【勇者狩りとルセル一家】
ルーネメシスにある混浴温泉【愉快な湯】
かつてエルフの若者達が酒を飲み騒ぎ踊ったという由来を持つ温泉である。
その温泉の休憩室で涼んでいる3人の男女。
一人はルセル。
一人はドワーフのノルモンド。
もう一人はアリスである。
美術館でクレイモアを鑑賞したアリスは離れようとするルセルに強引に付いてきた。
夕方にドワーフと冒険話を聞くらしい事を聞き、自分も聞きたい・・・けれども温泉にも入りたいからと混浴温泉に二人を引っ張ってきたのだ。
基本的にエルフは混浴を嫌うがルセルは気にならなかった。
ドワーフは元々気にしない性分だ。
アリスもまた気にならないらしく、大胆な脱ぎっぷりを披露した。
「で、あるからして儂は仲間と共にエウンジーク戦争を戦ったのだな」
酒を飲みながらノルモンドは熱弁を振るう。
話はかつて人間界で起こった人間軍と魔王軍との激戦の話である。
エルフ軍と魔王軍が戦ったアンデッド戦争以後、人間界でも魔王軍と戦う機運が高まり魔王軍の基地になっていたエウンジーク国奪還を掲げ周辺諸国が団結。
魔王軍を野戦で倒し、ダークデントと名を変えていた都市を攻撃したのだ。
【エウンジーク奪還戦争】と呼ばれる戦いは人間側の勝利に終わり、敗退した魔王軍の残党は魔界に撤退を余儀なくされた。
そのエウンジーク奪還戦争には人間の要請によりドワーフの鉄の兵団が参加していてノルモンドはその一人であった。
鉄の兵団。
全身鎧兜に身を包んだドワーフ軍である。
重装歩兵と重装弓兵と重装騎兵により構成された鉄壁の軍団だ。
エウンジーク奪還戦争の野戦では魔族の軍団とコボルト部隊を相手に戦いこれを撃破した。
しかし、ノルモンドの部隊は操焔魔神と接触し退却を余儀なくされるも大局には影響は無かった。
「まぁ、儂的にはアンデッド戦争に参加したかったがな」
「え、そうなんだ!」
意外そうな顔でノルモンドを見るルセル。
「うむ、だがエルフ界からの援軍要請はなかったからな、何より突然始まり終わるのが早かった戦だ
儂らがドワーフ界を出ても到着する頃にはとっくに終わっておったよ」
「女王様の采配が良かったからだって父さん達が言ってた」
「うむ、迅速にハーフエルフ達を動かしての戦いは見事だったと聞く」
「人間界での戦いはどうだったの?」
「まぁ・・・人間の要請を受けて人間界に赴いたが・・・
各国それぞれがバラバラでな、正直足並みが揃っていたとは言い難かった」
「それでよく勝てたね」
「辛勝と言った所か、冒険者と呼ばれる者達の活躍も見逃せないな」
冒険者という言葉にアリスはピクリと反応したが、2人は気付かなかった。
「冒険者!、やっぱりそんな人達が存在するんだ!」
「おるとも、大体は冒険者ギルドに加入している契約者連中どもだが、実力はピンキリだ」
「弱い冒険者もいるの?」
「当たり前だ、初心者のヒヨッコどももおればやり手の上級者と呼ばれる者共もいる」
「へ~」
「ちなみに、魔族が籠城していたエウンジークの門を内部に潜入して開けたのは上級の冒険者達だな」
「上級者なんだ!、ノルモンドさんはその人達に会ったの?」
「いや・・・儂は会っておらん、戦っていた場所が若干違うからな」
「でも敵だらけの中に潜入するなんて凄いね、その人達」
「ああ、だから戦争後勇気ある者として【勇者】と呼ばれたのだ」
「なるほど~う~ん、会ってみたいな~その勇者達に」
「日が暮れてきたわね、そろそろ出ましょう」
一連の会話を黙って聞いていたアリスは立ち上がる。
「おお!!
話が長くなったな、儂も宿に帰らねば」
「あ、僕も・・・」
アリスに次いでノルモンドもルセルも休憩所から出る。
温泉施設から出たノルモンドはルセル達と別れ宿泊施設に戻っていった。
それを見送りルセルはアリスに言う。
「んじゃ、僕ももう家に帰るね」
その言葉にアリスはルセルの服の袖をパムッと掴んだ。
「もう帰っちゃうの?」
そのアリスの言葉に戸惑うルセル。
「え?
ん~・・帰らないとお父さん達が心配するから」
「そうなんだ・・・」
「うん、そうなんだ」
「じゃ、仕方がないわね」
掴んでいた袖をアリスは離す。
「じゃさ、また明日カフェで会おうよ!」
「え?」
ルセルのその言葉にアリスは少し驚いたが、微笑み頷く。
「んじゃ、また明日!」
ぱいばい、と手を振りそれを返すアリスを見ながらルセルは家に向かって駆けていった。
「・・・・・」
ルセルの姿が見えなくなるまで見送り、アリスは目を伏せる。
もう少し付き合ってあげるつもりだったが、ルセルは想像以上に少年だった。
「女の子と手をつないだ事もないんだ~て言ってたわね
うふふ、残念」
さて・・・と頭を切り替える。
明日はルービアンカに行かなければならない。
身を変えて各宿に泊まっている部下達を連れて。
『勇者狩り』を行う為に。
15年前、エルフと魔王軍が激突した戦争により魔王軍は敗退した。
しかしそれだけでは終わらず、エルフ達の勝利は人間界の人々を勇気づけ国々は団結し人間軍は魔王軍の人間界での拠点であったダークデントを攻撃。
人間軍と魔王軍の激戦は7日続いたが、野戦で敗北した魔王軍はダークデントに籠城し膠着状態に陥る。
それを打破したのは冒険者と呼ばれる一行で、彼らは危険を顧みずダークデントに潜入。
正面の大門を開ける事に成功。
開け放たれた門から人間軍は雪崩れ込みダークデントを陥落させた。
これにより魔王軍は人間界での拠点を失う事になる。
それは則ち人間の女を攫う事が出来なくなる事を表す。
直ぐに立て直しをし攻撃をしたくとも二つの戦争の出兵費が半端ではなく、略奪によって賄える筈だった金銭が入ってこない為に、戦争継続は不可能になった。
魔王は戦争の一時中止を宣言。
女と財宝を奪う戦争はとりあえず終わった。
それから13年後、財政を立て直し軍備も再び整え始めた魔王はダークデント陥落時に活躍した冒険者を探す命を出す。
魔界の王女たるアリスもその探索隊に参加し人間界に行ったものだ。
それももう二年前の事。
そして今回の「勇者狩り」はエルフ界が舞台だ。
アリスに取っては前回とは違って今回は息抜きがその大半を占める。
しかし狩りに関しては今回の標的は謎が多く不可解な部分が多い人物であり気は抜けない。
ルセルの話ではヒョロヒョロらしいが、両手剣を使える事。
クレイモアを見た感じ、対アンデッド効果の魔法は付与されていない。
しかしスペクターのダグバルドを倒したという事は本人が魔法を使えるか、何らかの魔法効果を持つアイテムを持っている可能性が高い。
要するに狩るには危険性が高く、用心しなければならない相手なのだ。
アリスも今回はピリピリした緊張感がある。
正直少年と戯れている時ではない。
「ばいばい、ルセル」
アリスはルセルが駆けていった道を見ながら呟き闇の中に消えていった。
食事が終わりノートンは紅茶を飲みながらくつろいでいた。
そんな中、ルセルは口を開いた。
「ねぇ、父さん」
「ん?、どうした?」
ルセルの声に答えるノートン。
「あのね、今日女の子と混浴に入ったよ!!」
「ぶっ」
ルセルの言葉に紅茶を吹き出すノートン。
「なんだって?」
「うん、だから
女の子と温泉に一緒に入ったよ!!」
「えーと・・・」
ノートンは困った。
こんな時に父親として正しい言葉は何だろうか・・・と。
「二人だけで・・・か?」
「ん~ん、ノルモンドさんも一緒」
「・・・・・」
ノルモンドというのは最近ルセルが話すドワーフの中年男性だろう。
しかし・・・少女とドワーフ中年とルセルが一緒に温泉に入っているイメージが湧かない。
正直、何が何だか・・・。
「えーと、温泉だけ・・・か?」
「そう、他に何かあるの?」
「い・・・いや、ならいい」
「うん、もの凄く可愛かったよその子」
「まてよ・・エルフの子・・か?」
「ううん、旅行者の女の子
少数民族がどうとか言ってたけど」
「そ・・・そうか・・・何歳ぐらいの子だ?」
「多分、同い年か一つぐらい上かも」
エルフ的には少女と混浴などもっての他なのだが、ノートン的には同い年ぐらいの子なら問題はないのではないかと思う。
何よりルセルも女の子に興味があっても何らおかしくない年齢である。
だがしかし・・・。
「まぁ、しかしルセル
それは余り良くはないな」
「どうして?」
「混浴の温泉に入るのは・・・別にいい
けどまったくの見ず知らずの子を誘うのは駄目だと思うぞ」
「誘ってきたのは向こうなんだけど」
「そ・・そうなのか
うん、しかし・・駄目だな」
「だから何で?」
「う~ん、何らかの間違いがあったらいけない
ルセルだって何かあったらまだ責任は取れないだろ?」
それを聞いてルセルは納得できた。
「うん、責任とれないや
分かった、んじゃこれから止めとく」
「だな」
ルセルの納得にノートンは安堵する。
だが、安堵したのも束の間アリントンが口を開いた。
「ははは、そう言えばお前は結局シルティアさんと一度も一緒に入らなかったよな」
「と・・・父さん!!」
アリントンの言葉にノートンは慌てた。
「結局、できちゃった結婚だったしな」
「え!?、そうなの、おじいちゃん」
「ああ、鈍くて超奥手のコイツにシルティアさんが業を煮やしてな
で、結婚だったな」
「父さん、その話をルセルの前で・・・」
「別に間違っとらんだろ」
「う~ん、僕はできちゃっただったんだ」
「ただな、ルセル
間違ってはならない事はノートンもシルティアさんも、愛し合っていたという前提がある
結婚は最終的な確認であって、お父さんもお母さんも好きだからこそ、ルセルが生まれたんだ」
その祖父の言葉を聞いて頷くルセル。
「うん、お父さんもお母さんも小さな頃に出会ってずっと好きだったんだよね
その話は聞いたよ」
「そうだ
決してその時の一時的な感情に任せた訳じゃない
だからノートンの言っている事は大切な事なんだぞ」
「うん、分かった
これからは気をつけるよ!!」
ルセルの言葉にアリントンもノートンも頷く。
「何て話しているの?、まったく」
祖母がお菓子を乗せた皿を片手に呆れ顔で三人のいる部屋に入ってきた。




