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魔王と竜王  作者: ナウ
二章・炎の祭典
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【ルセルとアリス】

【ドワーフお断り】


デカデカと紙に書かれ店の入り口に貼り付けてあるカフェ

しかし、給仕の娘の顔はやはり引きつっていた。


確かにドワーフは来なくなった。

しかし今度はノッカーというドワーフによく似た種族が大勢で押し寄せ、酒と酒のつまみを注文し大声で喋くっている。


ノッカーとドワーフとノームは元の先祖は一緒であり彼らは遥か昔に枝分かれし、それぞれが独立した種族として今に至る。

そしてノッカーは優れた採掘技術を持ち、採鉱や選鉱はドワーフやノームではなくノッカーがしている事が多い。


彼らはノッカー族としての誇りがあり多種族と一緒にされる事を嫌う。

特にドワーフと同一視される事を嫌い、入店の際に店側が一度断ったが「自分達はドワーフではない!!」の一点張りでガンと入口から動こうとせず、店側は渋々折れた。


「うぉーーーい ビールだ!! ビール持ってこい!!」

「こっちもだ!! 早くしろ!!」

「肉だ!! 肉持ってこーーい!!」

「早くしろ----!!」


最初からこんな感じで始まり、そして酒が入ると「ノッカーの女はどうの」「エルフの女はどうの」とそういった話を大声で喋りだす。

中にはフォークやナイフで皿を叩き歌い出す者もいる。

そんなカオスな状況にたまらず周りにいる客も店から逃げ出す。

そして給仕の娘は泣きそうな顔になっていた。

正直ドワーフ一人の方が遥かにマシな状態である。


そんな中、ノッカーの旅行者達がカフェにいると聞きつけたルセルはカフェに急ぐ。

最近は旅行者の冒険談やエルフ界の外の話を聞く事が楽しみになっていた。

特に冒険や魔物との戦いの話はワクワクする。


ルセルの祖父は至って普通のエルフだ。

父のノートンも至って普通のエルフだ。

ただルセルに取っては偉大なる父である。


少し普通とは異なるのは祖母の血である。

祖母の家系は「ハーフエルフに彼らの土地を!!」という活動を行っていた家で祖母もまた若い頃からその活動に参加していたらしい。

そうした活動家達の活動の甲斐があってエルフ界の各地にそれぞれのシティが建設された。

それはルセルが生まれるずっと前である。

実は活動が高じて祖母と祖父は仲が悪くなり、別居していたようだ。

父は祖父の下で育てられ、祖母はシティ建設に奔走し父にも会いには帰らなかったという話。


祖母が帰ってくるきっかけは15年前の戦争以後。

父と母との結婚を機に祖母は再び戻ってきた。

何があったのかは詳しくは教えてはくれないが、祖母が帰ってくる何かがあったのだろう。

祖母は厳しい人だったと聞くが、ルセルに取っては優しいおばあちゃんである。

そのおばあちゃんは今ではおじいちゃんととても仲が良い。


そして・・・


少しどころではなく普通とは異なる血は母である。

ルセルは一度も会った事がない。

いや、正確には物心がついてからは・・・だ。

赤ん坊の頃にはこのルーネメシスのルセルの家に居たらしい。

しかし、実家が忙しいとかで帰ってくる事はない。

小さな頃は実は母は死んでいるんじゃないかと本気で考えた事もあり、父にもそれらしく言った事もある。

しかし最近になって母の詳しい事を父が語り、今まで人間との混血だと思っていたルセルはある意味衝撃を受けた。

ちなみに、母から誕生日プレゼントは毎年送られてきていて手紙も同封されている。


母の名はシルティア。

ワイバーン族の王女にして、病に倒れ床に伏している竜王 に代わり現在竜界を治めている。


「なるほど~、そりゃ竜の王国の政治を取り仕切っているんだからエルフ界に帰ってこれないよね~・・・」と納得できた。


「うん、母さんは僕の事が嫌いな訳じゃなかったんだ!!」


そう思い安堵する。

そして父や祖父は僕を母にそっくりだという。

母は冒険や冒険話が大好きだった・・・と。

つまりは僕は母似なんだろう。

それはつまりドラゴンという事なのか?。


あーだこーだと考えているとカフェに着いた


「いたいた、あれがノッカーって人達だな」


カフェの店内でイスやテーブルの半分を占拠して騒いでいるドワーフに似た種族。


「ノルモンドさんに似てるな~」


ルセルはこの間、このカフェで知り合ったドワーフの顔を思い浮かべてにやける。

もっとも本人が聞いたら「一緒にするな!!」と怒鳴られるかも知れないが。


そんな事を考えながらノッカーの座っているテーブルに近づこうと思い、歩を歩ませた瞬間・・・。


「ねぇ、君」


その声はルセルに向けられた。

ルセルは立ち止まり声のした方向に顔を向ける。

店内のノッカーがいる反対方向の奥に赤と黒の奇抜なデザインの服を着た少女が座っていた。

ミニスカートで生足を組み、ルセルを見ながらジュースを飲んでいる。


ルセルはこの手の服のデザインは最近のエルフ界の流行りであるため見慣れており大して珍しくもなかったが、色は奇抜で目を引いた。

寧ろなぜ直ぐに気づかなかったのか分からない程に派手だ

そして・・・その少女は・・・。


「か・・・可愛い・・・」


ルセルが思わず見とれてしまう程、可愛いらしい少女。

可愛いを絵に描いたようなエルフの少女を見慣れているルセルですら、こんな可愛い少女は見た事がない。


「良かったらどうぞ?」


少女は相席を手で勧める。


「え?、・・・あ▪▪・ああ・・・」


ぼ~っと少女の顔をみていたルセルは我に返り、慌てて少女の前の席にすわった。


「こんにちは」


「こんにちは」


「何してるの?」


「・・・カフェでジュース飲んでる」


「そうだよね~・・・いや、そうじゃなくて」


しどろもどろになりながらもルセルは言葉を続ける。


「君さぁ、エルフの人じゃないよね?」


「タウナ・アリシュトロ、精霊界の片隅で暮らす少数民族よ」


「へ~、そんな人達がいるんだ!!」


「うん」


「旅行だよね?」


「うん、温泉とクレイモアを見に来たの」


「どうだった?、クレイモア」


「まだ見ていないわ、これからよ」


「そうなんだ!、凄く綺麗だよ」


「君はここの里の子?」


「そうだよ、外れに住んでるルセルって言うんだ」


「・・・・・」


それを聞いて少女は少し考え口を開いた。


「もし良ければ美術館に案内してくれない?」


「え・・・」


ルセルは一瞬躊躇った。

女の子と行動を一緒にした経験がない・・・。

それにここで離れてしまうとノッカー達の話が聞けなくなる。


「駄目?」


返事がないルセルに上目使いで聞く少女。


「だ・・・大丈夫!!

美術館まで連れて行ってあげるよ!!」


「本当?、嬉しい」


少女は目を回している給仕の娘に代金を払い、ルセルと共に店を出た。


「賑やかだったね」


少女はニコリとしてルセルの腕に手を回す。


「え・・・ええー!!」


その少女の行為に驚くルセル。


「嫌?」


ニコニコしながら少女はルセルの顔を覗き込む。


「嫌・・ていうか・・初めてなんだ、女の子と手を繋ぐのは」


それを聞いて少女は胸をルセルの腕に押し付けた。


「そうなの?、モテそうなのに」


「え・・えっと・・、モテはしないです・・」


少女の胸を腕で感じタジタジのルセル。

こんな経験は勿論ないが凄く柔らかく、そして見た感じよりも大きいようなのは感覚で分かった。


「ごめん、変な事聞いて・・じゃ行きましょ!」


密着した状態を緩め、手を繋いで歩き出す少女と引きずられるように付いていくルセル。

美術館までは離してくれそうになさそうだ。



そんな調子で途中知り合いらしい知り合いにも会うことなく美術館に到着した二人。

まぁ、一部手を繋いで歩く二人を"ぎょっ"とした顔で見るエルフの少女や女性がいた事はいたが。


美術館に入り有名な両手剣クレイモアを鑑賞する少女。

ルセルは何度も見ているので感動はないが、初めて見る少女はクレイモアの美しさを見て目を輝かせた。


「・・・綺麗」


戦争で使われたとは思えない程にその刀身は刃こぼれ一つなく光っている。

クレイモアの説明文にはアンデッド戦争とそれを使ったガルボの事がデカデカと記されていた。


「これを使ったエルフ・・・ガルボって言うんだ」


「うん、そうだよ」


「エルフなのにこんな大剣を使えるなんて・・・」


「あはは、本人はヒョロヒョロなんだけどね」


そのルセルの言葉に少女は「え?」となり聞き返す。


「もしかして、知り合い?」


「うん、うちの父さんの友達だし」


「へ~、そうなの

んじゃ、ガルボさんはこのルーネメシスにいるんだ?」


「ん~ん、隣のルービアンカにいるよ

ガルボさんは現地で復興活動していて、父さんも手伝いに行ってたんだ」


「復興・・・?、ああ、魔王軍侵攻ね」


「うん、父さんもガルボさんも元々はルービアンカに住んでいたらしいんだけどルービアンカが占領されてここに来たんだ」


「なるほどねぇ~」


「でも酷いよね~、何の罪もないエルフ達が殺されたんだから」


「そうね」


「僕が大人なら魔王を倒してやるのに!!」


そのルセルの言葉に少女は笑った。


「そうね、君がこのクレイモアを使いこなせれば倒せるかも知れないわよ?」


「ん~、これかぁ・・・」


ルセルは一度クレイモアを持った事がある。

年に一度、クレイモアを試し持ちさせてくれるイベントがあり挑戦してみた・・・が駄目だった。

通常のエルフよりは力があるルセルだが、持ち上げるのが精一杯で振り回すのはとてもではないが無理である。


「まぁ、大人になれば・・・ね」


「うふふ、大人になれば・・・か」


少女は可笑しそうに笑む。


「そう言えば・・・なんだけど」


「ん?」


ルセルの言葉に少女は反応する。


「聞いていいか分からないけど・・・」


「なあに?」


「君の名前は?」


「ああ・・・」


そう言えば名乗っていなかったのを思い出す少女。


「私は・・・アリスよ」


「アリス・・・か、いい名前だね」


「そう?」


ルセルの言葉にアリスは少し影のある笑みを含ませ答えた。

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