第62話 写真立て作りと往復交通費
火曜日。今日は、ジェラルドさんと写真立てを買いに行く。
付き合ってから初めてのお出かけ。これは紛れもなく……デート、だ。久しぶりすぎて、その単語を思い浮かべるだけでもソワソワしてしまう。電話もメールもできなくて不安になるかと思ったけれど、仕事をして、洗濯をして、ご飯を食べていると、あっという間に会う日になってしまった。
普段は金曜日の夜に転移することが多いけれど、今日は退勤後すぐに向かう。ジェラルドさんのおやすみは土日固定ではないらしく、予定を合わせたらこの日この時間になった。こっちが夕方六時なら、向こうはお昼の十二時ぐらい。いつも夕方や夜に会っていたので、明るい時間に待ち合わせるだけで……なんだか緊張する。
* * *
転移すると、抜けるような青空のいい天気だった。転移門の前のベンチにジェラルドさんは座っていて、私が駆け寄ると嬉しそうに立ち上がる。
「なの花さん!」
「こんにちは、すごいいい天気ですね」
「ああ、昨日まで長雨だったのだが。太陽も、なの花さんを歓迎しているな」
そんなこと、ジェラルドさんじゃなきゃ言えないセリフすぎてちょっと笑ってしまった。差し出された手を握り、街のほうへ向かう。
「久しぶりに晴れたってことは、お洗濯してきたんですか?」
「いや、今日は……洗濯屋にお願いしてきた」
こっちでいう、クリーニング屋さんのようなものだろうか。というか、この世界、洗濯機、あるんだろうか……なんとなくだけど、各家庭に一台は無さそうな気もする。自分でやるより専門の人に任せた方が効率が良さそうだ。
「一人分でも、洗濯って結構時間も手間もかかりますもんね」
「わ、わかってくれるか! 姉には『自分のものは自分で洗いなさい』と言われているのだが……」
「お姉ちゃんいるんですね、私もです」
まだまだ知らないことを知れるのは楽しい。竜人のお姉さん、会ってみたいような、会いたくないような……。そうこうしているうちに、雑貨店が並んでいる場所についたようで、所狭しと店先に置物や花瓶のようなものが並んでいる。
「色々ありますね! これは…木の置物?このケースの中のものはなんだろう」
「それは魔銀でできた器だな」
魔銀。過去に魔王城と王宮の間で争いの元になったと言われているあの魔銀だろうか。銀色が光に照らされると、青やピンクにも見えて綺麗だ。……お値段は可愛くない。
「写真立てはあまり数がなさそうだな」
「そうですね、色々お店、見たいです」
魔法石をメインに扱ったお店、植物をメイン扱ったお店、などを見て回っていると、店先に小さな生き物を見つけた。近寄ってしゃがんでみると、近くに寄ってくる。ネコとも犬ともキツネとも違う生き物は、撫でてくれ、と首をこちらに曲げてきた。
「か、かわいい……人懐っこいですね」
「ああ、これはミルカ、という生き物だ。あまり撫でると、離れなくなるぞ」
「ふふ、ここのお店の子なんですかね?」
しゃがんだまま見上げると、そこは木の小物を扱うお店のようだった。
「いらっしゃいませ。あらあんたまたそんな、女の人に擦り寄って。ごめんね、綺麗な女性にすぐなつくんだ」
「綺麗……ふふ、お上手ですね」
立ち上がり店の窓を見ると“工房体験”と書いてあるポスターが目に入った。
「『お好きなものを作れます』」
「ほう。……これ、やってみるか」
「えっ、あ、あの、嫌、とかじゃないんですけど、私結構不器用で」
昔、友達と行った旅行でやった陶芸体験でも一番不恰好なものをつくりあげてしまっていたので、恥を晒すのではないかと焦ってしまう。
「好きな装飾をくっつけるだけでもできるよ!やってみるかい。ちょうど空いてる」
「写真立ては、できますか?」
「ああ、できるとも。よし、決まりだ、中に入って」
あれよあれよというまに店の奥の工房につれていかれ、貸し出しのエプロンをつける。隣をみると、かっこいいジェラルドさんがエプロン姿で可愛くなっていた。に、似合わない。
「ふふっ、そんな大きなエプロンもあるんですね」
「どうして笑うんだ」
「だって、なんか、アンバランスで」
「なの花さんは……似合うな」
「なんかそれも、どうなんだろう」
二人で笑い合いながら、まずはパーツを選ぶ。枠の形、色、つけたいパーツ。手芸屋さんのように並んでて、選んでいるだけでも楽しい。
「あ、これ」
「ああ、さっきのミルカの形だな」
「私一つはこれにします!」
ジェラルドさんは、ドラゴンを模したものと、星のパーツを選んでいた。私はあとは、お花の形。自分の名前もあって、どうしてもこういうときに花を選んでしまう。選んだパーツを並べていると、横から覗かれた。
「なんか、バランス悪いですよね」
「そうか?……これを、こっちにしたらどうか」
「たしかに! そっちのほうがいいかも」
作り上げると、お店のひとが仕上げの作業に持っていった。三十分ほどかかるから、お茶でもしよう、とまた外に出る。まだまだ明るい。テラスのあるカフェに入ってコーヒーを二つと、焼き菓子を二つ頼んだ。
「なの花さん、聞いておきたいことがあるんだが……」
えっ、急にどうしたんだろう。いや、急じゃない。聞いておきたいことなんて、私だっていっぱいある。しかし、どれを切り出されるのかわからない。
「ここにくるのに、毎回費用がかかっていると、聞いた……今日も、すまない、こちらが呼んでおいて」
「そのことですか! ふぅ、何を聞かれるかと思っちゃいました。はい、そうですね、チケットを買って来てはいます」
「値段を聞いてもいいか?」
五千ゴールド、と伝えたらびっくりした顔をした後に、納得した様子だった。往復交通費だいたい五千円、はまぁ、ちょっと高いけれど、世界を飛んできていると考えればだいぶ安いと私は思っている。
「俺に、出させてくれないか」
「ええっ、いいですよ、バイト代もありますし!」
「いや、そういうわけには。では、二回に一回でも」
人生において遠距離恋愛をしたことがないけれど、世の中の遠距離カップルはどうやってそこの折り合いをつけているんだろうか。考えたこともなかった。新幹線で大阪にいくほうが高い。しかし、ここで断り続けても話が着地しなさそうだ。
「じゃ、じゃあ、二回に、一回……?」
「ああ、じゃあとりあえず今回の分を」
「えっ、なんかお財布から出させるの申し訳なさすぎて」
「そ、そうだな。そういう気遣いが俺にはない。すまない」
こんな状況にマナーもなにもないと思うけれど、ちゃんと考えてくれたことだけで嬉しい。今日は、このカフェ代を払ってもらうことにして、次回、お金にはきちんと封をして渡す、というルールになった。
「これから、決めるルールもまだまだ出てきそう」
「ああそうだな。何かあれば、なんでも言ってくれ」
最初、口下手だと思っていたジェラルドさんは想像よりも気持ちや思いを口に出してくれる人なんだな、と感じる。焼き菓子はバターとキャラメルの味がとても美味しくて、コーヒーとピッタリだ。
「ナッツの味のも美味しそうでしたね」
「もう一つ、頼むか?」
「……半分こ、しませんか?」
「ああ、いいな」
* * *
お店に戻ると、先ほど渡した写真立てにツヤが出ていた。我ながらよくできているんじゃないか。パーツをつけただけだけど。店の主人と、ミルカに挨拶をして帰路につく。
「帰ったら写真、いれなくちゃ」
「そうだな、今、寝室に置いているんだが」
「し、寝室」
「ああ、起きて、なの花さんに挨拶してから仕事にでている」
「なっ……!も……!」
恥ずかしい、嬉しい、どうしよう、声にならない、顔を真っ赤にした私を見て、ジェラルドさんは今日一番の笑顔を見せてくれた。




