第65話 【本日のスキマバイト】エルフの森、薬草畑の手入れ
金曜日。今日のスキマバイトは、前から気になっていた、エルフの森の仕事に応募してみた。
【 エルフの森 薬草畑の手入れ・収穫補助 】
【 時給:3500ゴールド 】
【 備考:除草、薬草の収穫など。長靴・手袋貸与 】
エルフの森。案件リストで見かけていつか行ってみたいと思っていた場所だ。花は好きだけれど、草は特別詳しいわけではない。でもまぁ、草むしりぐらいなら私にもできるだろう。
ここのところ、スッキリしない天気が続いている。あっちは晴れてるといいなぁ。
* * *
転移した先は、木々に囲まれた小さな小屋の前だった。湿った土と草の匂いがする。上をみると森の葉っぱが重なり合っていて、まだ明るい時間のはずなのに薄暗い。天気は決して良いとは言えない感じで、霧がかっていて湿っぽい。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
小屋から出てきたのは、長い髪を後ろでひとつに結んだエルフの女性だった。続けて三人、落ち着いた雰囲気のエルフさんたちが出てくる。みんなセレネさんより年上に見えるけれど、実際の年齢はどのぐらいなんだろうか。打刻をして、貸してもらった長靴と長い手袋をつけた。
「まず、このあたりの草を抜いてください。抜く種類なんですが……この葉の裏を見てください」
女性が葉を裏返すと、小さな白い模様があった。
「白い点があるのは、薬草なので、抜かないでください。白い点がない、こちらだけ抜いてください」
「白い点があるほうは残す、ですね」
「はい。葉の形も違うのですが、結構見分けが難しいので、白い点で判断するのがいいです。迷ったら呼んでくださいね」
なるほど、葉の裏。しゃがんで、一枚ずつ裏返してみる。これは白い点がある。隣は……ない、かな? 少し土を払って、もう一度見る。うん、ない。根元を持って引っ張ると、あっさりと抜けた。あまり根は深くないんだな。
少し離れた場所にいるエルフさんは、高速で判断して抜いている。すごい。あのレベルにはなれなさそうだけれど、私ももう少しスピードアップしなければ。
しばらく続けていると、様子を見にきたエルフさんが私の手元を覗いた。
「あ……それは、薬草です」
「えっ、あ、すみません!」
抜いたばかりの草を見せると、女性は葉の一枚を裏返した。あった。白い点。私が見た葉にはなかった気がしたのに。
「若い葉だと、まだわかりにくいことがあるんですよ。大きい葉を見るといいですよ」
「すみません……これ、戻せますか?」
「戻しはしないんですが、使い道があるので、カゴに入れてください、今持ってきますね」
怒られなかったけれど、仕事を増やしてしまった。次からはなるべく大きい葉を確認しよう。
* * *
結構抜いたつもりなのに、振り返っても減っている様子がない。さっき抜いたところに、また葉っぱがある……気がする。不思議に思い見ていると、その草が、す、と横へずれた。
「えっ……今、動きました?」
「はい、そうです、日が当たるほうへ動きます。結構動きますね」
よく見てみると、短い根っこを足のようにして歩いている。だから減っているように見えなかったのか……。日の光に向かって伸びる植物は知っているけれど、歩く植物は見たことがない。
「あの、目印を立てたり、場所を分けたりは……」
「草達はこちらの意思と関係なく移動するので、葉を見ていただくのが確実なんです」
「……なるほど」
いつもなら、分けたり、番号をつけたり、場所を決めたり、そういう方法を考えるのだけれど、自由に動きまわられるとルールも作りにくい。もう一度しゃがんで、葉を裏返す。大きい葉を見る。抜く。間違えたくなくて慎重になると、時間がどんどん過ぎていってしまう。
頭の上に、ぽつ、と水が落ちてきた。見上げると空がだいぶ暗くなっている。
「雨降ってきちゃいましたね。上着を持ってきますから、そのまま待っていてください」
貸してもらった上着を羽織って、作業を続けるけれど、さっきよりも動きにくい。長靴の底には重たい土がくっついて、立つたびに足が重かった。
* * *
後半は、育ち切った薬草の収穫を教えてもらった。
「深い緑になると摘みどきです。このくらいの色のものをお願いします」
「……深い……緑…」
二枚並べてもらえば、どっちが濃いのかはわかる。でも、目の前にたっぷり生えている葉を見ると途端にわからなくなる。これは、深い緑? まだ深くない?
「あの、これは……」
「それは大丈夫ですよ」
「こっちはどうですか」
「そちらは残しておきましょう」
聞けば、そのたびに嫌な顔一つせず答えてくれる。けれど、私に答えるたびに女性の手が何度も止まっているのが申し訳ない。なるべく自分で判断したくて、葉をじっと見る。そうすると、また時間がかかる。
作業終了の合図がされた時、私が摘んだ量は、他のエルフさんの半分にも満たなかった
「ありがとうございました。道具はこちらで洗いますので」
「あ、洗うのはやります! やらせてください」
「ではお言葉に甘えて。そこの水場を使ってください」
最後にやっと、迷わずできる仕事ができる。道具についた土が流れて綺麗になると、少しだけ心が落ち着いた。
* * *
【 本日の給与:7000ゴールド 】
【 このワーカーへの評価:★★★★ 】
【 コメント:雨の中ありがとうございました】
……初めて、王宮の仕事以外で★が五個つかなかった。当たり前だ。むしろ、四つもいただけたことが申し訳ない。お腹は空いているのに何も作る気が起きなくて、ストックしていた冷凍パスタを温める。
スキマバイトを始めてから、一番うまくいかなかった。誰にだって向き不向きはあるとわかっていても、やるせなくて心が重い。
「あつっ!!」
レンジから取り出した冷凍パスタが熱すぎただけで、少し泣きそうになった。泣かないけど!
ログインできず、更新が遅れました汗
もうログインできないかと焦りました……。




