第66話 戸倉さんからのお裾分けと、久世さんからの打診
日曜日。特に用事もないので久しぶりに自炊でもしようか、いや、面倒くさいな、とベッドでゴロゴロしていたら、スマホに通知が届いた。……戸倉さん?なんだろう。
『実家から大量の野菜が届いたんですけれど、一人では腐らせるだけなので、もしよかったらいりませんか』
実家、農家なんだろうか。まぁ、それは置いておいて、ここはありがたくいただこう。自炊しなければいけない言い訳になる。
* * *
「お久しぶり?でもないか」
「こっちではお久しぶりです、コーヒー、買ってきます」
大きな紙袋を持って、戸倉さんはいつもの駅前のドトールに現れた。置かれた袋の中を盗み見ると……ゴーヤなんかも入っている。すごい。
「すいません急に呼び出して」
「いえ、暇だったんで全然」
「野菜は店出る時に渡しますね。結構重いんで」
この前、ホームセンターで会ったけれど、こっちの世界で戸倉さんを見るのは久しぶりだ。少し、血色が良くなった気がする。
「そういえば私、エルフの森で薬草の収穫バイトをしたんですよ」
「あ、あの募集、見ました。どうでした?」
「それがですね……」
どうでした、と聞いてもらって、溢れるように反省や難しかったこと、募集要項にもう少し書いておいてくれれば、などを勢いよく喋ってしまった。
「で、★、四でした……」
「それは災難でしたね。俺もありますよ、★三」
「えっ、それは何の案件で」
戸倉さんは、レストランでの勤務体験を話してくれた。キッチンで応募したはずなのにホールに回されてしまい、接客が苦手で地獄の二時間を過ごしたらしい。
「それは……災難でしたね」
「笑顔の練習をしろ、と書かれました。もう飲食店への応募はしません」
「ふふっ、ちょっとおもしろいかも」
失敗談も、人と話すとだいぶ気持ちが前向きになる。スキマバイトに同僚がいることは少ないけれど、仲間っていうのはやっぱりありがたい存在だ。
「で、竜人さんとのお付き合いの方は順調なんですか」
「……戸倉さんから聞かれるとは思わなかった」
「結構好きですよ、コイバナ」
聞かれてしまったならしょうがない、と、誰にも見せたことのない二人の写真を……見せてみよう。スマホで撮影した写真を、すっ、と目の前に出す。
「うわ、めっちゃいいじゃないですか、てかやっぱすごい……いや、塩谷さんって結構メンクイなんですね」
「……戸倉さんが言えることじゃ、ないかと」
「たしかに。はは、いいですね、俺たちも今度、撮ってみようかな」
コーヒーを飲み終わり、ずっしりとした紙袋を受け取った。
「戸倉さんのご実家、農家なんですか?」
「いえ、なんていうか……過剰な、家庭菜園です」
過剰な家庭菜園、というワードが面白くて笑いながら駅前でお別れをして帰路につく。ゴーヤが入っていたから、ゴーヤチャンプルーを作ってみよう。豆腐と卵、めんつゆは家にあったけど、鰹節……あったっけなぁ。
* * *
スマホでレシピを見ながらなんとか出来上がったゴーヤチャンプルー。久々に食べたけれど、ゴーヤの苦味が美味しい。苦味を美味しい、と感じられるようになるのが、一番自分が大人になったなぁと実感できる瞬間かもしれない。もうだいぶ前から大人だけれど。しかし、一人でこの量は多いな、明日のお弁当に入れるか……と考えていると、スマホが震えた。今度は誰だろう……スキミーアプリからの通知?
【 運営から、個別のお仕事のご相談です 】
【 担当:久世 】
久世さん直々の相談? なんだろう。前回のエルフの森の話を聞かれるのかとドキッとしたけれど、さすがにそんな小さな個別案件で何か言われることは、ないはずだ。
来週の金曜。承諾のボタンを押して、食事に戻った。




