↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
68/71

第65話 【本日のスキマバイト】エルフの森、薬草畑の手入れ

 金曜日。今日のスキマバイトは、前から気になっていた、エルフの森の仕事に応募してみた。


【 エルフの森 薬草畑の手入れ・収穫補助 】

【 時給:3500ゴールド 】

【 備考:除草、薬草の収穫など。長靴・手袋貸与 】


 エルフの森。案件リストで見かけていつか行ってみたいと思っていた場所だ。花は好きだけれど、草は特別詳しいわけではない。でもまぁ、草むしりぐらいなら私にもできるだろう。


 ここのところ、スッキリしない天気が続いている。あっちは晴れてるといいなぁ。


* * *


 転移した先は、木々に囲まれた小さな小屋の前だった。湿った土と草の匂いがする。上をみると森の葉っぱが重なり合っていて、まだ明るい時間のはずなのに薄暗い。天気は決して良いとは言えない感じで、霧がかっていて湿っぽい。


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」


 小屋から出てきたのは、長い髪を後ろでひとつに結んだエルフの女性だった。続けて三人、落ち着いた雰囲気のエルフさんたちが出てくる。みんなセレネさんより年上に見えるけれど、実際の年齢はどのぐらいなんだろうか。打刻をして、貸してもらった長靴と長い手袋をつけた。


「まず、このあたりの草を抜いてください。抜く種類なんですが……この葉の裏を見てください」


 女性が葉を裏返すと、小さな白い模様があった。


「白い点があるのは、薬草なので、抜かないでください。白い点がない、こちらだけ抜いてください」

「白い点があるほうは残す、ですね」

「はい。葉の形も違うのですが、結構見分けが難しいので、白い点で判断するのがいいです。迷ったら呼んでくださいね」


 なるほど、葉の裏。しゃがんで、一枚ずつ裏返してみる。これは白い点がある。隣は……ない、かな? 少し土を払って、もう一度見る。うん、ない。根元を持って引っ張ると、あっさりと抜けた。あまり根は深くないんだな。

 少し離れた場所にいるエルフさんは、高速で判断して抜いている。すごい。あのレベルにはなれなさそうだけれど、私ももう少しスピードアップしなければ。

 しばらく続けていると、様子を見にきたエルフさんが私の手元を覗いた。


「あ……それは、薬草です」

「えっ、あ、すみません!」


 抜いたばかりの草を見せると、女性は葉の一枚を裏返した。あった。白い点。私が見た葉にはなかった気がしたのに。


「若い葉だと、まだわかりにくいことがあるんですよ。大きい葉を見るといいですよ」

「すみません……これ、戻せますか?」

「戻しはしないんですが、使い道があるので、カゴに入れてください、今持ってきますね」

 

 怒られなかったけれど、仕事を増やしてしまった。次からはなるべく大きい葉を確認しよう。


* * *


 結構抜いたつもりなのに、振り返っても減っている様子がない。さっき抜いたところに、また葉っぱがある……気がする。不思議に思い見ていると、その草が、す、と横へずれた。


「えっ……今、動きました?」

「はい、そうです、日が当たるほうへ動きます。結構動きますね」


 よく見てみると、短い根っこを足のようにして歩いている。だから減っているように見えなかったのか……。日の光に向かって伸びる植物は知っているけれど、歩く植物は見たことがない。

 

「あの、目印を立てたり、場所を分けたりは……」

「草達はこちらの意思と関係なく移動するので、葉を見ていただくのが確実なんです」

「……なるほど」


 いつもなら、分けたり、番号をつけたり、場所を決めたり、そういう方法を考えるのだけれど、自由に動きまわられるとルールも作りにくい。もう一度しゃがんで、葉を裏返す。大きい葉を見る。抜く。間違えたくなくて慎重になると、時間がどんどん過ぎていってしまう。


 頭の上に、ぽつ、と水が落ちてきた。見上げると空がだいぶ暗くなっている。


「雨降ってきちゃいましたね。上着を持ってきますから、そのまま待っていてください」


 貸してもらった上着を羽織って、作業を続けるけれど、さっきよりも動きにくい。長靴の底には重たい土がくっついて、立つたびに足が重かった。


* * *


 後半は、育ち切った薬草の収穫を教えてもらった。


「深い緑になると摘みどきです。このくらいの色のものをお願いします」

「……深い……緑…」


 二枚並べてもらえば、どっちが濃いのかはわかる。でも、目の前にたっぷり生えている葉を見ると途端にわからなくなる。これは、深い緑? まだ深くない?


「あの、これは……」

「それは大丈夫ですよ」

「こっちはどうですか」

「そちらは残しておきましょう」


 聞けば、そのたびに嫌な顔一つせず答えてくれる。けれど、私に答えるたびに女性の手が何度も止まっているのが申し訳ない。なるべく自分で判断したくて、葉をじっと見る。そうすると、また時間がかかる。


 作業終了の合図がされた時、私が摘んだ量は、他のエルフさんの半分にも満たなかった


「ありがとうございました。道具はこちらで洗いますので」

「あ、洗うのはやります! やらせてください」

「ではお言葉に甘えて。そこの水場を使ってください」


 最後にやっと、迷わずできる仕事ができる。道具についた土が流れて綺麗になると、少しだけ心が落ち着いた。


* * *


【 本日の給与:7000ゴールド 】

【 このワーカーへの評価:★★★★ 】

【 コメント:雨の中ありがとうございました】


 ……初めて、王宮の仕事以外で★が五個つかなかった。当たり前だ。むしろ、四つもいただけたことが申し訳ない。お腹は空いているのに何も作る気が起きなくて、ストックしていた冷凍パスタを温める。


 スキマバイトを始めてから、一番うまくいかなかった。誰にだって向き不向きはあるとわかっていても、やるせなくて心が重い。


「あつっ!!」


 レンジから取り出した冷凍パスタが熱すぎただけで、少し泣きそうになった。泣かないけど!

ログインできず、更新が遅れました汗

もうログインできないかと焦りました……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんでもかんでも全部うまくいくことはありません。相手が生き物であれば尚更です。 実は母方の一族がほぼ農家でして、地元にいる時はよく駆り出されていました。 よくスーパーで売られているトマト、あれ、実は一…
人生は山あり谷あり…昭和40年代に発売されたボードゲームのキャッチコピーだったかな? 今回の仕事は、草むしりという名の薬草選別、しかも動く薬草(笑)これは依頼の出し方が悪かったと思うよ…草むしりだと、…
まぁそんな日もあるよね。雨の日もある。 まぁでも降りっぱなしってわけじゃない。 ……まぁこの前は一ヶ月降ってたらしいけどw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。