【エルフ界】
聖都ルーエルシオン。
エルフ界の首都にして最大の都市である。
エルフ特有の洗練された建築物は他の精霊達からも憧れの対象として見られている。
しかし画一的とも取れる美意識の中にも個性的な感性は取り入れられ、時として非常にユーモラスな形状の建築物も多々見受けられたりする。
それらは非常に上手く周囲に溶け込んで独特の一体感を伴い、エルフの他の里にはない特殊性を際立たせていた。
ちなみに聖都といわれる理由は3つ。
一つはエルフの女王がいる都である事。
二つ目はエルフの上位種であるハイエルフが住まう都である事。
三つ目は精霊界でも群を抜く最大級の都市である事だ。
ハイエルフとは太古の時代から受け継がれる由緒ある血統のエルフ達であり、ウッドエルフとは違う者達である。
ウッドエルフは弓矢を得意とするが、ハイエルフは魔法を得意とし、ウッドエルフの使っているエルフ語の元となる古代エルフ語たる『ハイエルフ語』を同じハイエルフ同士では使う。
ウッドエルフの始まり・・・
それはハイエルフの男性と当時森の中で狩りをして暮らしていた今では絶滅してしまった『狩人』の女性との恋愛から始まるとされる。
その生まれた子が森林エルフの始祖だ。
やがてフォレストからウッドエルフに名前が変わり、そのウッドからヒューマン、アクア、フェアリー、リトルの亜種に分派していく。
「人間界へ行くと?」
メリーカの言葉にマーギランは頷く。
「情報収集じゃ」
マーギランのその言葉にメリーカは答えた。
「その必要はない、既に人間界に何人か入らせている」
当然とばかりにメリーカは言い、マーギランの反応を見る。
「ほう、人間界には興味はないと思っておったが?」
「・・・人間には興味はないが、魔王軍の出方には興味がある」
「軍の構成や噂の新戦力じゃな?」
「そうだ」
「かなり強力らしいの?」
「少なくとも人間達に勝ち目はないだろうな」
「ふむ・・・実のところは、その人間に力を貸したいのだ」
「力を?、それは何故?」
「儂も年でな、老後をただ座して死を待つよりも何か出来る事をしたいのだ」
マーギランの言葉にメリーカは側にいるポリーニと顔を見合わせる。
ポリーニはメリーカの側近として5年程前からメリーカの側にいるハイエルフの女性である。
メリーカも後継者を考えなくてはならない年齢にあり、現在目を掛けているのがこのポリーニだ。
年齢は20歳。
丁度アンデッド戦争が起こった年に生まれた。
女王位は世襲制ではく、上位の役職ある者の中で相応しいとされる者がなる。
院の会議によって選ばれるためにポリーニが女王に就けるかどうかは微妙だ。
だが少なくともメリーカが育てているというスタイルは皆に見せる必要があり、後継者を選ぶ際に最有力となるためこういう形を取っているのだ。
「マーギラン殿はお一人で人間界に?」
ポリーニの言葉にマーギランは少し間を置き答える。
「もちろん、儂1人じゃ」
「・・・そうですか」
ポリーニは表情を変えずにメリーカを見た。
マーギランの僅かな沈黙。
それは即ち同行者がいる事を暗に示している。
メリーカは少し考え、口を開いた。
「相分かった、好きにされよ」
その言葉にマーギランは少し緊張を解し、にこやかに笑む。
「・・・ただし」
「ん?」
「生きて帰ってこられよ、叔父上殿」
「・・・そうじゃな」
マーギランは一礼し、謁見の間から出て行った。
「・・・同行者は誰でございましょうか?」
マーギランの姿と足音が消えてからポリーニはメリーカに聞く。
「さてな、もっともエルフ界で人間界に行きたがる物好きは限れているが」
「エルフではないかも知れません」
「可能性はなくはない、しかしまぁ・・・」
「はい」
「ポリーニは誰だと思う?」
メリーカに聞かれ片目を閉じて少し考えるポリーニ。
そして答えた。
「かの竜族とエルフのハーフの者の可能性が・・・名前は・・・」
「ルセルだな」
メリーカはそう言い苦笑する。
「確かに可能性はあるな」
「しかし女王様、彼の者に勝手な行動をされては・・・」
「マーギランの話では1人で人間界に向かうとの事だ
同行者はいない、現時点ではな」
「はい」
「マーギランに勝手について行くのはその者の勝手であってマーギランに責任はない」
「はい」
「何より、ルセルが同行者とは限らない」
「はい」
「同行者がいたとして報告を受けていない以上、私達は何も知らない・・・という事だ、ポリーニ」
「はい、しかし」
「ん?」
「可能性の問題ですが、シルティア代行には一応可能性をお伝えしておくべきでは?」
「・・・だな、竜族の王子を放置して何かあってからでは遅いからな
ポリーニ、筆と紙を持て」
「はい!」
メリーカの言葉にポリーニは謁見の間から静かに出て行った。
「困ったものだな」
ルセルが人間界に行く理由についてメリーカは考えた。
それは幾つかあろう。
好奇心や冒険心。
そして・・・
「あの者との約束か・・・」
そう呟くとメリーカは目を伏せた。
パチ・・パチパチ・・パチチ・・チ・・
焚き火にて小枝の燃える音が小気味よい音を発する。
ルーネメシスのノートン自宅の庭にて穴を掘りゴミを焼いていたノートンとガルボはその熱を利用して芋も焼いていた。
丁度そんな時にルセルは帰ってきた。
「お、帰ってきたかルセル」
「あ!、ガルボさん
来てたんだ!!」
「おう」
ガルボはルセルの姿を見て笑う。
「やっぱり良いな、ルーエルシオンから僅かな時間で帰ってこれるってのは」
「あはは」
「聞いたぞ、人間界に行くって」
「え~、もう知られているんだ」
「まあな、しっかし人間界かぁ~懐かしいな」
「ガルボさん、行ったことあるの?」
「ああ、昔な・・ポピーラに引っ張られて旅行に行ったことがあった」
「へ~、どんな感じだった?」
「ん~、何と言うか・・・エルフ界より全てが遅れている世界だなぁ
とんでもない田舎だった」
「田舎なんだ・・・でも国とかあるんでしょ?」
「国なぁ・・・あるけど一国当たりの人口は少ない
一つの国がエルフの里レベルだ」
「え・・・」
ガルボの言葉にルセルの顔は引きつった。
「多分、お前が想像しているのとは全然違うぞ」
「そうかぁ~、そんなんなんだ」
「とは言えあれから暫く経つから少しはマシになってるかも知れないが」
「かなぁ~」
そんなルセルとガルボの会話にノートンが間に入る。
「一応女王様に手紙を出しといたぞ、届くのは明後日だろうな」
「うん、時間差だね」
「それで、いつ発つんだ?」
「明日の朝だよ、マーギランさんとカフェで合流して行ってくる」
「そうか」
「うん」
「ちなみに母さんにも手紙は送っといたぞ」
「え・・・う、う~ん」
ノートンの言葉にルセルは困ったような顔をする。
そんなルセルを見てガルボは笑った。
「ははは、竜騎士が嫌なんだろ」
そのガルボの言葉にルセルはますます困った顔になる。
今回の件は竜界とは関係ない人間界の話であるために竜騎士達の護衛は必要ない。
しかし、母は竜騎士を寄越してくるだろう。
「あ~何だか分かるな、周りに色々といられると鬱陶しいからな」
ガルボの言葉にノートンは苦笑する。
「それは【炎の祭典】の話か?」
「そうそう、ルセルの今回のパターンとは違うがな
こう、何て言うか・・・束縛されて身動きが取れない感じだ」
その言葉にルセルも苦笑する。
「ガルボさんもそうだったんだ!」
「ああ・・・、俺の時はアクアティックエルフの女性部隊さん達だった
それについてポピーラに散々嫌みを言われたがな」
そう言いながらガルボは頭を掻く。
「あはは、そう言えばポピーラさんは?」
「ポピーラならミーナちゃんと一緒に温泉に行ってるよ」
「家にお風呂あるのに・・・」
「広い方がいいらしい、それに肌には温泉の効用が何とかとか言ってた」
「ふ~ん」
ルーエルシオンで完備されていた上下水道の設備は里にも普及しつつあり、それはルーネメシスにも押し寄せてきた。
ノートン家に伸びてきたのは一年前の事だ。
「しかし、ルセル」
「何?、ガルボさん」
「今、人間界は魔王軍と戦争真っ只中だ
油断するんじゃないぞ」
「分かってる」
「うん・・・まぁ、俺から言えるのはそれだけだ」
「うん、大丈夫」
頷くルセルにガルボは苦笑いする。
「場合によってはオークやゾンビが見られるかもな」
「あ・・・」
ノートンの言葉にルセルはその事に気づいた。
「そうかも、スケルトンとか」
「魔王軍の構成は分からないが、オークと戦う時は接近戦は避けて弓矢などの武器が有効だ」
ノートンの言葉にガルボがニヤリとした。
「スケルトンは接近戦だよな?」
当時を思い出しながらガルボはノートンに言う。
それに対してノートンは頷いた。
「ケルトンの人型は弱いけど、動物型は強いんだよね?」
ルセルが子供の頃から聞かされてきた事を口にする。
「だな」
ノートンとガルボ、2人が口を揃えて言った。
「明日は旅立ちかぁ・・」
人間界に行く事はミーナには事前に伝えてある。
心配はしてくれているが、止められる事はなかった。
その点だけでも随分助かる。
ルセルは人間界入りに多少の緊張を感じ、僅かに気持ちを和らげようと腕を組んみながら赤々と燃える焚き火を見つめた。




