から生まれたハーフ達を人間界の支配者層として徐々に人間界全域に行き渡らせ各地を支配させ、最終的には人間界全域を完全に掌握する事が今回の計画の目標だ。


少し前までは魔族の間でハーフを産ませる事は恥とされ嫌われていたのだが、時代は変わりその意識は随分と薄れてきていた。

しかし魔族の女を最高とする考えは依然として強い。

人間の女は遥かに下と考えられてはいるのは変わらないし、それは正しい。

だから美しいリリス族の女達は基本的に指揮官クラスにあてがっている。


実は今回の侵略は20年前のような略奪殲滅戦を想定し計画されていたのだが、ターリィナが殲滅戦ではなく人間を搾取し富を得るシステムを構築した方が良いとエミリアに提案した。

面白がったエミリアはそれを採用し計画が大きく変更される事になったのだ。


単なる提案だけではなく総督として人間界に赴く事を希望したターリィナは願い通り軍と内政を取り仕切る大きな権限を与えられ、就任した。


計画に添っていれば征服した国をどう扱うかはターリィナの一存による所が大きく、征服した人間の生殺与奪権は魔界の王女たるターリィナの手に握られている。


そうしてイート国を蹂躙した魔王軍の次の目標は食料確保のために近隣のズヌーシュ国に向けられた。


ターリィナは降伏勧告書を王に送り、属国になるか滅びるかを迫ったがズヌーシュ王は取りあえず返答を保留したい旨の手紙を送って寄越しターリィナを苦笑させた。


保留という小賢しい策を弄する王に対して隊長達は憤ったが、ターリィナが宥め将軍と相談しそれを受け入れた。


次いでビイール国にも降伏勧告を行ったがこちらは突き返された。

ターリィナの主義で三度の勧告を行ったが三度とも突き返され開戦の運びになる。


ビイール軍は特に強くもなく、野戦においては魔王軍があっさり勝った。

しかし各地の砦での籠城戦はしぶとく、籠城しつつ隣国の国々に援軍要請を行って対魔王軍包囲網を作ろうとしたためターリィナも将軍も警戒した。


包囲網に応じたのは同盟国のソーニナ国とリゴーシュ国。

どちらもビイール国よりも遥かに小さい国であり、大した戦力ではないが連携されると厄介なので取りあえず標的をソーニナ国に移した。


リゴーシュ国との連携でくるかと思われたが、予想していたモノとは違いソーニナ軍とだけの戦闘だった。

そのため魔王軍の主力を使う事もなくこれを打ち負かし、そのままソーニナ国になだれ込んだ魔王軍は見せしめに大量虐殺を断行。

ソーニナ国王は勿論、老若男女問わず殺戮し死体の山を築いた。

恐れをなしたリゴーシュ軍はビイールを助ける事なく撤退。

今や孤立無援になったビイールを兵糧責めでゆっくり料理しているのが現状だ。

しかしそれももうじき終わる。



「しまった・・・」


退出しようとした銀髪の魔法使いが振り返りターリィナに向き直る。


「どうしました?」


ターリィナはそんな魔法使いに笑みを向けた。


「はい、忘れておりました

報告があと二点ありました」


「どうぞ?」


「はい、ありがとうございます

一点は奴隷商からの希望で派遣スタッフに男の子の確保をお許し頂けたらとの事です」


「男の子?」


「はい」


ターリィナは少し考えて口に出す。


「ただの男の子ではないのでしょう?」


「あ、はい

言葉が足りませんでした

いわゆる女性が好む男の子系ですね」


「・・・まぁ、よいでしょう」


「はい、その事を奴隷商に伝えます」


「二点目は?」


「はい、赤い戦士がまた出たようです」


魔法使いのその言葉にターリィナの顔から笑みが消えた。

それを見て三人の背筋は凍った。


「・・またですか、今度はどこです?」


「は・・魔獣を待機させている地区です

収容所に入れていた餌達を逃がしたと報告がありました

あと、その際に魔獣も何頭かやられたと・・」


不機嫌になったターリィナを前に冷や汗が出た魔法使いだったが、何とか最後まで言い終わった。


「・・分かりました、他には?」


「いえ、本日はそれだけです」


「そうですか、では下がって下さい」


「は・・、では失礼致します」


一礼し三人は退出していく。



「・・・・・」


バリイィィィィン!!


部屋の隅に飾ってある花瓶が砕け散り四散する。

花も水も床に零れ落ちた。


「・・・赤い戦士ね」


それは度々魔王軍の領域内に侵入し色々と荒らしままくる存在だ。

赤い戦士とは全身を真紅の鎧甲に身を包んだ姿から名付けられた。

その者とはターリィナは会った事がある。


ある夜に寝ていたターリィナの寝室に忍び込み、首元に剣をあてがったのだ。

目を覚ましたターリィナだったが、首筋に刃を光らされていてはどうにも出来ない。


「・・あなたが噂の赤い戦士さん?」


目だけを戦士に向け、小さく声を出したターリィナは戦士を見たが、目すら覆っている兜のため顔は分からない。


「ああ・・そう呼ばれているな」


「・・・!」


その声にターリィナは驚いた。


「驚いたか?」


ターリィナの反応に戦士は面白そうな口調で言う。


「・・女の方でしたのね」


「そうだ」


「・・それで、どうなさるおつもり?」


「聞きたい事がある、今回の人間界における計画立案者は誰だ?」


「・・私ですよ」


「お前が?」


「民の支配、支配者のあり方、搾取の方法、奴隷の使役・・全て私の考えです」


「・・・・・」


赤い戦士はスッと剣を首元から外し、カシャンと鞘に納める。


「・・・?、私を殺さないのですか?」


「総督がどんな者か見にきただけだ、幸い警備が薄かったからな」


「・・では後ほど警備担当者に罰を与えないといけませんね」


「好きにしろ・・ではな」


「まって!!」


バルコニーから出ていこうとする赤い戦士を呼び止めるターリィナ。


「何だ?」


「貴女は・・誰? なぜ私達に敵対するの?」


「人間の浄化が目的なんだろう?、ならばそれに抗うまでの事」


「・・なぜ・・それを・・貴女が?」


「・・ではな」


そう言うと突風が舞い込みカーテンを激しく揺らす。

風で目を閉じた一瞬の間に戦士は忽然と消え去った。


「・・・魔法ね」


ターリィナはベッドから下り素足で床を歩きバルコニーに向かう。

床のヒヤリとした感触は命の危機に晒された先程までの時間を凍らすには十分な冷たさだ。


「戦士で魔法を使う者・・魔法戦士が人間界にもいるのね」


バルコニーの外を見るが、月明かりにぼんやりと浮かぶ建設途中の要塞の姿が広がっているだけである。


・・今宵の収穫はあった、赤い戦士は女だと。


「そして色々知っているようね、それにしても・・かつて・・どこかで聞いた声・・」


しかしそれは有り得ない事なのだ。

ターリィナが人間界に来たのは今回が初めてなのだから。


その違和感と少しの不快感を胸に宿しながらターリィナは目を細め、緊急のベルを鳴らした。

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