第67話 本部からの相談と、洗濯屋
金曜日。今夜は、久世さんの相談を聞きに行く。
【 運営から、個別のお仕事のご相談です 】
【 担当:久世 】
今まで、会社でもこういう“相談”はあった。急に設定されて、狭い会議室を指定されて『ここだけの話なんだけど……』と重めの話をされる……なんだか、いつものバイトに行く時より緊張するな。
* * *
転移した先は、前と同じ部屋だった。責任者っぽい机に座っている久世さんは、この前お好み焼きを食べた時とは違ってきちんとしたシャツを着ている。
「こんにちは、急にお呼びしてすみません。お座りください」
ソファに座ると、ローテーブルにお茶とお菓子が運ばれてくる。
「ハーブティーです。エルフの森のハーブを使用しています」
「あっ、えっと……すいません」
「……ん?あ、ああ!そうでした。前回、大変でしたか。すいません、こちらも案内文が良くなかった。気にせず飲んでください」
口に運ぶと、ふんわりハーブの匂いがする。口に残る香りも美味しい。
「今日は、塩谷さんに新しいお願いがありまして、こちらです」
久世さんは、一枚の紙を私に見せた。内容は……洗濯、屋?
【王都 洗濯屋 スキマバイト 申し込み依頼】
「こちらの洗濯屋さんが、今回初めてスキミーを募集したいそうで、一度お話を聞きに行きます。塩谷さんには、ワーカーの立場で、足りない情報や気になることを教えていただけたらと」
「私でいいんですか?」
「もちろんです。色々なところで働いていただいて、助かっています」
* * *
久世さんと一緒に、本部から歩いて洗濯屋さんへ向かった。向かう途中で、下見がなくてもスキミー募集はできるけれど、募集の文章などサポートが欲しい場合、運営が手伝ってくれるらしい。いいサービスだな。
「洗濯屋さんは、洗濯する技術は日々磨いています。けれど、人材を獲得するのは、また別の技術が必要です。そこを補うのが、我々の使命かなと」
「……久世さんって、なんか、偉いですよね」
「ま、一度死んでますから」
あっけらかんと言うけれど、大変なこともたくさんあったんじゃなかろうか。そうこうしているうちにお店の前に着くと、店の前には大きな籠がいくつも重ねてあった。中に入ると、湯気と石鹸のような匂いがして……あ〜〜いい匂い!
「こんにちは〜! スキミーです!」
「は〜〜い! ちょっとまってくれ!」
返事をしてくれた女性は、腕にいっぱいの布を抱えていて、忙しそうだ。店の奥には、洗った布を絞っている人、干している人、乾いたものを畳んでいる人。思っていたより、ずっと人が多い。
「待たせたね!ちょっと、座るところもなくて、立ち話でいいかい」
「はい、問題ないですよ、お忙しそうなので、手短に話しましょうか」
「助かるよ。夏前の衣替えで急に忙しくなって、すぐにでも来て欲しいんだ」
「塩谷さんも、気になることあればすぐに聞いてください」
久世さんが紙に書き込んでいく。
「お願いしたいのは、乾いた洗濯物を畳む仕事だ」
「……あの、ということは、水仕事は無し、ですかね?」
「ああ、そうだ。シミ取りや脱水は技術や力が必要だからね」
それなら、備考に「水を扱う仕事はありません」と書いても良さそうだ。続けて話をきくと、サイズや形状がバラバラで、そこにコツがあるらしい。
「ほら、こういうのがね」
店主さんは、畳む前の山から一枚引っぱり出した。シャツ……だと思う。袖が、六つある! 四本の手の人までは見たけれど、六本もいるのか。
「これは腕が六本、こっちは尻尾の穴、これは巨人族の旦那の肌着」
広げられた肌着は、私の背丈くらいあった。肌着というより、もはやシーツだ。店主さんは六つ袖のシャツを台に置くと、ぱた、ぱた、ぱた、ぱた、と何回か折った。それだけで、六本の袖がきれいに内側へ収まって、四角いシャツができあがっていた。
「……今の、もう一回見せてもらってもいいですか」
「ああ、いいよ! ほい、ほい、ほい」
「あああっ、そこ、そこ難しい、久世さん!メモって!」
「はいっ」
* * *
店を出ると、空がだいぶ暗くなっていた。洗濯屋さんはまだ仕事が残っているようで、「いい人頼んだよ!」と送り出してくれた。
「塩谷さん、ありがとうございました。助かりました。募集要項ができたら、塩谷さんにもお見せしますね」
「はい! あ、私も応募していいんですか?」
「もちろんです」
ちょっと働いてみたい。ジェラルドさんの服が来たら、わかるだろうか。いや、さすがに人の服をじろじろ見るわけにもいかない、よな。
本部へ戻る途中、久世さんが立ち止まった。
「実は……今日もう一つ、お仕事のご相談があって」
「もう一つ?」
「……少し遠くへ行くお仕事です」
少し、遠く……。王都から離れた村とか、そういうことだろうか。
久世さんの糸目がいつもより更に細くなったのを見て、息を飲んだ。




