【聖剣と剣王の伝説】
【聖剣と剣王の伝説】
480年前、世界の支配を目論む邪悪な妖術士達は人間界の平安を砕き暗黒の力で覆った。
その時、人間の中で妖術士達に立ち向かう英雄が現れ、12人の仲間達と共に妖術士達を打ち倒し・・・
そして人間界に再び平和をもたらしたのだ。
英雄は剣王と呼ばれ、英雄が持っていた剣は聖剣と呼ばれる事になる。
「・・・・と言うお話」
馬車に揺られながら女性はルセルに語る。
「凄い!!、昔の人間界にも英雄達はいたんだ!!」
ルセルは顔を輝かす。
「そうよ」
女性は少年の無邪気な笑顔に笑む。
馬車には女とルセル、ドワーフのノルモンドが座りそして黒猫が寝転がっている。
話を聞いていた黒猫は口を開く。
「その英雄の仲間に炎の魔術師エリナたんがいたにゃん」
黒猫の言葉にノルモンドが声を出す。
「そう、エリナ姫
絶世の美女と伝えられる炎の乙女
強力な火の魔法で妖術士や僕の悪鬼共を倒したという伝説の魔法使い様だ」
その言葉を聞いて女性は苦笑する。
「絶世の美女・・・今はそう伝わっているのですね」
目を細めてノルモンドを見る。
「いや・・・いやいや
誠に・・・伝説や絵画に何ら違わぬお美しさです」
ノルモンドのその言い方に黒猫は爆笑する。
「ノルモンドたん、お世辞言っても駄目だにゃ~」
「せ・・・世辞ではないわ!!
本当に想像通りの美しさであらせられる」
「ほにゃ~~」
「な・・・なんじゃ!!」
「んにゃ・・・でもさぁ~
エリナたんは何で人間に力を貸したの?」
黒猫は女性に問う。
エリナと呼ばれた女は目を伏せ・・・
ゆっくりと閉じていた目を開いて答える。
「最初は好奇心から、復活して間もない頃の私は色々と試したかった・・だから彼らに力を貸した
何より・・・」
「何より?」
ルセルが聞く。
「妖術士達が気に入らなかったから」
ニコリと笑みルセルを見る。
「う~ん、その妖術士達って物凄く悪い奴らだったんだ」
「そうよ、とてもね」
「そうなんだ!!、んじゃ今の魔王とどっちが悪いかな?」
「え!?、う~ん・・・」
変な方向に振られたエリナは困った顔をする。
「はいはい、ルセル君
どっちも悪い奴らでいいのよ~、変な質問ぶつけないの」
黒猫はルセルを諌め助け舟を出した。
「え!?・・あ、だよね!!・・ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるルセルをエリナもノルモンドも黒猫も可笑しそうに笑った。
ロービス山に降りた不死鳥を求めてノートンとルセルは山頂に登りエリナと出会う。
不死鳥は500年に一度体を焼き尽くして滅び、灰の中から再び復活する。
今年は丁度その復活500年目に当たり、エリナも死期が近づいていた。
その最後を剣王の墓の側でと昔から決めていたエリナは精霊界で没した剣王が眠る地に向かう際に、力尽きロービス山頂に降りたのだ。
しかし飛べなくても直ぐに死ぬという訳ではなく、老いの一環であるこの現象はエリナに取っては悔しい事だった。
先程まで自由に空を翔けていたモノが、まったく出来なくなるのだから。
死ぬ時の症状は分かっていた事だが、あと少しで辿り着けたのに途中で力尽きてしまった失態。
しかし、エリナのミスとばかりは言えない部分もある事はある。
予想していたよりも老化が早かった事だ。
どちらにしても、あと少しの場所が今では遥かに遠く感じられる。
その話を聞いてノートンは取りあえずロービス山からルーネメシスの自宅にエリナと共に帰り、エルフの女王メリーカへの報告の為にルーエルシオンへ行く事にした。
連れて行け連れて行けとうるさいルセルを連れて。
幸い飛ぶ力は無くなったエリナだっだが、人型化し動き回る分には何の支障もない。
あと、英雄の墓のある方角とルーエルシオンがほぼ同じ方向にあったため、道中ルーエルシオンに『寄る』のにも問題はなかった。
そうして女王メリーカに拝謁する事になったノートンとルセル。
実はノートンは女王に一度間近で会った事がある。
シルティアとの結婚式の時である。
しかしノートンに取っては女王様自らお越しになられた事も大事だったが、竜界からシルティアの父であり王である竜王様や母である王妃様も来られたために式中は殆ど体がガチガチであった。
ただ結婚式は大々的ではなく本当に身内の中だけの小規模なモノだったため、ルーネメシスにいる大多数のエルフ達はエルフの女王や竜王が来ていた事を知らない 。
知れたら里中大騒ぎだっただろうが。
「やぁ、ノートン久しぶりだな」
客間に通されたノートン達に女王メリーカは気さくに話しかける。
女王の側にはもう一人侍女らしき女性が控えている。
「お久しぶりです、かつては式に参列して頂きありがとうございました」
恭しく礼をするノートンにメリーカは苦笑する。
「随分昔の事だな
よいよい、堅苦しい事は抜きだ
で、お前がルセルか?」
「は・・はい!」
ルセルは慌てて返事をした。
しかし緊張の余り声が裏返った。
「ふふ・・なる程、お母さんに似ているな」
「はい、よく言われます!!」
「そうか
まぁ、会えないのは淋しいと思うが許してあげろ
お母さんは多忙でな」
「はい、この間父から詳しく聞きました
会えないけれど、母を凄いと思います」
「うむ、そうか」
「はい」
メリーカは少し笑みルセルから目を外す。
そしてエリナに目を向けた。
「・・・さて、お初にお目にかかります
エルフの女王メリーカと申します」
立ち上がり一礼するメリーカ。
「御名前は存じております、私は不死なる鳥のエリナです」
同じく立ち上がり一礼し二人とも座り直しす。
「エリナ様、何かお困りの事があったとか?」
「はい・・・
恥ずかしながら老いに力が出せず、エルフ界に降りてしまいました」
「なるほど・・・では安全のために目的地まで送らせましょう」
「いえ、ご心配には・・・」
「エリナ様、【炎の祭典】が近づいています」
後ろに控えていた侍女らしき女性が口を開く。
【炎の祭典】という言葉を聞き、エリナは目を細める。
「貴女は?」
「横からご無礼を、私は精霊番猫です」
「ああ・・・と言う事は今回は精霊界で起こるのですね」
「はい、ですから微力ながらお力をお貸し致します」
ケットシーの言葉にエリナは目を伏せた。
「正直忘れていました、随分耄碌したモノです」
「我々は文献の中でしか知り得ない事柄ですが、相当な被害が出るとか?」
メリーカの言葉にエリナは答える。
「誰が関わる事になるのか・・・分かりません
全ては原始の炎の揺らぎが決める事、犠牲はそれによって変わります
少なくても1000年前は人間界において最小の被害で済みました」
「その分、今回は強力になる可能性が高いという事も考えられますね」
「かも知れません」
「今回の祭典と関係しているかどうか知りませんが、火竜がシルフの街を襲ったらしいです」
ケットシーは自分と同じく精霊界の番人である精霊番犬から送られてきた共有情報をエリナに語る。
「火竜・・・」
手を口に当て考えるエリナ。
しかし何も感じない。
かつての時代は明確に感じた筈の祭典の炎の揺らぎを。
「・・・或いは、私には関係がないのか」
その言葉には別々の二つの意味を表す。
文字通り今回の祭典には不死鳥は関係しないのか、それとも「私」ではなく転生してきた「私」が関わるのか・・・。
500年に一回不死鳥は死ぬ。
その時に500年分の全ては消滅されてしまう。
復活してきた私は私であって過去の私ではないのだ。
しかし記憶はある。
記憶と言っても小説や絵本を見る感覚に近い。
エリナとして生きた記憶は物語として私の中に留まる。
しかしただそれだけ。
エリナは寂しげな表情を浮かべ座っている4人を見る。
私はもうじき消滅する。
仲間達と共に戦い、笑い、泣いたエリナは消えてなくなる。
あの時代のあの頃を実際に知る者は私だけだ。
そして、その生命の終わりに今はただ愛した男の側で死にたい。
あるのはその思いだけ・・・。
ガダンゴトン
馬車は4人を揺らす。
馬車の外には水馬と6人のエルフの護衛が付いている。
ちなみにルセルを同行させたのは黒猫の案である。
本人曰わく「勘」が働いたそうだが、それが如何程のモノかは知られていないし、本人すら分かってはいない。
もう一つちなみに、黒猫と面識のあるノルモンドも時を同じくしてルーエルシオンに呼ばれていた。
こちらは精霊界の巡回警備隊としての繋がりだが、今回の件で同行する事になった。
・・・と言うかエリナの事を知ったノルモンドが強引に付いてきたと言うのが正しいか。
「ね~ね~、ノルモンドさん」
「何じゃ、ルセル」
「炎の祭典って何?」
ルセルの問いにノルモンドは言葉が詰まる。
「そ・・・そりゃお前・・・アレだろ」
「アレって何さ」
「アレはアレだ、つまりそう言う事だ」
「???」
ノルモンドの説明に首を捻るルセル。
黒猫はふぁ~と欠伸をして、代わりに答える。
「炎の祭典って言うのは、炎を司る・・・もしくは炎を使いこなすモノ達の合戦にゃん
1000年に一度起こると言われておるのだにゃ~」
「う~ん、何か良く分からないけれど凄そうだね・・・」
「そうよん、巻き込まれたら普通に「焼け死ぬ」わよん」
黒猫はニヤリとしてルセルに答えた。