【火竜急襲】
「人間の血が混じっているな」
会って第一声がそれであった。
尋問室のような部屋に連れて行かれたアリスはそこで女王メリーカと対面した。
人間の血が入っていると言われたアリスは内心驚いたが、表情や態度には出さずに小首を捻り嫌そうな顔で答えた。
「人間の血?、そんな穢らしい血など入ってはいないわ」
あくまで魔族らしい言葉を吐くアリス。
しかし、それを聞いたメリーカは目を細めた。
「ああ・・そういうのはいい、やりたければ他所でやれ」
「どういう事?」
訝しむアリスにメリーカは言う。
「私はオーラの様なモノが見える、お前からは魔族と人間のオーラが交わった感じのオーラが出ているのだ」
「なにそれ?、魔法?」
「いや・・魔法ではない、違う何かだ」
「・・・・・」
メリーカの言葉に何をどう言っていいのやら分からないアリスに構わず話を続ける女王。
「エルフ界に侵入したグループのリーダーはお前だろ?」
それを聞いたアリスは顔を曇らせ言い放つ。
「馬鹿馬鹿しい!!、そんな訳ないでしょ!!
大体まだ16の私がリーダー役で年上を率いて乗り込むなんて無茶な話があるか!!」
怒ったフリをして乱暴な言葉を女王にぶつける。
しかしメリーカは冷静に口を開く。
「お前、アリスだろ?」
「・・・・え!?」
名乗った覚えはない。
もし漏れたとすれば捕まった部下が漏らしたか・・・と舌打ちをしたくなった。
「ああ・・・心配しなくとも、もう一人は口を割っていない
と言うか、まだあちらは取り調べしていないからな」
「・・・私の名前がアリスだと何故思ったの?」
そのアリスの言葉にメリーカは髪を掻き上げた。
「魔族で人間の混血・・確かに人間の女達は15年以上前に大量に連れ去られ、ハーフも多く生まれているようだな
しかし強力な魔力の持ち主で、しかも統率力を持っているとするならば限られてくる」
「・・・なに?」
「魔王の娘で、母親は人間界の王妃だった女性」
「・・・それで?」
「2年前に人間界で勇者刈りを行った魔界の王女、その名前はアリスだ」
メリーカのその言葉にアリスは2年前のその当時の事が目の前に浮かんだ。
「勇者」と呼ばれる彼ら冒険者6人は家族共々捕らえられ魔界に送られる事になった。
アリスは旅行気分で来ていたので、6人が捕まった後も色々見て回りたかったが、王女一人で単独行動はさせられないと言われる。
そこを何とかと頼み込み、魔界に帰るのを延期させたアリスは単独で自分と縁が深いアウランズ王国に向かった。
そのアウランズの都は一面廃墟かと思わせたが、城下町には人々が改装しながら住んでいた。
どうやら元々住んでいたアウランズ王国の人々ではなく、滅びてから住み着いたようだ。
しかしそれらの居住域は一部であり半分以上は廃墟であり、そして城には誰も近づかない。
城に近づかない理由を聞くと、「城には亡霊がでるから」との事だった。
「亡霊ねぇ・・」
移住者が恐怖するその亡霊とやらが見たくなったアリスは一路城に向かう・・・。
そして・・・。
アリスはハッとして過去の回想から元の今に戻る。
こんな事は初めてだ。
そんなアリスをメリーカはジッと見つめていた。
取りあえず何かを言わなければならないと感じ、アリスは絞り出すように声を発した。
「・・・なぜそれを貴女が?」
「魔界の情報をもたらす者がいる
その者から色々と魔界の動きについて聞いているからだ」
「情報を漏らしてがいる者がいるなんてね」
「心配しなくとも魔王の配下ではない」
「・・・支配領域外の者共ね」
「そうだ、もっとも高額の情報料を取られているがね」
その部分は苦笑して答えるメリーカ。
「・・・で、私がそのアリスだったらどうだって言うの?」
「アリスだろ?」
「そうよ」
「興味があってな、話が出来るなら話をしてみたいと思っていたのだ」
「何の話?」
「色々とな
で、単刀直入に言うが取引をしないか?」
「何の取引よ」
「自由にする・・・といってもエルフ界からは出てもらうが」
「その代わり情報を寄越せ・・・て事?」
「そうだ、察しが良いな」
「今、情報がどうのと言ってたからね」
そのアリスの言葉に笑むメリーカ。
どうにもペースを狂わされるが、取りあえず自由になるには取引に応じるしか手はなさそうだ。
見たところ信用できそうなので約束を反故にはするまい。
「判ったわ、取引に応じるわ」
「そうか」
メリーカがそう言うと尋問室の扉が開く。
「ここは狭い、部屋を移ろう」
そう言うとメリーカは部屋を出た。
それは突然襲ってきた。
不死鳥を無事目的地まで送り届けたルセル達はあと少しでエルフ界という場所で火竜の襲撃に合った。
敵は火竜だけではなく、小竜に乗った竜騎士も現れ攻撃を仕掛けてきたのだ。
「火竜と竜騎士ね、これはちと厄介にゃ~」
急襲に慌てつつ素早く戦闘体制を整えたエルフ6人と水馬を見ながら黒猫は呟いた。
ルセルはあたふたしながらエルフ達の後ろに控える。
「お前たちに用はない、用があるのは後ろの小僧だ」
少竜は静かに地に降り、背に乗っていた竜騎士が声を放つ。
「ルセル坊やかい?
何の用だか知らないけれど、ロクな用事じゃなさそうだね」
竜騎士の声にケットシーは答え人型に変化し身構える。
そのケットシーに竜騎士は怒りの表示を見せた。
「ゴミが!!、ならば小僧もろとも死ね!!」
小竜は羽ばたき一気にケットシーに向かって飛ぶ。
背に乗っている竜騎士は剣を抜いた。
ドボオォォォォーーーーーー!!!!
小竜と竜騎士に集中していたエルフ達に火竜は炎を浴びせる。
じぃぃぃぃーーーーん
一瞬早く魔法のバリヤがケットシーやエルフ達を包む。
ケットシーが素早く掛けた炎からの防御魔法が間一髪間に合った。
が、小竜の体当たりで吹っ飛ばされるケットシー達。
ザグッ
小竜の爪がエルフの一人の脇腹に突き刺さり悲鳴を上げる。
シュパッ
竜騎士の長剣がエルフの一人の首を切り裂く。
ガブッッ
同時に小竜の牙がエルフの一人を襲い、腕の骨を噛み砕き引きちぎった。
キィィィンッッ
別のエルフが弓を構え竜騎士を狙う。
その放たれた矢をあっさり長剣で弾く竜騎士。
他の二人のエルフによって放たれた矢は火竜の鱗の前に弾かれ地に落ちる。
竜騎士は小竜に合図をし、一旦ケットシー達から離れ口を開いた。
「先ずは三匹、残りは猫に馬にエルフ三匹に・・・王族のガキか」
竜騎士はルセルの方を見てニヤリとする。
見られたルセルは足が竦んで動けない。
「まいったね~、勝てないかも・・・」
ケットシーの言葉に竜騎士は笑う。
「当たり前だ、勝てると思うな」
その言葉にケットシーは目を細める。
エルフの矢は竜や騎士に通じない。
水馬やルセルは戦力外。
・・・せめてノルモンドがいれば多少は違うかもだが、本人の希望で不死鳥の村に置いてきた。
「・・・まいった、詰んだ」
ケットシー自身もまた攻撃能力は高くない。
攻撃の番犬、防御の番猫とはよく言ったモノだ。
それと同時にルセルを連れてきた自身の勘と判断が間違っていた事を悔いた。
火竜達の標的はルセルだ。
エルフ界に居れば違ったかも知れないが、ここではルセルを守る戦力がない。
ルセルも私たちも・・・死ぬ。
そう思った瞬間、火竜の炎が襲う。
炎の魔法防御は健在だが、範囲が狭く一カ所に固まっておかなければならない。
しかし、固まれば小竜と騎士の餌食になる。
かといって火竜の炎を受ければ、それも重度の火傷を負い死ぬ。
どちらにしろ敗北必死である。
小竜は再びケットシー目掛けて突っ込んできた。
「駄目だ・・やられる!!」
ケットシーもエルフもケルピーもルセルも・・・死を覚悟した。
ズバッ
軽い音と共に小竜の首が飛ぶ。
ズザザザーーーー
地に落下し暫く体を引きずった後、眼前で止まった。
プシューッッ
これも軽い音と共に斬られた首から血飛沫が飛び、辺りに飛び散る。
ブオォォーーーンッッ!!
大きな音と風圧が辺りを包む。
巨大な大剣を持った少年がケットシー達の目の前に現れた。
絶命した小竜の背から飛び降りた竜騎士は少年を睨む。
そして剣を構え、少年の次の動きを探る。
ケットシー達は何が何だか分からなかったが、少年が小竜を倒したらしい事は分かった。
そんなケットシーに横から声が掛かる。
「ケットシー様、ルセル様を御守り頂きありがとう御座います」
その声にケットシーは横を見ると、少年と同じく大剣を手にした少女が立っていて、ニコリと笑んだ。
「なん・・なに?」
ケットシーは頭が混乱しかかったが、水馬が口を挟んだ。
「竜騎士だな、敵のほうじゃなくて竜界から派遣されてきた者達だよ、きっと」
「えっと・・ああ・・そうか・・」
頭の中を整理してケットシーはケルピーに頷く。
竜騎士の男と竜騎士だろう少年が対峙している。
しかし火竜はそれには目もくれず空の一点を見つめ咆哮を上げる。
その先には宙に浮く二人の姿があった。
「粗野なる者は唸るしか能がないのかしら?」
エルナーは扇を口元に当て目を細めてそう言った。
火竜を眼下に捉え翼を生やした女2人
エルナーとミーナだ。
「お母様、どうやら目的は一気に片付きそうですわ」
ミーナの目は火竜を捉えておらず、少し離れた場所にいるルセルを捉えていた。
「良かったわね、ミーナ」
「はい、怒っていた自分が非常に愚かに感じます」
「ふふ、ルセル様に会いたかったのですものね」
「はい・・、こんなに間近におられるとドキドキしてしまいます」
「それではあの者を素早く封じてしまいますよ、ミーナ」
「はい、お母様!!」
ルセルから火竜に目を移したミーナは手に持った杖の先端にはめ込まれた緑の宝玉に触れた。




