【エルフ界旅行記】
「うにゃ~ん」
女性に姿を変え水馬の背中に乗り楽に移動している黒猫。
人化している理由は、猫の姿のままでは走る時に発生する揺れに対応できず振り落とされてしまうからだ。
大地を蹴り、水を蹴り、休みを取りつつ精霊界を縦断し走りつづけている。
既に距離にして1万キロ以上走っていた。
意外と頑丈だ、ケルピーは。
精霊番犬と別れてからエルフ界へ行くための足を探していた黒猫は、天馬に白羽の矢を立てた
空を飛んでいけば障害物なく移動ができるからだ。
しかし、天馬から帰ってきた返事は「重量オーバー」である。
そもそも何かを乗せて空を飛ぶ事はできないらしい。
「猫すら乗せられないのかい!!、翼の羽根千切るぞこの駄馬が!!」
・・・とケットシーは心の中で思ったが、口には出さず諦めた。
次に接触したのは一角獣である。
空を飛ぶ事はできないが、速度ならクーシーに引けは取らない。
しかし、一角獣から返ってきた答えは「処女でなければ乗せられない」である。
しかも処女の綺麗な乙女でないと駄目らしい。
「処女の乙女で、しかも美人でなければならない理由は何なんだ!!角へし折るぞ、このエロ馬が!!」
・・・とケットシーは心の中で思ったが、口には出さず諦めた。
三度目の正直で、水馬に依頼してみる。
また訳の分からない理由で断られるかと思ったが、あっさりと了解が取れた。
これは良い。
ケルピーは空を飛ぶ事も出来なければ、クーシーやユニコーン程速くはない。
しかし水の上を走れるという特殊能力を有し、水中も潜れるすごい奴なのだ。
ぴしゅん!! ぴしゅん!! ぴしゅん!!
湖の水面を蹴りながら進むケルピー。
黒猫はそんなケルピーを見て、自分も水面を走ってみたいと思うのだ。
魔法を使えばできない事はないが、魔法込みの移動は相当疲れるので少し進んだだけで水に沈んでいく自信はある。
「にゃ~」
黒猫の時の癖で一声鳴き、ケルピーに伝える。
「・・・・ああ、もうじきエルフ界に入る」
そのケルピーの言葉にケットシーは頷いた。
「もうじきよ、頑張ってね」
「ん・・・」
流石に疲労が溜まっているケルピーはそれ以上は答えなかった。
そんなケルピーにケットシーは思う。
乗っている方も疲れるのだと。
だったら少しは自分で走れとい言われそうだが、ハッキリいって瞬間的な速度はともかく持続力は無いので直ぐにへばってしまう。
それならば大人しく背に乗っていた方がマシなのだ。
それはそうと、もうじきだ・・・と言ってもエルフ界がであって目的地のエルフの聖都ルーエルシオンにはまだ900キロ近くもある。
そうこうしている間に湖は終わり、鬱蒼と繁る森林地帯に突入した。
「エルフ界に入った!!」
そう言うとケルピーは安堵し心に余裕が出来た。
何故ならエルフ界には天敵はおらず、外敵となる生物も殆どいないからだ。
「あと一息よ!!」
乗っているだけのケットシーだが、取りあえずケルピーを励ました。
励ますだけならタダだ。
「・・・・・」
特に何も言わずケルピーは走り続ける。
ゴトンッ
分厚い本を机に置き、男はページを捲る。
その本は途中まで・・・というか最初の6ページぐらいしか書かれていない。
そう、書いている途中なのだ。
付けペンと黒インクを用意しインクのビンの蓋をカチャッと外す。
何から書き始めようか?・・と書き手は思った。
この本のタイトルはエルフ界旅行記である。
男の名前はロスイプ。
土精霊の青年である。
ロスイプがエルフ界に来た理由。
それはエルフの事を記した本は昔のモノしか出回っておらず、最近のエルフの事を知りたがったからだ。
そうしてロスイプは単身エルフ界に取材がてら旅行に来ていた。
取材に際して苦労した事は男女それぞれに話を聞いた時、エルフの男性は精霊語で聞くと精霊語で返ってくるのに対して女性に精霊語で話しかけるとエルフ語で返ってきた事だ。
男性は温和で話しかけると気さくに話に乗ってくれたが、女性は無愛想でどこか見下す感じで取材にも殆ど応じてはくれなかった。
まぁ、その男女差は昔の本にも書いてある事なので再確認できた事は収穫だ。
ただ、大きく違う点は女性の服装だ。
緑色の上服とスカートと茶のブーツを履き弓矢を携えている衣装しか書かれていない為、そのイメージでいたが全く違っていた。
エルフの男性から話を聞くと、それは遥か昔の民族衣装らしい。
今は色とりどりのデザインの衣服を着ている・・・との事。
確かに男女共それぞれ好きな服を着ているのは見て確認できる。
ただ、驚いた事は女性の肌の露出度が高いことであった。
まるで売春婦のような衣装の女性もいる。
男性達から話を聞くと、流石に前まではここまで女性が肌を露わにする服装ではなかった・・・との事。
変わり目は15年前の戦争以後、女性が活躍しだした時代に入ってからという。
しかし、女性のふしだらな格好は堕落の原因になるのでは?・・・と感じるが、同じ種族の土精霊女ではないので、そこは別に・・・よかろう。
うん、美しいエルフの女性の姿は目の保養にもなるし。
そういえば、エルフは何を食べるのか?・・・は解決した
昔の本には草としか書かれていなかったからだ。
まさかそこら辺に生えている雑草を毟って食べているわけでもあるまい。
答えは食草と呼ばれる草が主食で、薬草や香草や山草も野菜・穀物類も食べる。
そしてなんと肉類も食べるそうだ。
よくよく考えてみればエルフは太古の昔に狩猟民族であり、だからこそ弓矢が発達しそれが民族のシンボルともなっているのだから肉類を食べるのも当たり前と言えば当たり前である。
エルフは草食系ではなく雑食系なのだ!!。
恐らくその一点だけ取ってみてもノーム界を激震させる衝撃であろう。
しかし、まだまだ衝撃の話は終わらない。
現エルフ界には純血エルフだけではなく混血もまた別の地域に住まうという。
確か昔は多種族と交わり子を作ったエルフはエルフ界追放だったはず・・・。
それを考えると随分と変わったのだな・・・と感じる。
しかも最近は純血と混血の恋愛も自由にしようという流れが20年程前から作り出されているようだ。
賛成派は主に男性。
反対派は主に女性であり、反対派の意見が強く自由化は今だに実現していないらしい。
何故男性は混血との恋愛の自由化に賛成なのか?・・・を聞くとエルフの男性は苦笑いしながらこう答えた。
「ハーフの女性は優しいからね」
・・・まぁ、ロスイプも取材時での女性達の対応を見ていて納得できる部分はある。
寧ろその一言に大いに共感出来た。
一方女性が反対する理由・・・。
自由化が実現すれば男性陣はハーフの女性に流れていってしまう事をエルフの女性達は分かっているのだろう。
ハーフエルフの女性は純血女性と違って恋愛に積極的な可能性がある。
誘惑すれば男性はハーフエルフの女性に傾く。
そうして根こそぎ奪われていってしまえば純血女性達は恋愛も結婚も子を産む事も出来ず死んでいく事になるだろう。
・・・・まぁ、あくまでも極端に考えればだが。
しかし、それならば純血女性はハーフの男性と付き合えばいいではないかと思うが、あの性格では無理であろうし純血を誇りそれを望む彼女達が混血の男を受け入れるとは思えない。
そう言えば、取材した中の一人にルセルという少年がいて言っていた。
自分は混血だから同い年の女の子達や女の人から無視されたりしてるんだよ~・・・と。
「差別はエルフ界にもあるか・・・」
チャッ
ペンを取りペン先をインクに浸ける。
「さて、書き始めるかな」
構成を整えロスイプは白紙のページにペンを走らせた。
「見えた!! ルーエルシオンだ!!」
平原を駈け、湖を駈け、森林を駈けたケルピーは遂にエルフの聖都ルーエルシオンに辿り着いた。
エルフ界最大の都市であり、その面積は800k㎡に及ぶ。
その都市の中央部には女王が住まう白城があり北部にはエルフの上位種であるハイエルフが住んでいる 。
「来たのは女王の就任式以来かね・・・」
ケットシーは白い城を思い出しながら呟く。
「ん?、あれ?
もしかして就任式ってもう27年前?
いやいや、そんな・・・まさかねぇ~」
しかし数えてみると確かにそのぐらいの時間は経っている。
「げげ・・・月日が経つのは早いにゃ~、ふにゃ~」
そう言うと黒猫に戻りケルピーの背から降りる。
「と言うわけで、ご苦労様~ケルピー君
暫くここで休んでていいわよ~」
黒猫の言葉にケルピーはムッとした表情で答える。
「・・・・いや、何でだよ
俺も白い城を見たいし入りたい・・・」
「にゃ~、もしかして女王に会いたいの?」
「ああ、ここまで来たんだ
エルフの女王様ってのを見てみたい」
鼻息を荒くして答えるケルピー。
「まぁ、見ても面白いもんじゃないけどにゃ」
「何か言った?」
「ん~にゃ・・りょ~かい、んじゃまた乗るよ~」
黒猫からまた女性に変わりケルピーの背に飛び乗る。
「そもそも何でここで置いていこうと思ったんだ?」
「ん~、だって興味ないと思ってたからさ~」
「あのなぁ・・・」
呆れ顔でケットシーを再び背に乗せたケルピーは一声鳴く。
そして街路を蹴りながら白い城に向かって走り出した。




