第8話 月曜日の会議と、王宮からのメッセージ
月曜日の朝がきた。王宮のオファーは、承諾も辞退も押さないまま、通知欄に置いてある。
存在が薄くなってきたが、私には現世の仕事がある。今日は、週四日しかない出社日のひとつ、月曜日。いつも通り静かに過ごすつもりだった。のに。
「――この件、結局どこの部署が持つんでしたっけ」
定例会議の終わりかけ、気づいたら口が動いていた。議題の最後にふわっと出て、誰も拾わないまま「また来週」で流れていく、いつものやつだった。会議室が数秒しんとして、部長が「え、あ、確かに決めてなかったね」と言って、担当と期限がその場で決まった。
かかった時間は一分くらいで、別に、異世界で新しい力に目覚めたわけではない。前からできたことを、やる気になっただけだ。自分でもちょっとびっくりしている。
会議のあと、可愛い後輩の子にこそっと言われた。
「塩谷さぁん、最近ちょっと、変わりました?なんかぁ、元気っていうか!」
「そう? 朝のヨーグルトを、いいやつにしたからかな」
彼氏ができた、とでも言って欲しかったのか、後輩ちゃんはすこし不服そうな顔だったが、嘘は言っていない。あの日買ったちょっと高いヨーグルトを、私は今も続けている。
お昼休みには、数少ない雑談相手の紗代にも「いいことあった?」と聞かれてしまった。スマホの中のスキミーを見せたら絶対面白がってくれると思う。でも。
「あ〜、……ヨーグルトを、いいやつにした、かな」
「なにそれ、え、あの硬いやつ?」
「そうそう、硬くて高いやつ」
言えるわけがない。話しても信じてもらえないだろうし、変人扱いされるのも、なんとなく嫌だった。
その夜、一週間放置していた王宮から追いコメントが届いてしまった。
【 雇用主コメント:返信がないようだが、多忙でしょうか。体を大切にしてください(返信は待っている) 】
カッコの圧がすごい。返信をせずに放置している取引先のメールか。正直、王宮は少し怖い。『ギルドを解散させる』と言い放ったときの監査官の顔を思い出す。魔王様のところと違って、あちらはちゃんと強い組織だと思う。私みたいな部外者が出入りしていいのかもわからない。いや、本当は魔王様も外からしたら、怖いのかも?
金曜日の夜、私は承諾ボタンの上に指を置いた。今回は学習して、押す前に着替えも済ませてある。転移は承諾後のはずだけど、もうこのアプリをあんまり信用していない。
「……話を聞くだけだから、ね」
誰にともなく言い訳をして、ボタンを押した。




