【5年ぶりの再会】
東方にある小国アリシュトロ。
かつてあった王国の廃墟の中から生まれた新興国家として4年ほど前に名乗りを上げ、アリシュトロは滅びた旧王国の土地を併合していた隣国マクシトイから土地を力で次々に奪い返していった。
勿論土地を強奪していくアリシュトロ国に対してマクシトイは黙って見ていた訳ではなく、兵を差し向けアリシュトロを攻撃した。
しかし4度に渡る戦い全てに勝利を収めたアリシュトロは、逆にマクシトイ本国に迫り今や国境で双方睨み合う形になっている。
「タウナ様」
赤い鎧を脱ぎ去り、私服に着替え終わったタウナの私室のドアをノックしたのはアリシュトロ国の防衛を司る防衛長だ。
「どうぞ」
タウナはそう言いソファーに腰掛ける。
ガチャン
扉が開き防衛長は一礼し中に入ってきた。
「留守中何か変わった事は?」
防衛長が口を開く前にタウナが先に話しかけた。
「いえ・・・特には」
「そう、ご苦労様」
タウナの言葉に防衛長はふと何事か思い出し、口にする
「・・・いえ、一つだけございました」
「なに?」
「昨日の昼の事ですが、城にタウナ様を訪ねてきた者達がおります」
「へぇ?」
「正確にはタウナ様の別名で訪ねてきた二人組です」
それを聞いてタウナは眉をひそめ、やや声を落としながら訊ねる。
「何者だ?、その者達は?」
「はい、一人はマーギランと名乗る白髪の老人です
門兵の話では魔法使いではないかと
もう一人はルセルと名乗る20歳ぐらいの若い男
剣を所持していましたが戦士には見えなかったとの事です
二人共背が高く、その容姿から推測するにハーフエルフではないかと」
「・・・なるほど」
その言葉を聞いてタウナは一瞬目に力強い光が宿ったが、それはほんの一瞬の事であり直ぐに元に戻った。
「その者達は今どこに?」
「は、宿屋兼酒場の角羊亭に泊まっています」
「そうか」
「は、如何致しましょう?」
「分かった、その者達には今夜会いにいく」
その言葉に防衛長は意外そうな顔をして言う。
「タウナ様が行かずとも、使いを出して城に呼ばれれば宜しいかと・・・」
「いや、心配はいらない
その者達は旧知の間柄だ」
「左様でございますか・・・」
微妙な顔を向ける防衛長に笑み、部屋から下がらせた。
赤い戦士
タウナは現在西方地域を侵略している魔王軍が支配下に収めた魔王軍支配地に飛び込み奇襲戦を展開している。
しかし西方地域とアリシュトロがある東方地域は遠く、本来ならば行き帰りするだけでも何ヶ月もかかるような距離だ。
しかしタウナは一瞬で行き来できる術を持っている。
そうした特殊な力は強力な魔法の力でありアリシュトロに勝利と富をもたらした。
兵の数では圧倒的に不利だったマクシトイとの戦争でも如何なく発揮され、5000の軍勢に対して僅か200名足らずの兵で受けて立ち跳ね返した実績を持つ。
やがてアリシュトロの噂を聞きつけた商根逞しい商人や他国から渡ってきた者達によってアリシュトロは発展しつつある。
とりわけタウナが積極的に取り入れたのは旧王国時代の民達である。
侵略軍によって滅ぼされ、奴隷として別の地に送られた旧王国の民達。
解放戦争によって解放され難民として各地に散っていた民達を手厚く保護する政策を打ち出したため各地から旧王国の民は祖国の地に帰ってきたのだ。
現アリシュトロの土地にあった旧王国の名前はアウランズ王国。
かつて魔王軍に滅ぼされた国である。
「久しぶりね」
酒場のカウンター席で酒を飲みながら店の客と色々話をしていた二人に声をかけたタウナは空いているテーブル席を指差す。
二人は話していた客に会釈しカウンター席を離れ、タウナと一緒にテーブル席に移った。
席に座ったタウナは適当に注文を給仕に言い、二人の顔を見る。
「久しぶりじゃの、お嬢」
そのマーギランの言葉にニヤリとするタウナ。
「5年ぶりね、マー爺
さらに年寄りになったわね、腰曲がってるんじゃないの?」
「ふぁふぁ、若返りはせんからな
それにしても、お前さんは美人になったの」
「そう?、ありがとう
昔はしょんべん臭いガキって言われたけどね」
「ごほ・・・昔は昔じゃ」
咳をしたマーギランに笑みを返し、視線をマーギランからルセルに移す。
ルセルに視線を移したタウナは今まできつかった顔を崩し、満面の笑みに変わった。
「ルッセル~!!
久しぶり、背が高くなったわね~」
甲高いタウナの声にマーギランは呆れた顔をした。
「まったく、どこから声を出しとるんじゃ」
「うるさいわよ、マー爺」
そのマーギランとタウナのやりとりに苦笑するルセル。
「久しぶりだね、えっと・・タウナ・・だっけ?」
「そうよ」
ウインクしながらタウナは答える。
「それにしても男前になったわ
なるのは分かってたけど、予想以上ね」
「タウナも、ものすごく綺麗になったよ」
「あら、ありがとう
ルセルに言われると嬉しいわ」
「何じゃ、儂じゃ駄目なのか
やっぱり若い男がいいのじゃな」
「当たり前じゃない、お爺さんに言われても嬉しくとも何ともないわ」
「ふんっ」
拗ねたように言うマーギランを余所にタウナは話を続ける。
「ミーナは元気?」
「ああ、向こうで一緒に暮らしてる」
それを聞いて悪戯っぽく笑みを浮かべるタウナ。
「へ~、んじゃ初体験は済ませたんだ?」
突然の振りにルセルは面食らったが、正直に答えた。
「いや、結婚してからだね
僕もミーナもそう考えてる」
「まぁ、アナタ達らしいっちゃらしいわね
で、いつ結婚するの?」
「来年ぐらいかな~?」
「へ~、まぁ妥当な所ね」
「タウナは?」
「う~ん、結婚以前に恋人いないしな~
それにそう言っていられる状況下にないわ」
「魔王軍か・・・」
ルセルの言葉に頷くタウナ。
「それもあるけど新興国として考えなければならない事が山ほどあるのよね」
「国を安定させるのは難しき事じゃからな」
マーギランはぼそりと呟く。
「そうね、本当に難しいわ
といっても子供は欲しいけど」
「え、そうなんだ!!」
ルセルの素っ頓狂な声にタウナは苦笑し甘い声で囁くように言う。
「そうなの、何ならルセルのくれる?」
「・・・え!?、いやいや・・・」
「ふぉふぉ、それはいい
ルセル、タウナなら色々手解きしてくれるぞ」
「ちょっとマーギランさん!!」
「そうね、ルセルなら手取り足取り教えてあげるわよ?」
「ちょっとタウナも!!」
ルセルのその慌てぶりにマーギランもタウナも大爆笑する。
「冗談よ、ルセルと浮気してミーナに殺されたくないわ」
「え!?、いや、ミーナは殺したりはしないよ・・・」
「うふふ、相変わらず真面目ね~、ルセル」
「え?、そうかな?」
タウナの言葉にルセルは頭を掻いた。
「まぁ、何にしても取りあえず魔王軍を倒さないとね」
「・・・どうすれば倒せるかの?」
先程とは打って変わって表情を固くしたマーギランは目を光らせた。
「・・・部屋はどこ?」
「二階じゃな」
「じゃ、そちらで話をしましょう」
「だのぅ、ここでは誰か聞き耳を立てておるやも知れん」
店内は混み始めていてあちこちで話し声が聞こえる。
ドン!!
注文したジョッキに入ったビールが3つ、目の前に置かれた。
「まぁ、何と言いますか
取りあえず再会を祝して」
ジョッキを持った三人は勢いよく傾けビールを飲み干していく。
「ぶはぁ~!!」
ビールの苦味が口の中一杯に広がり、体に流れ込んでいく。
「あら、ルセルいける口?」
意外そうにタウナはルセルを見る。
「いや、強くはないよ」
「そうなんだ」
「だね」
「ふぉふぉ、儂は強いぞ」
「うん、知ってる」
タウナはマーギランを見て、二階を指差した。
「ん・・・そろそろ上に行くか、ルセル」
マーギランは立ち上がり、二階へ上る階段に向かって歩き出した。
「行きましょう、ルセル」
「ん・・ああ」
タウナの後ろを歩きながらルセルは安心した。
この五年で変わってしまっているのではないかと少し思ってはいたからだ。
しかし性格は昔と変わりはない。
変化があるとすれば更に磨きが掛かったその妖艶な容姿ぐらいか。
だから思うのだ。
アリスは昔と全然変わっていないな~と。
赤い戦士の正体。
それは5年前に起こった【炎の祭典】の折り、戦いに巻き込まれ死んだ存在・・・。
いや、死んだ事にして存在を消し人間界に降り立った魔界の王女アリスである。
北方に位置する島国アイスネイル。
氷の国と呼ばれているが別に一年中氷に閉ざされている訳ではない。
かといって暖かい訳ではなく一年を通じて暖かい時期は限られている。
そんな国に人間界でも稀有な力を持つ赤子が生まれたのはアイスネイル以外では知られていない。
その力は聖なる力。
光の神の聖なる力の加護を受けた女児はすくすくと成長し、僅か13歳で偉大なる神の使いとして神官位に叙任した。
そして17歳の頃【炎の祭典】に導かれ、白い炎を操る神官として参戦した経緯を持つ。
名前はピェスラナ
人間で炎の祭典に参加したのはピェスラナだけではく他にも何名かいたが、生き残ったのはピェスラナただ一人である。
「魔王軍ね・・・」
アリスからの手紙を読みピェスラナは顔を少し曇らせる。
西方地域が少々ざわめいていると感じていたが、よもや魔王軍の侵略とは・・・。
手紙を元あったように折りたたみピェスラナはさっと手を合わせ神に祈る。
アリスからは再び共に戦おうという旨の手紙だ。
【炎の祭典】の時に共闘した事がきっかけで仲間になった経緯がある。
ピェスラナはそれによって生き延びたと言ってよい。
しかし・・・
その戦いの記憶はピェスラナの中に強烈に残っている。
時々フラッシュバックするし、夢にも出てきてうなされる。
あれから随分経つとはいえ、ピェスラナの心の傷は癒えていないのだ。
今は戦えない。
しかし・・・魔王軍を放っておけばいずれはアイスネイルにも戦火は降り注ぐだろう。
「私は・・・どうすれば・・・」
神殿の床にへたり込みピェスラナは泣いた。




