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竜怜のハーフ  作者: ナウ
三章・前半
39/87

【ウィナーとラミア】

「お父様~」


甘えた声で椅子に座っているウィナーにひっついてくるのは娘のシアーナである。


「何だ?、また欲しい物でもあるのか?」


いつものおねだりにウィナーはやれやれといった口調で言う。


父であるウィナーの言葉にシアーナは両腕を父親の首に回し耳元で囁いた。


「うん、シアーナね

また欲しいお洋服があるの~」


その言葉にウィナーは面倒臭そうに答える。


「お母さんに言いなさい」


そのウィナーの言葉にシアーナは頬をプクーと膨らませる。


「だって~、お母様は買ってくれないんだもの」


まぁ、それはそうだな・・・とウィナーは思う。


レイシアは倹約をモットーに色々と生活において無駄と思われるモノを削っていっている。

しかし、王族として一定の金額は入ってくるため別に生活的に厳しいという訳ではない。

だが没落貴族として貧乏暮らしで育ったレイシアは倹約する術を叩き込まれ、それが体に染み込んでいる感じだ。

子供が生まれる前からその兆候はあったが、子供が生まれると途端に倹約ママになった。

だから娘の我が儘は許さないし必要以上のモノは買わない。

王族に連なる者として、恥ずかしくない格好はさせているし、洋服もそれなりに揃えている。

だが、おしゃれに目覚めたシアーナは次から次へと新しい靴や服を欲しがった。


しかし母に言っても無理だし怒られるので、シアーナは父に言ってこっそり買って貰っているのだ。

もっともレイシアにはお見通しで、シアーナに甘いウィナーに小言は言ってくるが。


ただ、ウィナーはシアーナが可愛くて仕方なく、シアーナの我が儘にも笑いながらある程度は聞いてやる。

母さんには内緒だぞ・・・と。

そんな父をシアーナは大好きで、母とは距離を置いているが父にはいつもべったりだ。

逆に母レイシアにべったりなのが長男のマトゥールである。

マトゥールはシアーナの弟で現在は3歳。


炎の祭典から5年

婚約者だったレイシアと結婚したウィナーはレイシアとの間に娘と息子をもうけた。

ウィナーは現在21歳

正直この歳で父親というのは早いという気もするし、シアーナがお腹の中にいる時も生まれた時もその自覚は無かった。

しかし慣れ、色々と世話をしていると自分の子という認識が出来てきた。

同時に父親であるという自覚も。

そして現在子育て奮闘中である。

そうした中、ある日ウィナーは城から呼び出しを受けた。




スゥーー・・・と首を上げ蛇は館の中にウィナーを招き入れ、通路を進んでいく。


蛇、それはまさしく蛇である。

ただし全長がウィナーの倍以上ある巨大な蛇。


彼女はラミアと呼ばれる半人半蛇の生物である・・・筈だが目の前にいるのはどこからどう見てもただのデカい蛇だ。

ウィナーは自分の知識が間違っているのではないかと思った。


床を這い、先をスルスル進んでいく蛇はそんなウィナーの考えなどお構いなしに館の奥にある一室に誘導していく。


「ウィナー様をお連れしました」


蛇は流暢に喋る。

姿は蛇だが声は人間型の女の声だ。

館に入る際もそうだったのだが、言葉を喋れるのを聞くとやはりこの蛇はただの蛇ではなくラミアと呼ばれる蛇なのだろうと実感する。


「どうぞ」


奥から女の声が聞こえて来た。


その声に合わせてスィーーと木製の扉に見えたモノが中央から左右に別れる。

扉には取っ手が無く、どのように開けるのか判らなかったが、どうやら声に反応するようだ。


蛇は入り口の横に体をずらし、ウィナーに中に入るように促した。


「ありがとう」と言い、開いた入り口から室内に入る。

入る際に扉だったモノに触れるとまるでカーテンのように薄く柔らかかった。


中に入ったウィナーは室内を見渡す。


室内の一角のソファーで寝そべっていた巨大な蛇はスッと首を上げウィナーに言う。


「こちらへ」


言われるままにウィナーは近づく。

近づく最中にウィナーは蛇の美しさに驚いた。

全身が真っ白で目が燃えるように赤い。


「遠路はるばるようこそお越し下さいました」


すぐ側まで来たウィナーに白蛇は言う。


「いえ、お招き頂きありがとうございますハシュターリィス様

私はデーモン族の王子ウィナーです」


お辞儀をしハシュターリィスを見る。

間近で見ると更にその美しさは鮮明になり、ウィナーの目を奪う。


「お座り下さい、ウィナー様」


ハシュターリィスは目を細め、ウィナーに言う。


「はい、では失礼致します」


テーブルを挟んで対面にあるソファーに腰掛けるウィナー。


「お疲れになったでしょう?」


「いえ、どうという事はございません」


白蛇の言葉にウィナーは答える。


「ウィナー様」


「はい?」


「事務的な話は明日で宜しいでしょうか?」


「あ・・はい、ハシュターリィス様のご都合の宜しい時間で構いません」


「それは良かったです、では今日はゆるりと旅のお疲れを癒やして下さいませ

ご用があれば彼女に何なりとお申し付け下さい」


スィーッと白蛇が首を向けた先をウィナーが見ると、表面が赤い色の蛇がお辞儀した。




城から呼び出されたウィナーは王代行たるラーダンから、とある取引の為にラミア族が支配する地域『ラミュロス地区』に 行けと指示を受けた。


取引になぜ自分が?・・・とは思ったが、側近であるエミリアの話ではラミア族の長ハシュターリィス直々の指名であるとの事。

何が何やら分からなかったが、王代行の命令と相手からの指名がある以上行かない訳にはいかない。


しかし、ラミュロス地区は国境と接しているとはいえ魔王支配領域外にある。

ラミュロス『地区』とはいえ国土はかなり広く、ラミア自体も怒らせるとまずい勢力だ。

何よりも噂で聞くラミアの生態上、嫌な予感しかしない。


そんなこんなで日数をかけてラミュロス地区に無事に辿り着いたウィナーはラミュロス地区の都たるコブリオンに着き、女王たるハシュターリィスと会う。



「交渉は明日」

という言葉にウィナーは安堵する。

正直、旅の疲れが溜まっていてクタクタだ。

連れて来た数名の部下達も疲労の色は隠せず、ウィナーも心配した。

だが部下の心配をする以前にウィナーも疲労があり、割り当てられた部屋のお風呂に入って水を飲んで・・・眠気を覚えそのままベッドで寝てしまったようだ。


起きると外は真っ暗だった。

部屋の四隅の壁に赤い淡い光を放つ照明灯が掛けられている。


その幻想的に見える光をウィナーはぼんやり見つめ、現在何時なのか懐中時計で時間を確かめてみた。


針は23:00を差していた。

寝たのは確か17:00頃・・・


結構寝てしまっている

魔王支配領域内ならともかく支配領域外の地域で無防備に寝てしまうとは不覚だ。

そう感じたウィナーの耳に不思議な声が聞こえてきた。

それは歌声だ。


意識した訳ではないが、ウィナーは部屋を出て歌声の方に歩いていく。


館の外、声は庭園のような場所から聞こえてくる。


フラフラとふらつく足取りで声に近づいたウィナーは庭園の真ん中にある円池の側で歌う女王ハシュターリィスを見つけた。


ハシュターリィスはウィナーの姿を見て目を少し細める。


「ようこそおいで下さいましたウィナー様、夜の部です」


そこでようやくウィナーはハッキリと目を覚ました。


「ハシュターリィス様!?、ここで何を?」


ウィナーの慌てぶりにハシュターリィスはクスクスと笑む。


「歌を歌っておりました」


「あ・・はい、そうですね

すみません、頭が寝ぼけているようです」


「心配いりません、夜の部は昼の慌ただしさとは違う時間

この時間は全てが昼とは違うのです」


「そ・・そうですか、そう言って頂けると助かります」


暫く沈黙があり、池の噴水の静かな音のみが辺りを支配した。

ややあってハシュターリィスが口を開く。


「ウィナー様」


「はい」


「少しプライベートな話をして宜しいですか?」


「はい」


「お幾つになられるのですか?」


「今年で21歳になります」


「ご結婚は?」


「しております」


「お子様も?」


「はい」


それを聞いてハシュターリィスは悪戯っぽい顔になったが、それは一瞬の事でウィナーは気づかなかった。


「ウィナー様は【炎の祭典】を間近で見られたとか?」


少し赤い目に怪しげな光を灯し、ハシュターリィスは聞く。


「はい、と言っても全体ではなく一部しか見ていませんが・・」


ウィナーの瞳を見ていたハシュターリィスは目を細める。


「何か悲しい事があったのですか?」


「え!?、何故です?」


「ウィナー様の瞳の奥に悲しみの光が見えました」


「ああ、その時に部下を多数亡くしましたので・・」


「まぁ・・そうでしたか

知らぬ事とはいえ、嫌な出来事を掘り起こしてしまってごめんなさいね」


「いえ・・・」


そう言いながらウィナーは何時まででもここにいてはいけない気がした。


「さて、ではそろそろ私は部屋に戻ります」


「そうですか、おやすみなさいウィナー様、よい夢を」


「はい、おやすみなさいハシュターリィス様」


そうしてウィナーは部屋に戻っていった。



後に残されたハシュターリィスは目を細め噴水の池の水を愛おしそうに見つめる・・・と。


「クスクス・・くすくす・・クスクス」


どこからともなく笑い声が聞こえてきた。


「・・・・リベティリィス、エストリアリィス、ジョリアリィス、出てきなさい」


ハシュターリィスが声を出すと、庭園の花々の中に隠れていた蛇がソロソロと出てきた。

三匹はハシュターリィスの娘であり、エキドナ三姉妹と呼ばれている。

その中の長女であるリベティリィスが口を開く。


「お母様、まるで純真な乙女のようでしたわ」


「お黙りなさい」


リベティリィスの言葉にピシャリと言うハシュターリィス。


「ウィナー様って魔族と人間の血を引いているんでしょ?、もの凄く美味しそうな血の匂いがしましたもの」


次女のエストリアリィスは舌をペロペロと出しながら言った。


「ウィナー様はお客様ですよ、何を考えているの?、エストリアリィス」


ハシュターリィスは目を細めて答える。


「でもさ、変化すればウィナー様ってイチコロじゃないかな?

う~ん、私下半身がムズムズしてきた」


三女のジョリアリィスの言葉にハシュターリィスは呆れ顔で言った。


「品がないわよジョリアリィス、いい加減にしなさい」


「は~い」


そう答えると三姉妹はそれぞれの部屋に帰って行く。



「変化をすれば・・・か」


そう呟くとハシュターリィスは噴水の音に耳を傾けながら更に深くなってゆく夜の闇の中に溶け込んでいった。

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