【クレイモア再び】
アリスは捕まった。
ルセルと温泉に入った翌日の朝早く、ルーネメシスを立ちルービアンカに行く途中にエルフの特殊部隊に襲撃されたのだ。
数日間の逃避行の際に部下達は倒れ、最後はアリスと1名の部下のみとなった。
最早これまでと投降したアリスは部下と共にエルフ界の首都ルーエルシオンに運ばれる。
「正直エルフを舐めていたわ」
ルーエルシオンの牢に入れられたアリスは牢越しに立つエルフの女に話しかける。
「なるほど、でしょうね
でなければ、エルフ界に侵入しようとは思わないものね」
少し口元を上げエルフの女はアリスを見下げる。
その見下げる行為にアリスは少しイラッと来た。
だが魔力を封じる特殊牢に収監されている以上、魔法が使えない状況下では如何ともし難い。
しかし反面、この状況を楽しんでいるアリスもいた。
目の前にいるこの女はエルフの上位種とされるハイエルフだ。
15年前の戦争後、数百人のハイエルフ達によってエルフ界全土に結界が張られる事になった。
それは魔族の魔力の波長に反応する結界で、魔族が侵入した際にはそれを探知する魔力探知の役割を担う。
アリス達はそれに引っかかった。
目の前にいるハイエルフの女は丁度その時にその地の結界管理に着任していた管理士だ。
「結界はともかく、特殊部隊まで育成して配備させているなんてね」
アリスの言葉にハイエルフの女は鼻で笑う。
「当たり前よ?、私達は15年前の痛みを忘れない
二度と魔界の者達に好きにはさせないわ」
女の言葉にアリスは笑んだ。
アリスが引き連れて来た部下達は決して弱くはない。
その部下達を次々と倒した特殊部隊の面々はよく訓練されており、実戦においても何ら臆する事なく挑んできた辺り凄いと言わざるを得ない。
正直部下に欲しいぐらいだ。
そしてアリスの興味はエルフ界に大規模な結界を張らせたり、特殊部隊を結成させたりするエルフの女王に注がれた。
世間知らずの指導者でもなく、傀儡の女王でもない。
大胆な対応策で今回見事にアリスを捕獲した手腕は凄いのである。
15年前の戦いでハーフエルフや、あのダークエルフすら動員しての短期決戦は魔界でも評価が高い。
かく言うアリスの父、魔王ゼルギネスもその一件以降エルフの女王には一目置いている。
アリス自体はエルフの女王にさして興味はなく、何故評価が高いのか分からなかった。
そもそも負けたのは魔王軍であり、魔王軍を倒した相手を評価するというおかしな事ではないかと。
しかし実際にその手際の良さを目の当たりにして漸く納得出来た。
あの頭の悪い人間界の人間達とは訳が違う・・と。
「それで?、私はこれからどうなるの?」
アリスは笑みを浮かべながら、ルーエルシオンまで連行してきたこの女に問うた。
「・・・女王陛下が直々にお取り調べされるそうよ」
アリスの余裕すら感じさせる笑みに違和感を感じ、女は眉を寄せながら答える。
「ふ~ん、女王様自らがおいでになるのね」
「ん・・・そうよ、何か?」
それを聞いてアリスの胸は高鳴る。
敵の捕虜となるのは初めての経験であり、かつエルフの女王と話ができるらしいこの状況が非常に楽しい。
正直魔界でぐだぐだと生活している状況よりは今の方が遥かに人間らしく、生きている実感がある。
そして嫌いな父親と顔を合わせるぐらいなら口を割らす為の痛い拷問をされた方がマシなのだ。
「楽しみね」
アリスの高揚した顔に女は顔を引きつらせた。
「そう言えば・・・」
「何か?」
アリスの問いに女は眉を上げる。
「私達がエルフ界に入ったのは直ぐに分かったのよね?」
「そうよ?」
「ならなぜ直ぐに襲撃しなかったの?」
「ああ・・・」
アリスの疑問に女は答える。
「簡単な事よ、アナタ達の正確な人数や能力が分からないから少し様子を見たのよ」
「なるほどね」
それを聞いてアリスは心の中で苦笑し嘲笑する。
そんな事は先ほどの結界の話でピンときた。
しかし聞いた事を正直に答えすぎだ、このバカ女は・・と。
同時に、エルフの女王はこのバカと違って一筋縄ではいかないだろうな・・と。
太古の時代、エルフは長命だった。
正確にはエルフだけではなく様々な生物が長い生命をもっていた。
それは数万年、数十万年、数百万年前に遡る。
今ではその時代を神話の時代と呼ぶ。
遥か昔の話。
神々が存在し彼等が争った時代があり、不死鳥はその戦いの炎から生まれたとされる。
神々の戦争は神々の消滅で終わった。
そして他の弱い生物は呪いによって寿命は縮められ、凡そ100年程しか生きられなくなった・・・と。
黒猫の説明にルセルは「う~ん」と唸る
「昔は皆もっと長生きだったんだ!!」
「そうよん、エルフだと1000歳ぐらい寿命があったらしいにゃん」
「1000歳!!、すごいね!!」
「ふみゃ、凄いのにゃ~
ちなみに、不死鳥の長寿はその時代の名残みたいなモノよん」
そう言うと足で顔を洗う黒猫。
ルーエルシオンを出発したルセル一行は無事不死鳥の目的地に辿り着いた。
途中危険な事は・・・一度だけあった。
と言っても野犬の群れに襲われただけであったが、ルセルに取っては初めての体験であり正直驚き慌てた。
そんなルセルを余所に黒猫やドワーフのノルモンドや護衛のエルフ達によって野犬は蹴散らされる。
特に役に立つ事なく野犬から逃げ回ったルセルは恥ずかしさの余り意気消沈したが、「最初の内はそんなもんだ、場数を踏めば戦えるようになる」というノルモンドの言葉に気分は軽くなり気分を一新して旅を続けた。
そして、その後は大したトラブルもなく目的地である村に到着した。
その村の外れに剣王の墓はあった。
村人達によって管理されているらしく、墓は綺麗な状態に保たれている。
そして村人達はエリナと親しいらしく、到着した時に村長からルセル達は歓迎された。
宴の翌日、エリナと別れたルセル一行はルーエルシオンに帰る帰路についた。
「ねぇ、ケットシーさん」
「んにゃ?」
ルセルの呼びかけに答えるケットシー。
「エリナさんは死んでしまうんだよね?」
その言葉に困惑の顔を浮かべケットシーは言った。
「・・・ん~、正確には一度灰になり復活する・・・んだけどね」
「でも、僕たちの知ってるエリナさんじゃないんだよね?」
「そういう事になるかねぇ~」
「そう思うと悲しくなってくるんだ、折角知り合ったのに・・・」
「んにゃ~、ルセル君
生けとし生ける者は全て死ぬ定めなのにゃ~
エリナさんは500年に渡って生き続けてきたのね
もうそろそろ休ませてあげるのにゃん」
「だよね▪▪▪500年って一口に言っても凄く長い時間だと思う」
「だにゃん、エリナさんが最後に望んだのは愛した彼氏の下で死ぬ事なのだから、消滅してようやく彼氏の元に行けると考えるなら・・・良い事じゃない?」
「そうか・・・うん、そうだよね!!」
ケットシーの言葉に頷くルセル。
そのルセルを見てケットシーは思う。
「・・・エリナさんは無事彼氏の元に行ければ良いと
いや、彼氏が迎えに来てくれる・・・か
それが一番だ」
そんな事を考えながら黒猫は体を丸めて目を瞑った。
ルーネメシスの美術館。
ルーネメシス唯一の美術館であり、観光客が多くなった最近においては訪れる人も増えた。
目玉の一つであるのはクレイモアと呼ばれる剣。
剣匠ドンパク作であり、エルフの女王メリーカが絶賛した両手で持つ大剣である。
そして15年前のアンデッド戦争において、敵の大将であったスペクターのダグバルドを倒し勝利に導いた伝説の剣だ。
戦争以後、クレイモアは美術館に再び納められ展示品として観光客の目を楽しませた。
しかし・・・
「館長!!、大変です!!」
夕刻、館内の巡回を行っていた館員が血相を変えて館長室に飛び込んできた。
館長はそんな館員の慌ただしさに眉間に皺を寄せる。
「何事だ?、騒がしいな」
「は・・はい、それが・・」
言いかけたが言えずにいる館員に館長は口を開く。
「何だ?、言ってみよ」
「そ・・それが・・」
「ん?」
「いえ・・あの・・その・・」
「何なのだ?、それだけでは分からん」
「は・・は、実は・・」
「実は?」
「な・・無くなりました・・」
「ん?、無くなった? 何がだ」
「は・・く・・クレイモアが」
「クレイモア?」
「は・・はい、展示していたクレイモアが忽然と消えました!!」
それを聞いた館長は青ざめた。
「なんだと!?、あれは女王陛下がご絶賛された品!!
無くなったなど責任問題だぞ!!」
「は・・は・・」
館長の立腹に館員は縮こまる。
「いつだ!?、いつから消えたのだ!!」
「一時間程前までは確かに・・」
「くそ、何という事だ!!
無くなったなど前代未聞・・」
そう考えた館長だったが、しかし「まてよ」と思う。
いやいや、待て待て。
同じ事が・・。
そうだ、かつて同じ事があった。
あれは・・。
「館長!!、こんなモノが!!」
別の館員が館長室に駆け込んできた。
手には紙切れを持っている。
「寄越せ!!」
館員からひったくるように紙を取り折り畳まれている紙を開けてみる。
紙には「クレイモアを暫く拝借、ガルボ」と書かれていた。
「ガルボ!!、またあいつか!!」
館長は唸った。
かつて美術館から今回と同じようにクレイモアが無くなった事があった。
持ち出したのはガルボという青年だった。
そしてアンデッド戦争のルーアクシウム戦が始まった。
「・・・・・」
館長は紙を凝視し歯をギリッと噛み締める。
ガルボの事は知っている。
15年前にクレイモアを美術館から盗んだ謝罪の為に訪れたガルボと会った事がある。
だからガルボの人となりは一応把握してはいる。
今回のこの件、あのガルボが再び何の理由も無しにクレイモアを持ち出すとは思えない。
「・・また何かが起こるというのか?」
クシャッ・・・と紙を握りしめ側にいる館員に命ずる。
「この事を里長と女王陛下に報告だ!!」
「は!!」
館長の言葉に館員は返事をし、館長室から飛び出していった。




