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竜怜のハーフ  作者: ナウ
二章・炎の祭典
35/88

【青い炎の魔女参戦】

高い塔の上階。

その上階の一角にある部屋で黒い男フレティスは机に向かい、いくつかの本を広げ色々と書き留めていた。

来るべき【炎の祭典】の本戦に向けての準備。

過去のそれ等に関する文献を読みあさり重要と思われる部分を書き留める。


「やがて・・と言っても近い内に世界中の炎の使い手がここ精霊界に集結してくるだろう、四天王共を使い自分が炎の祭典を制してくれるわ」


その自信はある。

伊達に魔界で黒い炎の魔術師と呼ばれてはいない。



コツン・・コツン・・コツン・・コツン・・


下から足音が聞こえてきた。


「?」


フレティスは訝む。

足音から人型なのは判る。

しかしこんな僻地の場所にある塔に登ってくる者とは・・。


コツン・・コツン・・コツン・・コツン・・


足音は下から上に。

徐々に音は大きくなる。


「何者だ?」


フレティスは訝りながらも机からは離れない。

何者かは知らないが、それに構っている暇はない。

今は【炎の祭典】の情報の方が大事だ。


コツン・・コツン・・コツン・・コツン・・


カツンッ


足音はフレティスのいる部屋の前で止まる。


コンコン・・・


扉をノックする音。


「入れ」


フレティスがぶっきらぼうに言う。


ゴゴン・・・


扉はさして大きくはないが、鉄製のため開けば大きな音がする。

ついでに反響も辺りに響く。


そして入ってきたのは灰色のローブを着てフードを深く被った人型の者。

それは部屋に入り、少しフレティスに近づいたあと足を止めた。


「アナタがフレティス?」


その声は女の声である。


「何だお前は?」


「青い炎の魔女と言えば判るかしら?」


その言葉にフレティスは目を細める。


「青い炎の魔女?・・まさか・・」


女は少しフードから出ている口元に不敵な笑みを浮かべた。

そんな女にフレティスは眉をひそめる。


「お前までが【炎の祭典】に参加してくるとはな・・いや、必然か」


「私は興味ないんだけれどね、依頼主がどうしてもって言うからね」


「なに?、雇われか?、お前を雇える程とはな・・何者だ?」


「言うわけないでしょ、守秘義務よ」


「そうか・・・まあ良い

どうだ?、その依頼主の倍出そう

私の下で仕事をする気はないか?、お前なら歓迎だ」


「・・魅力的な提案だけど、駄目よ」


「何?、ならば更に倍だ!!」


そのフレティスの言葉に青い魔女は答える。


「0にいくら掛けてみても0は0よ」


「なに、それはどういう事だ?」


「世の中はお金だけじゃないって事ね」


「金ではないと?、金の亡者と噂の高い魔女が笑わせる

ならば何だと言うのだ」


暫く間を置いて魔女は答えた。


「愛よ」


それを聞いてフレティスは笑う。


「愛だと?、笑止!!」


「まぁ、アナタには分からないでしょうね」


フレティスの言葉に魔女は鼻で笑う。


「ではまた会いましょう、アナタの雇った四天王軍団が生き残っていればね」


ボウン!!


青い炎が吹き出し魔女を包む。


フレティスは椅子から立ち上がる。

しかし目の前で燃えている炎から熱は感じない。


「目くらましか!!」


フッ


魔女を包みこみ荒れ狂う激しい青い炎が一瞬で消えた。

そしてそこには誰もいない。


「ふむ・・・」


フレティスは目を細め、青い魔女の参戦にギリッと歯軋りした






「ふ~ん、犬達にボコられたの?」


アリスはシマシマのローブを着た付与術士エンチャンターと名乗る男に聞く。


「犬じゃねぇ~よ、精霊番犬クーシーだよ~ん

クーシーと狼わぁ~、強いんだったぜぇい」


ラージュンという名前のこの男。

【炎の祭典】の為に魔界からやってきた魔術士らしい。

炎の魔法を相手に付与出来る付与魔術士。

それを持ってゴブリン達を手下に加えたまでは良かったが、精霊番犬クーシー達の襲撃にあってあえなく手下ゴブリンは全滅し、火界に向けて命からがら逃げてきたようだ。



ルーダークエピアに滞在していたアリス。

そのアリスを迎えにきたのは部下を連れたウィナーだった。


「ウィナーが来るなんてね」


呆れ顔で言うアリスにウィナーは苦笑した。


アリスとウィナー。

本来は叔母と甥に当たる二人だが年齢が同じという事もあり、ウィナーはアリスを姉さんと呼びアリスはウィナーを実の弟のように可愛がっている。

二人は姉弟でもあり友達でもある関係だ。



アリスがエルフ界で消息不明になった・・・との事で、ウィナーは魔王に呼ばれ城に赴いた。

内容はエルフ界に乗り込みアリスの生死の確認及び生きていれば救出をする事。

もとよりアリス救出を考えていたウィナーだから望む所ではある。


最初魔王が指示したのは息子達の誰かに救出作戦を指揮させる事であった。

その中で何故ウィナーが選ばれたのか?。

それはアリスに最も近い位置にいるからだ。


アリス救出には危険が伴う。

人間の血を引くアリスを救出するために、魔族の王子達を危険には曝せない・・・というそれぞれの母親達や重臣達からの意見が多かった。

何よりも救出以前にその生死も判らないのだから話にならない・・・と。

その結果同じ人間の血を引くウィナーがエルフ界に行く事に決定したのだ。


もっとも魔王からすれば、想定の範囲内だ。

自分に似て女好きだが、それだけしか脳が無い無能なボンクラ息子達ではエルフ界に行っても何の役に立たない事は分かっている。

下手をすればあっさりエルフ共に捕まり状況を更に悪化させかねない。


正直、救出は別に王子達である必要性はなく、魔王直属の部下達でもよいのだが、敢えて王子達の中からと限定したのは王位継承を見据えての事だ。


傍若無人に振る舞ってきた魔王も最近は衰えを感じ始めてきた。

年には敵わない。

王子達も大きくなり、上の息子達は大人になった。

そろそろ魔王も後継者を真剣に考えなければならない時期に来ている。


魔王が見た所、息子達の中で目を引くのはウィナーとバルダムだ。

しかし問題がある。

ウィナーは人間の血が混じった王子であり、バルダムはまだ子供だ。


「ウィナーの魔力・・・か」


ウィナーが自分に匹敵する魔力の持ち主なのはウィナーが城に来た子供の頃に知っている。


しかしそれ以来、たまに顔を合わせる程度で特に深く接する事はなく全てはプリーカナに任せていた。

だから正確な実力の程が分からない。

あれからどれ程まで成長したのか・・・。

という一種の期待のようなモノがある。


「問題は山積みだ、しかし・・・」


他の王子達が進んで立候補しなかった今、魔王は今回の件でウィナーの実力の程を見る絶好の機会だと感じた。

そして後継者として相応しいか見極めたいと・・・。


そうした魔王の思惑を余所に、アリスが飛ばした使い魔を捕獲したウィナーは無事ルーダークエピアでアリスと合流出来た・・・が。


ウィナー達と合流したアリスはその足で魔界には帰らなかった。

アリスが火蜥蜴サラマンダーの故郷たる火界に観光に行きたいと駄々をこねたからだ。

仕方がなくウィナーは部下をルーダークエピアに置いてアリスと共に火界に足を向ける。

その道中に見つけたのがこの男、ラージュンだ。


色々話をしていくと、【炎の祭典】や【四天王】と呼ばれる連中の話や【黒い男】の話が飛び出し意外と面白かった。


「黒い男ねぇ・・黒い炎の魔術士はフレティスって言うのがいるけどそれかな?」


ウィナーはラージュンの話から黒い男の正体について当たりを付けた。


アリスはサラマンダーの体を撫でながらウィナーの目を見る。


「さぁ?、誰それ?」


そのウィナーとアリスの話にラージュンが間に入る。


「なんだ、フレティスさん知ってんのか~い」


「・・・やはりフレティスか」


ラージュンの言葉にウィナーが顔を曇らせる。


「知ってるの?、ウィナー」


「・・・ああ、直接合った事はないけど評判は良くないな」


「ふ~ん・・ま、どうせ魔王支配領域外の奴だろうからどうでもいいけどね」


「ちょ・・ちょっと待てよん」


ウィナーとアリスの会話にラージュンが割って入る。


「何でそんな事知ってんだい?、もしや君たちはタダ者じゃないとかいう感じ?」


「そそ、そんな感じ

私は魔王の娘でそっちは魔王の息子よ」


「どしぇえ!!、そりゃ凄えーー!!、超凄えじゃん!!

何てこった!!、娘と息子って事は王女と王子って洒落込んでる感じじゃないかい!!」


「そう、だから魔界については少しは知っている気配よ」


「なるほどなるほど」


納得するラージュン。

そんなラージュンにアリスは聞いた。


「で、アナタはどうするの?」


「うん?、何が?」


「手下集めに失敗したんでしょ?」


「そう!、その通~り!!

また1から別のゴブリン達を手下にぃしないとぉ~」


「・・・あのさ」


「うん?」


「別にゴブリンでなくても良くない?」


「・・・あ」


アリスの言葉を聞いてラージュンはポンと手を打つ。


「そうじゃん!、あんた天才じゃん!!

ゴブリンでなくてもいいって!!、確かに!!

さすがはお姫様じゃーーん!!、すげー賢いじゃん!!

キレキレじゃん!!、最強じゃん!!、最強無敵じゃん!!」


「・・・いや」


小躍りするラージュンにアリスの顔は引きつる。

賢いと言われてこれ程嬉しくなかった事はない。


「じゃあ、今度はコボルトで!!」


ラージュンの言葉にウィナーは顔を引きつらせた。

いや、どうせならもうちょっと強い奴にしろよ・・・と思ったがあえて口には出さなかった。


「ま、何にせよ暫くは精霊界に留まる事になるわね」


「え?」


アリスの言葉にウィナーは聞き間違ったのではないかと思い、アリスの顔を見る。

ウィナーの言いたい事は言葉でなくとも判るが、アリスは引き下がる気はない。


「だってそうでしょ?、1000年に一度起こる【炎の祭典】を間近で見られるなんて凄いじゃない?」


「まぁ、そうかも知れないけど・・・」


「けど?」


「早く帰らないと魔王が苛立つかも?、連れてきた部下達も待たせてあるし」


「苛立たせれば良いし、待たせておけばいいわ」


「う~・・・」


ウィナーは苦笑いする。

姉は言ったら聞かない・・・その性格は知っている。


そんなやり取りをアリスの肩に乗っていたサラマンダーは無表情な顔で見続ける。

しかしその目には炎のような赤い輝きが灯っていた。

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