【ルセルとダイナハーブ家】
封印魔法と一言で言ってもその種類は数千種に及び、術式は当然の事ながらそれぞれ変わってくる。
封印魔法の第一人者であり現ダイナハーブ家の当主であるエルナーも全ての封印魔法を把握出来ている訳ではない。
中には今はもう使われなくなり失われた封印魔法もあるからだ。
ミーナ・ダイナハーブ
ミーナは14年前にそのエルナーの娘として、そしてダイナハーブ家の次期当主として生まれた。
幼少期の頃のミーナは愛想を母親の胎内に置き忘れてきたのではないかと周りに思わせる程とにかく無愛想だった。
口数は少なく、同い年の子と遊ぶ事も無く一人で何かをする事を好む子どもだった。
感情を表に出さない為、エルナーはどうしたものかと悩み娘の将来に不安を感じたモノだ。
しかしエルナーの心配を余所に魔法の才能は素晴らしく、弱冠6歳にして基本的な事は全て修得し魔術レベルは3に達しF級の仲間入りを果たす。
天才少女。
ミーナは周りからはそう呼ばれ、将来を期待される事になる。
しかし依然として魔法以外には興味を示す事はなく、日々淡々と過ごしていた。
転機になったのはミーナが王女シルティアの恋愛話を聞いてからだ。
竜の王女とエルフの少年の湖での運命的な出会い。
しかし竜世界に帰らなければならない王女は、再び会いましょうと対のペンダントを少年に渡し帰って行く。
12年の時が経ち、成長した二人は再び巡り会い結ばれる。
その話はミーナに随分と影響を与えたようだ。
それまで恋愛話にはまったく興味のなかったミーナが、進んで詳しく話を聞きたがったからだ。
そしてその二人の間に生まれた少年の事を知り、その写真を見たミーナは今までにはない行動を見せた。
飾り気がなくおしゃれとは程遠かったミーナだが、衣服や髪型やアクセサリー類に興味を示すようになり容姿に気を遣うようになった。
何より感情を見せるようになり始め、口数も多くなり笑う事も多くなったのだ。
これをエルナーは密かにシルティア様効果と呼んでいる。
そしてミーナは12歳にして魔術レベル7、D級に上がった。
魔術レベルとは試験によってその者が持つ魔法のスキルを数字化したもので、数字が高いほど魔法の知識や技量が高いという事になる。
勿論それに係る試験は数字が高まる毎に高くなり、筆記も実技も相当難しい。
もう一つ、各レベルに応じて免許が取得出来る。
A~Gの級があり、これは魔術師としての格とそれぞれ等級に応じた権限を有する。
A~Gのクラスが一般に知られていて、A級が最上位かと思われがちだが実はA級の上にはS級が存在する。
尚、ライセンスの取得にも厳しい試験をくぐり抜けなければならず、才ある者でも落ちる者はあっさり落ちる程の難関試験が待つ。
ちなみにエルナーがレベル7に達したのは23歳の頃。
当時は最年少の取得者として驚嘆されたが、ミーナに最年少の座をあっさり奪われ少々悔しかったのは今となっては笑い話である。
補足だが通常レベル7に達する平均年齢は30歳前後だ。
と言ってもレベル7に達する魔術師は竜界全体でも多くなく、35歳を境に挑戦していく者は下がっていく。
トントントン
杖を握りながらミーナは人差し指でトントンと杖を叩いてみる。
本来は足でステップを踏み呪文の詠唱のタイミングを計るのだが、地についていない以上指で計ってみる。
ポウゥゥゥ・・・
目の前に赤く光る直径1m程の真円の輪が既に作られている。
その赤の円の内側に更にオレンジ色の輪が作られ、今の呪文で黄色の輪が更に内側に現れた。
火竜を封じる封印術は7つの円の出現が必須であり、あと4つ作らなければ封印の術は完成しない。
ゴアアァァァァァーーーーー!!!!
火竜は唸る。
が、エルナーの縛呪法によって全身の動きが封じられ身動きが取れない。
敵の暗黒竜騎士は・・・。
竜界より派遣されてきた少年少女の竜騎士に注意を奪われていた事で背後から忍び寄る竜騎士の接近に気付かなかった。
スッと首筋に剣をあてられた暗黒竜騎士は持っていた剣を離し、最早これまでと降伏した。
「いやぁ~、間に合って良かった良かった」
頭をポリポリとかきながら眼鏡をかけた中年の男性が黒猫に話しかけてくる。
「あんた誰にゃ~?」
訝しながらケットシーはその中年男性に聞く。
「おっと・・これは失礼、私はケイヤと言います
ダイナハーブ家の婿をやってます」
「・・・・ダイナハーブ家?」
ケットシーの問いにケイヤは答える。
「はい、竜族です
あの空に浮いている扇を持っている女性の夫をやらせてもらってます」
「はぁ・・・・」
ケットシーはケイヤの言葉にそれしか返事が出てこなかった。
空に浮いている女性二人とこのケイヤが連れてきた複数の竜騎士の参戦によって、全滅寸前の危機から一気に形勢逆転した。
後は火竜を捕縛すればこの戦闘は終わる。
しかし、この男はのんびりしているというか何というか・・・。
ケイヤを見てそう思ったケットシー。
そんなケットシーを余所にルセルを見つけたケイヤは口を開く。
「あはは、君がルセル君か~」
「え!?」
ルセルは驚いた。
「僕の事を知ってるの?」
「もちろん、有名だからね~」
頷きながらニコニコと笑うケイヤ。
「ゆ・・有名って・・?」
「うん、竜界でルセル君は有名なんだよ」
「ええ!?、ん・・・う~ん」
「ん?、どうしたんだい?」
「だって僕、有名になるような事何もしてないんだけど・・」
それを聞いてケイヤはうんうんと頷きながら笑う。
「あはは、だよね~
まぁ、ルセル君が有名なのはお父さんとお母さんが有名だからだけどね」
「父さんと・・・母さん?」
そのルセルの表情にケイヤは多少下がってきた眼鏡をクイッと上げる。
「そう、お母さんの事は聞いているかな?」
「うん、竜界の王女だと聞いてます」
「そう、お父さんとお母さんが出会った経緯は?」
「アピス湖で会ったって事は・・」
「そう、その話が竜界で話題になってね
君の事も話題に上がったって事だよ」
「出会った事が話題になるの?」
「そうだよ」
「そ・・そうなんだ、う~ん・・微妙だ」
「微妙?」
「うん、魔王を倒した勇者とかで有名になるならいいんだけど・・」
「ああ、ルセル君は英雄になりたいのか」
「うん、剣を持って敵を倒す英雄になりたい!!」
キイィィィィィン・・・・・・
耳に余り優しくない音が辺りに木霊する。
と言っても、大きな音ではない。
耳鳴りに近い感じの音だ。
赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫
全ての円を出現させたミーナは封印の術を完成させるため、印を結び呪文の詠唱を強める。
「あれは何をやってるの?」
ルセルは空を見上げケイヤに聞く。
「ああ、封印するんだよ」
「誰を?」
「火竜をね」
「出来るの!?、そんな事?」
「出来るよ~、封印魔法っていうのがあるからね」
「へ~、もしかしてあの女の子がやるの?」
「そうだよ、まぁ見ておいで
あ、目をつむって」
「え?」
ピカッ!!
辺りに虹色の閃光が走り、視界を遮る。
術を知っている者は目をつむり、知らない者は虹色の光の直撃を受け、眩しくて目を閉じる。
シュウゥゥゥゥゥ・・・・
水蒸気の煙が立ち上り、辺りは霧に包まれた。
時間にして僅か一分程で霧は晴れ、元の風景に戻った。
しかし火竜のいた場所に火竜の姿はなく、ただ居たという痕跡のみが残っているだけ・・・。
そしてそれは封印術の成功を意味していた。
「成功致しましたわ、お母様」
ミーナはエルナーの顔を見て微笑む。
エルナーもまた微笑み返し頷く。
練習では完璧に術を完成させるミーナだが、実戦ではこれが初めてでありプレッシャーから失敗する可能性があった。
しかしエルナーの助力があったとはいえ、術を完成させ成功させたミーナはダイナハーブ家の次期当主として最も評価出来る活躍を見せた。
それはエルナーに取っても母親として鼻が高い事である。
「ミーナ、地上に降りるわよ」
「はい、お母様」
取り合えずこの場の戦いは片付いたと判断したエルナーはミーナに声を掛け、二人はゆっくりと大地に降りていく。
「怪我を負った3人のエルフは無事です」
その報告を受けたケットシーはひとまず安堵する。
といっても一命を取り留めたというだけで重度の傷を負ったのは取り消せはしない。。
「ありがとう、助かったわ」
ケットシーは竜騎士に感謝の意を述べた。
竜騎士の中に医療や医術に長けている者がいたのは正直助かった。
もっとも、部隊の中には一人は医に詳しい者を組み込んでおくのは常識なのだろうが・・。
何にせよ助かった。
一人も命を落とす者がいなかった事は幸いだ。
そう思うのだ。
とん・・・
ブーツのつま先を地に付けミーナはフワリと着地した。
その顔には仕事をやりきったという清々しさと自信が溢れる。
「君、凄いね!!」
不意に後ろから声を掛けられ、当然とばかりに澄ました顔で振り向くミーナ。
そこにはルセルがにこやかな顔でミーナに笑みを見せていた。
「!?、○□△◇☆◆◎■▽!!!!!!」
声を掛けてきた者がルセルだと気づきルセルと目が合った瞬間、ミーナの顔はみるみる真っ赤になった。
そして頭がパニックになる。
何を言って良いのか分からない・・。
何よりも声を出したくても出せない。
たまらずにエルナーの後ろに隠れる。
「????」
少女のよく判らない行動に口をポカンと開けるルセルに、扇を広げ口を隠しているエルナーが代わって答える。
「あらあら、ごめんなさいね
この子は恥ずかしがり屋さんなの」
「え!、恥ずかしがり屋さんなの?」
「そうよ、そして初めまして
私はダイナハーブ家の当主エルナーです、この子はミーナ
ルセル様、以後お見知りおきを」
扇をパチンと閉じて口の両端を上げ、エルナーは笑んだ。




