第64話 半期に一度の大掃除と花柄の傘
六月中旬、会社で恒例の「半期に一度の大掃除」の日だ。
うちの会社では、十二月末と六月に大掃除をする。日々、掃除の業者さんには入ってもらっているが、机の中や細かい私物、そういうものを半日かけて片付けていく。
* * *
「先輩、このカレンダー、どうしましょう」
後輩ちゃんが開けた段ボールの中には、まだビニールに包まれているカレンダーがぎっしり入っていた。年始にお客さんに渡した余りだけれど、もう六月……半分近く終わっているカレンダーは流石にもう処分するしかない、か。
「もったいないけど、これは処分だね」
「卓上カレンダーって、裏も表も印刷されてるから、裏紙も使えないですよねー」
「そうだね、うーん、一応“ご自由にどうぞ!”って書いて今日の夜までは置いておこうか」
後輩ちゃんは、可愛いイラストと共に「あと半年も使えます!」と売り文句まで書いてくれた。たしかに、もう半年、まだ半年、捉え方でだいぶ変わる。
デスクの中のファイルも処理する。ペーパーレスが進んでいるとはいえ、やはり紙で資料が配られることも多いし、取引先からもらった案内も溜まっている。全て「いるような、いらないような……」だけれど、半年も見なかったものは、紙のリサイクルボックスに入れてしまおう。
重要じゃないものはそのまま捨てて、会議の資料をシュレッダーにかけようとしたら、結構な列ができている。みんな、こまめに捨てればいいのに、って、それは私も同じなわけで。席に戻るとまた捨てるのが億劫になりそうなので列にならぶことにする。
「……あれ、塩谷じゃん」
「わ、先輩、お久しぶりです」
「きいたよ、マネージャーになったんだって?」
「結構前ですよ」
列の前に並んでいたのは、新人時代のトレーナーの先輩だった。私が総務の部署になってから直接仕事をすることはなかったので、話すのは久々だった。
「あの塩谷がねえ〜、あ、そうだ!出張の申請書、フォームになってすごい便利だよ!お前んとこだろ?」
「あ、ですです。本当ですか?それはよかった」
「いやほんと、なんで今までやらなかったんだ、っていう、全部あれにしてくれよ」
ルッカの一件があってから、紙のままになっている申請を見直してみた。経理にも相談して、まずは出張申請を、社内で使っているシステムに移したけれど、実際に使っている人が喜んでいてよかった。順番がきて、書類をシュレッダーにかける。吸い込まれていく紙の音が小気味良い。
「さて、次は冷蔵庫かな」
大掃除といえばこの、共用の冷蔵庫の中身の整理だ。今回はどんな変なものがでてくるか……まず、冷蔵庫のほうを開けると結構な種類のドレッシングが入っている。誰のだろう。名前が書いてある……部長? ちょうど部長が近くを通りかかったので、声をかける。
「あ、部長! これ、使ってますか?」
「あっ……う〜ん、そうだね、うん、使ってる」
「……これ賞味期限きれてますよ」
「……ダイエット、しようと、買ったんだけどね……とりあえず、家に持って帰るね……」
「お願いしますっ」
奥には、差し入れでもらったフルーツジュースが未開封のまま残っていた。この濃厚なやつ、結構飲むの勇気がいるんだよね。期限はまだ大丈夫そうなので、近くにいた人たちに声をかけるとあっという間になくなった。続いて冷凍庫を開けると、保冷剤がいっぱいだった。
「保冷剤、欲しい人います?」
「うちにもいっぱいあります」
「ですよねぇ〜」
大きいのと小さいのをいくつか残して、あとは処分することにした。いつか使うかも、と思ってとっておくけど、意外と使わないんだよなぁ、保冷剤。
* * *
最後、みんなで傘立てに置きっぱなしの傘を確認する。
「えっ、これ私の、探してたの」
「それ塩谷さんのだったんですか? 結構前からある気がします」
「やだ! 置きっぱなしなの誰よ〜、なんて思ってたのに」
「はは、見つかって良かったですね」
一度しか使ってなかった花柄の傘、あなた、こんなところにいたのね。
帰り道、雨も降っていないのに傘を持っているのは正直、邪魔なんだけれど、久々に見る花柄の傘はやっぱり可愛い。これを選んだ時、雨の日が楽しみだな〜、なんて思ったんだった。
……そのわりに、一回で会社に置いてきたんだけれどね。




