【竜殺士と竜騎士】
「火竜はまだ見つからんのか!!」
声に怒気を含ませ、シルフ代表のモノフォーンは問う。
「は、今だ行方が知れません・・・」
そう側近は答える。
「4日経つぞ、追跡隊は無能の集まりか?」
モノフォーンの嫌みにも顔色を変えずに側近は答える。
「いえ、目下全力で探索しております
ただ火竜はシルフ界から出ている可能性も高く、難航しております」
「全力でね・・・」
モノフォーンは側近の言葉に目をつり上げた。
「まったく・・何故私の任期中にこんな事件が起こるのだ」
そのモノフォーンの嘆きに側近はぼそりと呟く。
「日頃の行いが悪いからと存じます」
「なんだと!!」
耳ざとく聞いた側近の言葉にますます目をつり上げるモノフォーン。
「コホン・・・失礼
まったく竜はどうしようもなく愚かな生き物で頭がカラッポでございますね」
「うむ、そうだ
図体だけデカくて脳みそは少ない種族だ
で、竜界への苦情はどうなった?」
「は、今だに彼の国から返事はありません」
「現在の代表は王代行の女だったな?」
「竜界の姫君であるシルティア王女でございます」
「王女か、小娘では話にならんな」
「確か今年で35歳になられたと記憶しております」
「私と同い年か!!、最早王女と呼ばれる年齢ではないではないか!!」
「はい、ご結婚なされていると言われておりますので王女と呼ぶのは確かに些か疑問に思いますが、お美しければ何でも有りかと存じます
モノフォーン代表とは違うのです」
「その物言い・・お前は私が嫌いだろ?、絶対そうだ
そうに違いない」
「はい、左様にございます」
「なんだと!!」
「コホン・・・失礼!!
モノフォーン代表こそシルフ界切っての遣り手であり、優れた指導者であると確信しております!!」
「ふん、まあ良い・・しかしこの対応の遅さ
此方は多大な犠牲が出たと言うのに・・やはり女に政治は無理だな」
「エルフの女王陛下は切れ者ともっぱらの噂でございますが」
「うるさい!!、アレは特殊だ!!
よいか、隊長に言っておけ
竜を早急に探し出しさっさと始末せよとな!!」
「畏まりました、しかし・・・」
「しかし・・・何だ?」
「なぜ火竜はカチッティナを攻撃したのでしょうか?」
「・・・それを私に聞くのか?
知るわけがなかろう、竜に聞け」
「は、では生け捕りで宜しいでしょうか?」
「竜を生け捕りに出来るのか?」
「いえ、無理です」
「ならば言うな!!」
「は、畏まりました」
何を畏まったのかイマイチ分からないが、モノフォーンは側近の頭の悪さ加減にウンザリした。
「もう一つですが、モノフォーン代表」
「何だ?」
「戦士達がシルフ界への入国を求めております」
「何だ・・・何者だ、その者達は?」
「は、竜殺士と名乗っております」
「竜殺士?」
「竜を倒す戦士達でございます」
「・・どこから嗅ぎつけたか知らぬがハイエナどもが群がってきたか」
「如何致しましょう?」
「入国など以ての外
氏素性も知れない輩をシルフ界に入れたなど民に知られてみろ、民から責められるのは私だ」
「畏まりました」
側近はそう言うと代表の部屋から退出した。
後に残されたモノフォーンはグラスにワインを注ぐ。
「まったく、無事に任期が終わる筈だったのに・・・
全てぶち壊しだ、アホの竜め!!」
そう罵りワインを一気に飲み干した。
「居ないけど・・・」
ノートンは家に訪ねて来た二人の少年少女を上がらせリビングルームで向かい合っていた。
竜界から来たこの二人。
竜騎士と呼ばれる騎士達である。
年齢はルセルに近そうだが、ルセルよりは少し年上である事は見て分かる。
ノートンの目を引いたのは彼等が携帯している武器であった。
訪問して来た時には自分達の身長近くもある大剣を背中に背負っていた。
室内に入る時に背から外し、今はそれぞれ座っている椅子の横に置いてある。
が、とにかくデカい。
エルフではとてもではないが、持ち上げる事も出来ないだろう。
それを軽々と持つこの二人は異様だ。
どんな筋肉をしているのか・・・。
見た目からはそれだけの筋肉が付いている様には見えないのだが・・・。
ただ、ノートンは以前シルティアから聞いた事がある。
王族を守る守護者たる騎士の存在を。
しかし、実際に目の当たりにすると気圧される。
この子達はルセルの騎士であるらしい。
息子を守る竜騎士の若者達。
「ん~・・・あのルセルを守る騎士かぁ・・・」
腕を組み唸るノートン。
平民たるノートンには騎士に忠誠を誓われるという感覚は住む世界が違う為にピンとこない。
しかし、竜界の一応の王子であるルセルには当然ながら発生する事であろう事は分かる。
・・・・が、やはりピンとこない。
とりあえずノートンは不死鳥から始まる一連の流れを二人に語った。
「・・・そうですか、ルセル様はエルフ界の外に出られているのですか」
少年の言葉にノートンは頷く。
「すまないね、折角来てくれたのに」
「いえ、ルセル様の後を追わせて頂くのでご心配には及びません」
「え?、ルセルを追いかけるの?」
「はい、危急の時なので」
少年の言葉にノートンは訝しむ。
「危急って・・・?」
その言葉に少年少女の二人は顔を見合わせ頷き、少女が口を開いた。
「ノートン様はシルフ界の騒動をご存知ですか?」
「ああ、火竜が現れたとかで大変な事になっているみたいだね」
「はい、その件でルセル様にも危険が及ぶかも知れない・・・という事ですのでシルティア様から遣わされてきました」
「ルセルに?」
「詳しくは申せませんが、竜界の問題が色々有ります」
「う~ん、そうか・・・
俺はエルフだから詳しくは知らないけれど、色々有るんだな」
「はい、色々有ります」
「で、ルセルの護衛に来たと?」
「はい」
「まさか、火竜と戦うとかいう感じじゃないよね?」
それを聞いて少女は笑む。
「違います、あくまで念のための護衛です
何より火竜と戦う者達は既にシルフ界に向かっております」
「そ、そうか・・・」
それを聞いてノートンは安心した。
いくらルセルが冒険好きと言っても火竜と戦うなんて無茶だし、何よりそんな事をシルティアが許す筈もない。
そう考えているノートンの様子を見ながら、少女は話を続ける。
「ちなみに・・・なのですがその中のお二人
名家であるダイナハーブ家の貴婦人エルナー様とそのお嬢様であるミーナ様がおられまして」
「ん?、はぁ・・・」
「一度、ノートン様とルセル様にお会いしたいと常々言われております」
「ん?、何で?」
話の流れが読めず聞くノートン。
「それは・・・」
そこまで言って少年は少女の話に割って入ってきた。
ゴドン!!
二人が持っている剣とは違う剣をテーブルの上に置く少年。
「これは?」
ノートンは不思議そうにテーブルに置かれた剣を見る。
「はい、これはルセル様専用の剣です
小型の剣ですが竜界の最高の剣匠が丹誠込めて打った品で、王族が持つに相応しい一品に仕上がっている・・・との事です」
「ほ~」
ルセルの年齢や体格からすれば丁度良い感じの剣だ。
もっとも、目の前の二人が所持している剣に比べれば迫力は無いが。
「さて、そろそろルセル様の下に行かなければなりません」
少年はルセル専用の剣を長細い綺麗な袋にスッポリ入れ、口を紐で縛る。
少女も無言で立ち上がり自身の剣を片手に持つ。
「いやいや、ルセルの現在位置って分かるのかい?」
聞くノートンに少年は答えた。
「はい、出発された日数で大体どの辺りにおられるかの予想はできます」
横にいた少女は続けて答える。
「近づけばルセル様の匂いを辿っていきます
幸いここは精霊界ですので、他の竜族がいない地でルセル様の匂いを辿るのは容易ですから」
「匂い?・・それだけ匂いしたかな?、ルセル」
「普通には分かりませんが、竜族特有の甘い匂いがあります
私達竜騎士はそれらを魔法で嗅ぎ分ける能力を持っているのです」
「そ・・・そうなんだ、魔法で」
「はい」
「う~ん、騎士ではあるが魔法も使えるとは竜騎士は凄いな・・・」
それに比べればウッドエルフは全然駄目だな・・とノートンは思う、もっとも弓矢の腕では負けないだろうけれど
「長くなってしまい申し訳ございません
それではこれにて失礼致します!!」
「ああ、気をつけて
ルセルに会ったら寄り道せずにさっさと帰って来いって言っといて」
そのノートンの言葉に二人の表情は和らいだ。
「畏まりました」
そう言って家から出た二人はルセルを追って行った。
徒歩で。
馬を手配しようかと言ったが断られた。
巨大な大剣は重量の関係で馬が直ぐに疲弊してしまうらしい。
「どんだけ重いんだ、一体・・・」
そう思うノートン。
そして二人が去ってから思い出した。
「そう言えば、名家の夫人さんとお嬢さんがどうとか言ってたけど・・・何だったんだ?
・・・と言うかシルフ界に行ったって事は、その二人も火竜と戦う一員って事だよな・・・」
シルティアが何を考えているのかイマイチ分からないが、今はただ信じるしかない・・・と思う。
そう言えば随分とシルティアには会っていない。
ノートンはシルティアの微笑みを思い浮かべる。
「会いたいなぁ~」
その気持ちはずっと持ち続けている。
しかしシルティアの立場を考えると個人的な我が儘は言えない。
しかし・・・
やはり会いたいと思うのだ。




