第63話 【本日のスキマバイト】王都の“雑貨店”
金曜日、今日のスキマバイトは、王都の雑貨店を選んでみた。
【 王都 雑貨店の品出し・売り場整理】
【 時給:3000ゴールド 】
【 備考:入荷商品の陳列、商品補充、片付けなど】
この前ジェラルドさんと歩いた商店街にあったかわいい雑貨屋さんたち。その中のどれかで働けたら、楽しそうだ。
この前一緒に作った写真立てには、二人の写真を入れた。ただ、恥ずかしくて、少し見えにくい場所に置いている。ジェラルドさんと写っていることもだけれど、それよりも毎日、自分の写真を見ることに慣れない。
* * *
転移して、想像と違う風景が広がっていることにびっくりする。“雑貨店”という名のこれは……。
「こんにちは!スキミーさんですよね、よろしくお願いします」
「あ、は、はい、よろしくお願いします! ひ、広いですね……」
「はい!このお店は、王都一の広さです!」
四本腕のスタッフが教えてくれたように、広い。ここは、雑貨屋ではなく……ホームセンターだ。
「届いた荷物を、売り場に出していきます。荷捌き所に置いてあるので、あ、台車も自由に使ってください」
「あの、売り場の地図とかって……」
「すいません、ないんですよ〜。棚の上を見ると、なんとなくわかるかもです。わからなかったらなんでも聞いてくださいね」
地図のないホームセンターはもはやダンジョンな気がする。言われた通り上の方を見てみると、ポールが飛び出ている所、三角コーンのようなものが出てる所……なるほど、これは結構難しいぞ。習うより慣れろ、一つダンボールを見ると“園芸用品”と書いてあり、開けてみると植木鉢のようなものが入っていた。
「植木鉢……は、あっちかな」
台車は少し宙に浮いていて、力を入れずに動かすことができる。おもしろい!どういう仕組みなんだろう。石や土が売っているあたりに鉢やプランターのようなものが並んでいて、うん、同じものがある。近くには、花の種や野菜の種も売っていた。
そういえば、三浦さんが庭付きの家を借りた、と言っていたけれど、お庭でこういうものを育てるのかもしれない。鉢を出し終わり、荷捌き場に戻ろうとした時、後ろから声をかけられた。
「すいません、洗濯物を干すロープが欲しいんですけれど」
「えっ、あっ、ロープ、ですね」
荷出しだけのはずが、声をかけられてしまった。ホームセンターの中で品出しをしているエプロンの人は店員だと誰もが思うだろう。周りを見てみるも、まだ洗濯コーナーがどこにあるのかわからない。他の店員さん〜〜……。
「洗濯ロープは、あの先の、柱の横ですよ」
「ありがとうございます!」
聞き慣れた声に振り向くと、そこには戸倉さんが立っていた。
「えっ、なんで」
「お客です。プランターと、種と、あと金具を買いに」
「い、いらっしゃいませ?」
戸倉さんは、ここでバイトしたこともあるらしくざっくりと店内の位置関係を教えてくれた。レジャー用品、消耗品、電気工具のようなもの……。
「店の地図、やっぱり作ったほうがいいな」
「欲しいですね……それ、なんか育てるんですか?」
「あー、はい、セレネが育ててみたいっていうんで」
二人は順調に愛を育んでいるらしい。ここで、私も実は、と打ち明けそうになったが、仕事中なので立ち話を長々としてはいけない。
「品出しに戻ります」
「しばらくお店ウロウロしてるんで、なにかあれば聞いてください」
頼もしい。けれど、この広さ、もう二度と会えない気もします。
* * *
その後の箱はというと……
「大型甲殻用やすり」うーん、爪切りとか耳かきかな、ヘルスケアかな。
「虫よけ」……パッケージに描いてある虫が巨大すぎるんだけれど、このサイズの虫がいる、ということ…?
「石」……この石が一番難しい、何用!?光るの、飛ぶの、火がでるの?
散々広いホームセンターの中を歩き回った最後の箱には「レジャー用品」と書いてあった。開けてみると、浮き輪や砂遊び用のバケツが入っている。そうか、夏の水遊びはこっちでもあるんだ。これは……どこに置こう? 子供の頃、家族で行ったホームセンターは、入ってすぐのところに季節のものが並んでいた。浮き輪に花火、そしてハロウィンのかぼちゃ、クリスマスツリー。お店に入った瞬間、ワクワクしたっけ。
「すいません、これなんですけど」
「ああ、これは、うーん、玩具のコーナーですかね」
「それなんですけど……入り口近くのあの空いている所、どうですかね」
お店に入ったすぐの少し空いた場所を指さす。
「……いいかも、しれないですね。置いてみましょう!」
「他の売り場から、日よけになるものとか持って来たらどうですかね?」
「たしかに!そうだ、冷却石も置きたいです!夏になると売れるんですよ」
二人で『夏コーナー』を作ってこの日のバイトは終了した。
* * *
「あ、戸倉さん」
「おつかれさまです、これ、どうぞ」
外のベンチに大きな買い物袋を持った戸倉さんがいて、コーヒーを渡された。
「わ、ありがとうございます。喉乾いてました」
「いいですね、入り口のところのコーナー」
「いろんな夏のものが集まりました」
この後セレネさんに会いにいく戸倉さんと、私の帰り道が途中まで一緒だったので、並んで歩く。
「そういえば……付き合い始めました」
「え、あの竜人さんと?」
「はい。色々とありがとうございました」
「なんだか、嬉しいです」
戸倉さんは、大きな荷物をブン、と一度だけ振った。
【 本日の給与:6000ゴールド 】
【 このワーカーへの評価:★★★★★ 】
【 コメント:夏コーナー、店長が絶賛していました!】
* * *
お風呂あがりにテレビをつけると、ちょうどホームセンター特集がやっていて、お笑い芸人さんが商品の使い方クイズをしていた。火の出る石の使いかたも、知りたかったな。




