【青い炎の魔女】
ホアン・・ホアン・・ホアン・・
歩いているのか浮いているのか分からない二本の足でとんがり帽子を被った女は中央門の正面に来る。
女はまだ若い顔立ちをしている。
年齢的には10代後半か20代前半ぐらいだろう。
その横には同じくとんがり帽子を被り、こちらは完全に浮いている足のない白い小さな幽霊がガボチャの提灯を持ってニヤケていた。
「ロックス!!、ここがルーアクシウムって所?」
女は幽霊に話しかける。
「左様です、ポピーラ様
そもそもここは3000年ほど前に森林エルフが暗黒エルフと雌雄を決する為に作られた要塞です」
「へ~」
幽霊の説明に女は興味なさ気に答える。
「3000年前、ある事をきっかけにフォレストとダークネスのエルフが対立し戦争が起こりました」
「へ~」
「その時にこの要塞に立てこもったフォレストエルフは40日間耐え、とうとうダークネスエルフを諦めさせたとか
つまり難攻不落の最強無敵な要塞という事になります」
「へ~」
「フォレストエルフは今は木エルフと呼び方を変え、ダークネスエルフも暗エルフと呼ばれるようになりましたが、その時の戦いから始まった対立は今だに続き和解はする事なく3000年間対立し続けています」
「へ~」
「私の見解ではこのルーアクシウムは・・・」
「ロックス!!」
「はい、何でしょう? ポピーラ様」
「話が長い、ウザイ、キモイ」
「これは申し訳ございません、しかし最後のキモイというのは・・」
「気にしないで、ただのノリよ」
「左様ですか・・・」
「ちなみに、フォレストとダークネスが争った理由って何なの?」
ポピーラの問いに幽霊は神妙な面持ちで答える。
「男です」
「あっそ」
男を巡るフォレストとダークネスの両女王の女の争い
フォレストエルフ達は余りのバカバカしさの為にあえて記録には残さなかった。
ただ、その当時の当事者達が死んで居なくなっても民族の対立構図は消えず3000年間反目し合うという事になる。
そして世代を重ねる毎にその当時の詳細は忘れ去られ、文献に詳しい事が一切記載されていない謎の争いとして現在では歴史学者がその謎を解明すべく研究や議論に明け暮れているのが現状である。
そう、その争いは今のエルフの歴史書には理由は定かではないがウッドとダークの民族対立が起こった最初の戦いとして記載されているのみなのだ。
ドゴォォォォォォォンッッ!!!
二人のやりとりの背後でフレッシュゴーレムが棍棒を手に暴れている。
「五月蠅いな・・・」
「左様でございますな」
ポピーラは五月蠅い音に嫌な顔をして振り向く。
丁度そのフレッシュゴーレムと目が合った。
「ゴガアァァァァァァ!!!!」
フレッシュゴーレムは大きな叫び声を発し、二人目掛けて突進してくる。
「ヤバいですね~」
幽霊はのんびり口調でポピーラに言う。
「ヤバいわね~」
帽子のツバを親指と人差し指で摘み深々と被っていたとんがり帽子をフレッシュゴーレムの全身が見えるぐらいまで上げた。
ブーーーン
球形の泡のようなモノがフレッシュゴーレムの全身を包む。
ボゥッッ!!
球体に包まれたフレッシュゴーレムを青い炎が襲い全身を焼く。
「コギャアァァァァァァァーーー!!!!」
球体の中でフレッシュゴーレムが絶叫するが、球体の外には音も熱も漏れ出さず、外からは暴れながらも静かに燃えるフレッシュゴーレムを観察する図である。
肉は焦げ、溶け落ちた肉汁も沸騰し蒸発する。
フレッシュゴーレムは肉体も核も炭と化し灰になり、その灰すら消滅した。
地獄の青い業火。
温度はどの位あるのか?
おそらく10000度以上だろう。
「呆気ないですね」
「火葬屋じゃないんだけどね、私」
ポピーラはそう言うと門に向かって歩き出す。
「・・・本当にルーアクシウムを火の海に?」
従いながら幽霊はポピーラの顔を見る。
「契約に従えば・・・ね
ただ、何か嫌な予感がするわ」
クィッととんがり帽子を再び深く被り直す。
「さぁ、行くわよ」
そしてポピーラと幽霊は門をくぐった。
ズバァッ!!
ガルボのクレイモアがフレッシュゴーレムの右足を斬り飛ばした。
「グガガアァーーーーー!!」
ちょこまか動くトルンに翻弄されガルボから目を離した隙にガルボは接近し鋭い刃で一撃を入れる。
片足を失ったフレッシュゴーレムは倒れ込んだ。
「やったね!、お兄さん」
トルンはニンマリとし、ガルボもまた息を吐く。
片足を失ったフレッシュゴーレムは体を引きずりながらも尚も攻撃してこようと足掻いていたが、突如赤い炎に包まれ絶叫する。
「更に火力を上げるわよ」
女の言葉に火は激しさを増し勢いよく燃え上がった。
火だるまになったフレッシュゴーレムは地面をのた打ち暴れたが、やがて叫び声はなくなり消し炭となって崩れ落ちた。
パチパチパチ
女は手を打ちガルボを見る。
「剣で勇ましく戦い勝利する、男らしくてカッコイイわね」
ニコッと微笑む女にガルボは剣を構える。
「何だお前は?、また新手の魔王軍か?」
切っ先を女に向けて問うが、ガルボは相手が女性である事に戸惑いを感じた。
「いいわねぇ、その如何にも叩っ斬ってやる!!・・みたいな感じ」
「答えろよ!!」
「そうよ?、・・・と言ってもさっき召喚されただけの存在だけど」
「それは一体どういう・・・」
「あーー!!、誰かと思えばポピーラお姉ちゃんとロックスじゃん」
ガルボの声を遮ってトルンが大きな声を出す。
うん、知ってたわ。
門をくぐった時から小人の存在は・・・。
ポピーラは顔を引きつらせて、そう心で叫ぶ。
嫌な予感はやはり的中した。
「これはこれはトルン様、こんな所で会うとは奇遇ですね」
幽霊がトルンに挨拶した。
「だよね!!、でもどうしてこんな所に?」
トルンの問いにポピーラが答える。
「・・・いや、ただの散歩よ」
「散歩?」
「散歩がてら魔王軍とエルフ軍の戦いを見にきただけよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
トルンとポピーラのやり取りをニヤニヤしながら見る幽霊と何だか分からないまま剣の構えを少し緩めるガルボ。
「え・・・と、知り合いなのか?」
ガルボがトルンに聞く。
「うん、仮装の祭りでよく出会うもん
あと、色々あって仲良くなった魔界の火の守手さん」
「魔界って・・・、やっぱり魔王軍の一人なんじゃないのか?」
「え・・・そうなの?」
ガルボの話を聞いてトルンはポピーラを見る。
「・・・は~、仕方ないなぁ
さっきスペクター達に召喚されてやってきたのよ
契約はガボチャ軍団を率いてルーアクシウムを焼き払う事
報酬は最高級お菓子五年食べ放題と財宝よ」
それを聞いてガルボはポピーラを睨む。
「やはり魔王軍に組する奴か
ルーアクシウムを焼き払う?、やれるものならやってみろ
俺を倒してからな!!」
ガルボは剣を構え直し身構える。
「う~ん、やっぱりカッコイイなぁ」
そのガルボの言葉と姿を見て、ポピーラの心と体にうっすらとした火が灯る。
「ねぇ、ポピーラお姉ちゃん
本当にこのルーアクシウムを燃やすの?」
「え?、う~ん」
トルンの問いにポピーラは少し考えるふりをする。
「嘘だよね?、ポピーラお姉ちゃんはそんな事しないよね?」
泣きそうになりながらポピーラの目を見て訴えてくるトルン。
そうそう、その顔。
既にポピーラの中ではどうするか決まっているのだが、その顔が見たくて少し引っ張ったのである。
「ロックス!!」
「はい!!」
「魔王軍の目的は何だったかしら?」
ポピーラの問いに幽霊は神妙な面持ちで答える。
「女です」
「あっそ」
ポピーラは言いながら懐から契約書を取り出す。
ボオォォォ・・・メラメラメラ・・・
手に持っていた契約書は勢いよく燃え上がる。
「これで契約破棄よ、向こうのも燃えているだろうから計画が失敗したのは判るわね」
「お・・・お姉ちゃん!!」
涙を溜めた目で愛くるしい笑顔を向けポピーラを見つめてくるトルン。
そうそう、それ。
その笑顔も見たかったのだ。
「トルン、あんたがここにいるって事はビナーズやポイタン達も来ているって事だよね?
流石にルーアクシウムごと消し炭にはできないわ」
「うん、だよね
お姉ちゃんは優しいから」
「借りを返しただけよ、ビナーズにそう言っておいて」
「は~い」
「うむ、これにて一件落着ですね」
幽霊が締め括ろうとしたが・・・
「外にはまだ魔王軍がいるんだろ?、全然一件落着じゃないぞ!!」
ガルボに突っ込まれ、それについて幽霊が答える。
「正確には一部の魔王軍ですね
残っているのはフレッシュゴーレムぐらいですけれどね」
「本当か!?、外では収束に向かいつつあるのか?」
驚くガルボだが、まだ強敵は残っている。
「フレッシュゴーレムか・・・手強いな」
そう考え眉間に皺を寄せるガルボは、ふとポピーラを見た。
「あれ?、私見つめられてる?」
ガルボと目が合ったポピーラはガルボから視線を外しそっけなく横を向く。
「まてよ・・・」
ガルボから名案らしきモノが過ぎる。
「なぁ、ポピーラさんだったっけ?」
「は・・・はい!!」
突然名前を呼ばれてポピーラは緊張した面持ちで返事した。
「さっきの炎はアンタの魔法だよな?」
「ん・・・そうだよ?」
「力を貸してくれないか?」
「・・・フレッシュゴーレムを倒す為の?」
「そう」
ポピーラは少し考え、笑みを見せ口を開いた。
「いいけど、高いですよ?」
その言葉にガルボは困った顔をする。
「う~ん、お金やお菓子は持ってないんだ・・弱ったな」
「うふふ、大丈夫ですよぉ
お金やお菓子は必要ないからぁ」
「え!?」
訝るガルボにポピーラが答える。
「わかった、力を貸してあげる」
ポピーラは上目遣いにガルボを見、甘い声で囁いた。




