【凶炎四天王と封解の儀】
-少し前-
二人の魔術師と幽霊の女と竜が集まり何事か話し合っていた。
竜は火竜のグラードル。
透けた身体に黄色い光を微かに放ち、地から10cmほど宙に浮かぶ女はウォーターシェリーのヴィリア。
白と黒のシマシマローブを着て体を揺すっている男は付与術士のラージュン。
そして炎人形の術士ネイラム。
それぞれが別々の理由で『黒い男』の下に集った。
参加理由は異なるが今現在の共通した目的は一つ【炎の祭典】を制する事。
黒いローブに黒いフードを深々と被った男は各々に指示を出す。
黒い男の話を聞いた火竜は、この場にはもう用なしとばかりに翼を広げ羽ばたき一気に空に舞い上がる。
他のメンバーは竜の羽ばたきによって巻き起こった風に吹き飛ばされそうになり、地に屈み込んで必死に踏ん張る。
唯一、ヴィリアのみは涼しい顔をして火竜を見ていた。
グラードルはメンバーの事など気にする様子も見せず、一声鳴いて彼方に飛び去っていった。
それを見ながらラージュンは感嘆する。
「やべー!!、火竜やべー!!、絶やべーじゃん!!
風すげーじゃん!!、デカいじゃん!!、怖クールじゃん!!」
ラージュンは竜を間近に見た興奮をヴィリアに言う。
「・・・・・」
ヴィリアはラージュンを無視して黒い男に一礼する。
ぽうぅぅ
黄色い光は眩しく輝く。
光は熱を持ちゆらゆら揺れる黄色い炎と化す。
ボウッ!!
黄色い炎を燃え上がらせ、炎に包まれたヴィリアは炎と輝く光と共にその場から消え去った。
「うぇーい!!、黄色い炎じゃーん、すげーじゃん!!、無視じゃーーん!!、ガン無視じゃーーん!!、超クールじゃん!!」
くねくねと踊りながらラージュンはノリにノリまくる。
「うるさい!!、何踊ってんだ」
ラージュンの言葉と踊りにネイラムは苛立ち突っ込みを入れた。
「いぇい!!、いぇい!!、あんたもいぇーい!!」
「お前・・・馬鹿じゃないのか?」
「うぇい!!、やぇい!!、馬鹿さあ~、変なのさ~!!
とぇい!!、ほぇい!!、それが人生まっしぐら~!!」
歌い始めるラージュンにネイラムは顔を引きつらせる。
「相手にしていられん、俺はもう行く!!」
そう言うとネイラムは指を動かし宙に文字を描く。
ピュイィィィィィ!!!!!!!!
周囲に結構大きな不快音が轟く。
暫くして、黒い物体が上空から現れネイラムの前に着地した。
黒曜石を思わせる表面が硬質で黒い色艶で鳥の形をした物体。
ゴーレムのバードタイプ。
飛行急襲用ゴーレム【GN-03】だ。
ネイラムはバードゴーレムの背に乗る。
フォン!!
バードゴーレムは浮き上がりネイラムを乗せて上空高くまで上昇し、そのまま彼方へ飛び去った。
「バリすげー!!、ゴーレムすげー!!、技術力すげー!!」
手を叩いて歓ぶラージュン。
「へい!!、へい!!、他の四天王全員行っちまったよ~い
そい~じゃ~おいら~も~ゴブリンのぉ~住み家にぃ~いってぇ~のぉ~火を~貸してぇ~手下にぃ~~」
「早く行け!!」
黒い男の指から放たれた黒い炎がラージュンの尻に直撃した。
「ぎゃあぁぁぁぁ~~~~!!
あっちぃーーーの!!、ひっでぇ~のぉ~~~!!」
炎を尻に受けたラージュンは飛び上がり、クルクル回転しながら自分の馬を待たせてある場所まで去っていった。
「・・・・・」
二人と一匹と一霊が去り、その場には黒い男のみが残された。
グラードルは風界へ。
ヴィリアは水界へ。
ネイラムは土界へ。
馬鹿は手下作りにゴブリン界を経由して火界へ。
それを見届け黒い男は顎に手を当てる。
「手始めの殺戮と混乱と破壊、それを持って【炎の祭典】の開幕としてくれる」
黒い男は僅かに口元を綻ばす。
男の名はフレティス。
魔族にして【グランドマスター】と称されている黒い炎を使う魔術師である。
-現在-
「はい、これで封印は解かれたわ」
ルセルの右手首と左手首にそれぞれ括りつけてあった見えない糸を解きエルナーは言う。
「う~ん・・」
唸るルセルにエルナーは指につまんでいる糸を呪文で消し去りながら、尋ねる。
「どうかしましたか?」
「竜の封印・・て、解かれたんだよね?」
「そうですよ?」
「何か・・実感がないんだけど」
「ああ・・」
エルナーはルセルの言葉に笑む。
「長い間封印されていましたので、本来の力を感じるのが鈍くなっているのでしょう」
「そうなの?」
「はい、意識出来るのは暫く時間がかかります」
「う~ん、そんなモノなのかぁ」
「はい、そんなモノです」
「竜に変身出来るかなぁ~?」
「訓練すれば勿論出来ますよ」
ガチャッ
ルセルとエルナーの部屋にミーナがティーカップとポットを乗せた器を持って入ってきた。
続いてノートンが入ってくる。
「成功しましたわ、ノートン様」
「そ・・そうですか・・」
そう言うとノートンはポリポリと頭を掻く。
ミーナは器をテーブルに置き、にこやかに微笑んだ。
「おめでとうございます、ルセル様」
「あ・・ありがとう」
ミーナの微笑みに照れながら答えるルセル。
火竜との交戦後、竜化したケイヤの持つ乗り物にルセル達は乗ってルーエルシオンに向かった。
ミーナとエルナーは別行動を取り、シルフ界に報告に向かう。
ルーエルシオンに着いたルセル達は大怪我を負ったエルフ達を病院に運び込み、その足で女王メリーカに報告に行った。
「そうか・・、怪我をした者達は心配だが取りあえずはご苦労だった」
メリーカの言葉に皆が頷く。
「時に女王陛下」
ケイヤが口を開く。
今回の件、竜界の問題もあり竜王様やシルティア様に代わってお詫び致します。
ケイヤの言葉にメリーカは手で制し答えた。
「ああ、それに関しては後ほどお窺いしたい
ケイヤ殿、お時間は貰えるかな?」
「勿論でございす、女王陛下」
そうしたやり取りがあり、ケイヤを残して一旦城から出たルセル達は用意された宿泊施設に赴き旅の疲れを癒やした。
「シンノルさん達、大丈夫かなぁ~」
お風呂に入り休憩の間でくつろいでいたルセルは同じくお風呂に入り休憩の間でのびのびとくつろいでいたケットシーに話しかける。
「うにゃ~、応急処置が迅速で適切だったからねぇ
容態が急変しない限りは大丈夫にゃ~」
「そ・・そうだよね、うん」
「そうそう、大丈夫だみゃん」
「でもさぁ」
「んゃ!?」
「火竜は僕を狙ってきたんだよね?、僕がいなければシンノルさん達は大怪我をしなくて済んだ筈なんだ」
ルセルはぐっと拳を握りしめる。
「ああ・・その事なんだけれどね」
ケットシーは伸びた身体を正し、真面目な顔になって答えた。
「多分、ルセル君がルーネメシスに居たらもっと犠牲が出てただろうねぇ」
「え!?」
「ルセル君の家もお父さんもお祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、周りの家々も隣人さん達も・・・火竜にやられていた可能性は高いよ」
「そんな・・・」
ケットシーも一時的にルセルをエルフ界から出した事を悔やんだが、考えてもみれば火竜の目的がルセルなら火竜はルーネメシスを急襲しただろう。
その場合、犠牲は多大になっていた筈だ。
ルセルを急襲した場所が周りに何もない平野だった事と、少人数だった事によりむしろ最小限の犠牲で済んだ。
それは竜騎士二人がルーネメシスでルセルを火竜から護りながら戦ったとしても、火竜の炎によってかなりの犠牲者が出ただろう事からケットシーの働いた勘は正しかったと思われる。
「だだね・・それでも自分に納得出来ないなら強くなりなさいルセル、火竜を倒せるぐらいに」
「うん・・」
今のケットシーにはこれぐらいしか言えない。
「火竜がなぜルセル君を狙ったかはケイヤさんが知ってるだろうから城から帰ってきたら聞いてみなさい」
「うん・・・そうだね」
顔をゴシゴシと手でこすり、パンッと頬を両手で叩く。
「うん!!、強くなるよ!!
火竜を倒せるぐらいに!!」
そんなルセルを見て、ケットシーは強いな~と思う。
本来なら火竜は自分達大人が倒さなければならなかった。
結局は力が足りないのは自分達の方なのだ。
ケットシーはルセルの言葉に泣きそうになった。
その後、城から帰ってきたケイヤと共に宿泊施設で色々話をして一泊し、翌日ルセルとケットシーと水馬と若い竜騎士二人とでルーネメシスに帰る事になる。
ちなみに他の竜騎士達は封印した火竜の石を持って竜界に帰っていった。
ルーネメシスにたどり着いたルセル達は一路ルセルの家に赴き、旅の一部始終をノートン達に語る。
そうこうしている間にエルナーやミーナもルーネメシスに到着しダイナハーブの家族は当初の予定の通り、ノートンとルセルの両方と顔をあわせる事になった。
今回精霊界に来たダイナハーブ家の目的は幾つかある。
メインは火竜の捕獲。
その他にルセルの封印された力の解除がある。
エルフ界で育てる事をノートンと決めていたシルティアは、産まれたルセルの竜としての力を封印した。
何故ならば、ルセルは竜の姿で誕生したからだ。
正確にはルセルの中にあるエルフの姿や力を引き出し、竜の力を代わりに封印したのだ。
ルセルがキチンと竜の力を扱える年齢に達するまで。
封印に当たったのはダイナハーブ家の当時の当主であるロザリナ・ダイナハーブ。
エルナーの母である。
本来ならば封印を施したロザリナが封印を解くのが普通なのだが、既に当主ではない事と体調不良の為にエルナーが封解をする事になった。
封解については2日要したが、無事にルセルの竜の封印は解かれた。
後はルセルが時間を掛けてコントロール出来るようになれば良い。
そして・・・
「結婚?」
ノートンは目を丸くした。
「???」
ルセルは良く分かっていない。
「はい、我がダイナハーブ家の娘であるミーナとルセル様との結婚を前提としたお付き合いをノートン様に認めて頂きたいのです」
「あ~・・えっと・・・ええ!?」
ノートンに取ってルセルはまだまだ子供である。
そんなルセルの結婚とは・・。
「し・・シルティアは何と?」
ノートンの驚きと動揺にルセルの祖父アリントンは笑いを必死で堪える。
そんなアリントンの腕を小突くルセルの祖母。
「シルティア様はご賛成です、竜王様と王妃様も・・
ただ、ノートン様とルセル様に同意して頂く事が第一条件として提示されましたが」
「えっと・・う・・う~ん・・」
何と言っていいのか分からないノートン。
「勿論、答えは今直ぐでなくても構いません
認めて頂いたとしても、二人ともまだ未成年ですので結婚はずっと先の話になりますし」
「あ・・ああ・・だね・・しかし・・」
そんなノートンのしどろもどろさにアリントンはとうとう大爆笑した。
状況がよくわからないルセルは椅子に座っていたミーナを見る。
目が合ったミーナは恥ずかしそうにうつむき、顔を真っ赤にした。




