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竜怜のハーフ  作者: ナウ
二章・炎の祭典
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【竜界と魔界の動き】

ポフン・・ポフン・・ポフン・・


極力足に負担がかからない様に、靴の内底が非常に柔らかい素材で出来たブーツを履いて歩くミーナ。


直立二足歩行は馴れない為に体に大きく負担が掛かる。

そんなミーナを横目にエルナーは白金が散りばめられた扇を口元に当て、シルフ界代表たるモノフォーンが待つ客室に続く廊下を歩いていた。


ダイナハーブ家。


竜界の中でも封印術を修める家柄で、特に女性に顕れる封印力の強さは皆から知られ尊敬されている。

母であるエルナーの後ろを歩きながらミーナの機嫌は非常に悪かった。


理由は3つ。


一つ目は人間型(ヒューマンタイプ)の変身による直立歩行の移動は劣悪な重労働レベルの疲れを体に強いる。

本来の竜型(ドラゴンタイプ)の方が自然(ナチュラル)であり移動も翼を使っての浮遊や飛行が当たり前で其方の方が遥かに速く移動出来るのだから、人間型が如何に移動に効率が悪いかを改めて感じさせた。


二つ目はシルフ界に入る際に、界境にて竜殺士(ドラゴンスレイヤー)達とイザコザがあった件。

竜を殺す事を生業とする竜殺士は当然ながら竜に取っては有無を言わさず殺しに来る頭のおかしい殺竜鬼どもであり悪党どもである。

今回は事なきを得たが下手をすれば此方に犠牲が出ていたかも知れず、それを考えると少なからず気分は悪い。


3つ目は・・・

王族のシルティア様とエルフの男性の間に生まれたルセルという少年に会うのが後回しになった点。

本来エルフ界に行ってからシルフ界入りする予定だったのだが、シルフ界の代表連中が再三に渡り小五月蝿く言ってきた為にシルフ界行きが優先された。

それがミーナの機嫌を著しく悪くさせた。

そう、前2つの理由なぞ吹っ飛んでしまう程に。


「お母様、モノフォーンという者は王ではないのでしょう?」


ミーナの問いにエルナーは答える。


「そうよ?、シルフ界の代表者ではあるけれど王ではないわね」


頬をプクーっと膨らませて少々怒った口調で聞いてきたミーナに優しく答える。


「代表というのは何ですか?」


「民から投票で選ばれた者ね、選挙というモノよ

数年に一度代表者になりたい者達が複数立候補して、その立候補者達の中で相応しいと思う者を民が選んで代表を決めるの」


「それって・・・数年で国の代表者がコロコロ変わる事もあるって事ですよね?」


「そうね・・・」


「国の王がコロコロ 変わるなんて信じられません」


「まぁ・・・そういった政治体制もあるという事よ

主権は王ではなく民にあるという解釈ね」


そのエルナーの説明を聞いてもイマイチ納得出来ないミーナだった。

もっとも、単に怒りの矛先をシルフ界のシルフ達にぶつけたいだけではあるが。

そんなミーナの態度にエルナーは苦笑しつつ言う。


「シルフの民も多く犠牲が出たようです、モノフォーン代表の立場も汲んであげなさい」


「・・・はい」


エルナーに言われて多少反省するミーナ。

しかし、気分の悪さは依然として残っていた。






「それじゃあ、後は任せたわね」


「・・・はい」


魔王城の一角。

二人の女性がとある一室で職務の引き継ぎをしていた。

二人はディルーとエミリアと言う。


魔王の後宮(ハーレム)を取り仕切るディルーの突然の退任。

後任に選ばれたのは24歳のエミリアであった。


エミリアはハーレムの女の一人であるが皆を引っ張っていくリーダー的素養と事務処理能力、そして色々と内部の事情に長けている事とでディルーの推薦により役に選ばれた。


「私に勤まるでしょうか?」


不安気な表情のエミリアの問いにディルーは笑って答える。


「大丈夫よ~、いつも通りやればいいわ」


「はい、でも・・なぜいきなりお辞めになるのですか?」


「ん~私ももう年だしね~、若い子には敵わないし~」


ディルーは苦笑いし、そう答える。


「でも、まだまだお美しいのに・・」


それはエミリアの本心である。

実年齢と容姿が合っていない人はいる。

ディルーは見た目はまだ20代中頃にしか見えないし、スタイルも他のハーレムにいる子達に引けは取らない。


「そう?、ありがとう

ただね、辞める理由は一つじゃないの

15歳の頃にお城入りして今まで勤めてきたけど別の仕事もやってみたくなってね、長期の旅行もしてみたいし」


「・・そうなんですか、でもディルーさんがいなくなるのは寂しいです」


「私も皆と別れるのは淋しいわ、エミリア・・・」


そう言うとディルーはエミリアの右手にそっと触れ後宮の任を司る指輪をエミリアの人差し指にはめた。




とある塔の一室。

ローブのフードを深々と被った老人は口を開く。


「魔王が再び人間界侵攻をするか・・、懲りん男だな」


老人の言葉に同じくフードを深々と被ったローブの男が答えた。


「以前の侵攻時にはエルフにも人間にも手酷くやられましたからね、また敗北せぬ様に今回は慎重に動くと思われます」


「そういう事ではないわ!!

まぁ、武器屋や防具屋は儲かるがな」


「略奪が成功すれば魔界が潤います」


「ついでに女も手に入る・・・か?」


「はい」


老人の言葉に弟子の男は真面目な顔で答えた。


二人の居る場所は魔界第二の都市ダークマグナドール。

その一角に立つ超高層タワーの上階である。


「今度失敗をすれば退位して貰わねばならんな」


老人の言葉に弟子はピクリと片方の眉を上げる。


「しかしゼルギネスの代わりはおりません、マスター」


「かつては・・・な

今はゼルギネスの息子がおるではないか」


「しかしマスター、奴隷商の情報では長兄ゼヴルは人間の奴隷少女に溺れているとか・・とても王の器では・・」


「フン、半人前の癖に女好きだけは父親に似たか

我らがかつての戦争敗北で民の信を失い批判に晒され退位に追い込まれそうになった魔王を擁護して続投させたのもゼルギネスの能力とカリスマ性を見込んでだ

ボンクラのバカ息子に継がせる為ではないわ」


「他の息子達も能力は低いようです

我々商連合が押さなければゼルギネスのアクローメラ家の世襲はもはや無いかと」


弟子の言葉に老人は少し間を置いて答える。


「・・いや・・一人おる・・が、まだ若い

まぁ・・もはや王制でなくともよいがな」


「王制を廃止されるのですか?」


「いや・・もう少し見なければならん、時代がどう動くのか・・・」


老人は白いヒゲを触りながら答えた。



そんな老人と弟子の居るタワーの一階に二人の男女が顔を合わせた。


「おや、アナタがディルーさんですね」


デルロイは通路で一緒になった女性に話しかける。


「え~と・・・デルロイ・・・さん?」


「はいそうです、私がデルロイです」


にこやかな笑みをディルーに返すデルロイ。



喰屍鬼グールのデルロイは15年前の魔王軍のエルフ界侵攻時にグール軍の副長補佐官として戦争に参加した事がある青年だ。

当時はまだ少年であった。


ルーアクシウム戦においてグール軍は壊滅。

全滅する前にグール族の未来を託されたデルロイは戦場から逃がされた。

そして撤退途中だったアトニーノやデュラハン達に助けを求め共にルービアンカを目指したのだ。

しかしルービアンカに戻る途中にルービアンカから来たリシープの使いと接触し、ルービアンカがダークエルフの軍の急襲により落ちた旨の情報がもたらされる。


急遽魔界へ帰還する事になったデルロイは、ダークエルフの魔王軍残党刈りを潜り抜け、魔界へ無事辿り着く事に成功した。


戻ったデルロイはルービアンカから逃げてきていたドルチェと再開し、それぞれの戦いの話しをする。

ルービアンカでも激戦が展開され、傭兵達は勝手に逃げ出すという状況をドルチェは語った。


兵隊を失い周りはダークエルフだらけの中、切り死にを覚悟したドルチェ達だったが・・・。

ゾンビ軍団のリシープが撤退時に放った殿部隊のオークゾンビがダークエルフと抗戦。

肉は腐り、ハエや虫がたかり強烈な腐敗臭を周囲に撒き散らすオークゾンビにダークエルフ達も閉口し攻め倦ねた。

ダークエルフ部隊がオークゾンビに目を奪われ集中している間にドルチェ達はその合間を縫ってルービアンカから離脱できたのだ。


その後、牧場に戻ったデルロイは何時もと変わらず人間飼育に従事する事になる。

そんなデルロイも現在は30歳になり仕事も人間飼育からエウンジークの性奴隷や売春婦の女達が生んだ子供達を売る事業の取締役になっている。



「いや~、名前は存じていましたが、こんな美人なお方だったとは」


「あら嬉しい、でも何も差し上げるモノはなくってよ?」


「いやいや~、本当の事を言ったまでですよ~」


「・・・・・」


デルロイの笑みは目元も笑っているが、決して心から笑んでいる訳ではない事をディルーは気づいた。

むしろ、この男の心は闇に捕らわれていて笑みとは無縁ではないかとさえ感じる。


二人はタワー上階に登り、通路を歩きながら目的の部屋を目指す。


「グール族のデルロイ・・か」


ディルーは一緒に歩いている男の事を考えた。


人間界侵攻の折り、エウンジークから攫ってきた人間を商品として売り飛ばしていた奴隷商の一つである牧場の男。

最近では女奴隷が産み落とした娘達を王侯貴族や富裕層に売っている。

その娘達はSSSと呼ばれ上位階級や富裕層に好まれ購入されている。

ディルーはそうした風潮に少なからず嫌悪感を抱いていた。

正直人間の女などどうでも良いが、それを好む男に対する嫌悪感。


この男はその一翼を担っている男だ・・。

そう考えていたディルーにデルロイが言った。


「着きましたよ」


「ですね・・・」


デルロイは部屋の扉を開け中に入る。

ディルーも続いて部屋に入り扉を閉めた。


部屋の中は広く高級そうな家具が並び、快適な空間が広がっている。


「来たか・・・」


部屋で二人を迎えたのは、ローブのフードを深々と被った二人の男達である。

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