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第60話 【本日のスキマバイト】王都の配達補助

 今日のスキマバイトは、久々に王宮に行く。


【 王宮 配達補助】

【 時給:3000ゴールド 】

【 備考:王都の配達物の仕分けなど】


 最近は池の水を抜いたりバルで働いたり、肉体を使う労働が多かったけれど、久々に事務っぽいバイトだ。というのも、ある時から“王宮・宝物庫の整理”の募集を見なくなってしまった。まだ宝石の整理もしていないのに、何かあったのだろうか。


* * *


 転移すると、郵便局の倉庫のような場所だった。天井が高く……鳥?のようなものが何羽か飛んでいる。


「久しぶりだな」


 振り向くとそこには、エルバートさんがいた。相変わらず姿勢がいい。


「お久しぶりです! よろしくお願いします」

「こちらの募集にも応募してくれて助かる。実は、もう宝物庫のほうは募集していない」

「えっ、なにかあったんですか……?」

「……あなたのおかげだ」


 話を聞いてみると、同じ種類のものを出して、番号を振って、戻す、というやり方がうまく回るようになり、グリルダだけでも片付けられるようになったそうだ。その後、モノが増えても倉庫の中は綺麗にまとまるようになり、要するに……私はもう、あの仕事に必要なくなったと。


「なんか、複雑ですね」

「いや、改めて礼を言う。ありがとう」

「いえいえ……って、じゃあ、せっかくつけてもらった“収蔵品整理補助役”の役職は……」

「ああ、もう、その仕事はない。しかし、今日も“収蔵品整理補助役”の役職として働いてくれ。……給与の問題もあってな」


 どんな名前だろうが特に問題ないが、相変わらず王宮のルールはややこしい。エプロンをつけていると、元気のいい青年が「よろしくおねがいします!」と声をかけてきた。


「今日、一緒に働きます! トビアスといいます。トビーって呼んでください」

「よろしくお願いします。スキミーです」


 いつの間にかエルバートさんは部屋の端で書類仕事をはじめていたので、トビーに仕分けを教えてもらう。毎年この夏前の時期は、贈り物や手紙が増えると教えてくれた。お中元や、暑中見舞い、みたいなものだろうか。いろんな世界には、いろんな節目があるよね。


「棚についている魔法石の色が、送り先と紐づきます。例えば、そうですね、ギルドの受付行きはこの“深緑”です。送り先を確認して、棚に入れる、そうすると……」

「う、うわぁっ!!!」


 トビーが手をあげると、上空からすごい勢いで鳥が飛んできてびっくりしてしまった。羽が緑色の鳥は今仕分けた配達物をくわえ、そのまま天井の窓から出ていった。


「あはは!びっくりさせちゃいましたね。この子達は、“ルッカ”と言います」

「そういえば、ギルドでバイトしている時に綺麗な色の鳥を何度か見たことがあった気がします。この子たちだったんですね」


 要するに、伝書鳩、みたいなものか。日本でも本物の伝書鳩を見たことはないんだけれど。まずは山盛りになっている封書やハガキを教えてもらった通りに仕分けていく。宛先をみて、石の色で分ける。私が行ったことのない場所の名前も多く、その度に地図を確認する。この世界の地理がわかって結構面白い。


 棚がいっぱいになると、迷いなく鳥が降りてきて配達物を運んでいく。一つ目のカゴがからっぽになると、また山盛りのカゴをトビーが持ってきた。


「このカゴ、結構重いのに、力持ちですね」

「この仕事の前は、勇者をしていたんで、鍛えてたんですよ」

「え!勇者さんだったんですか。すごい」

「はは! 全然すごくないです。形だけの、勇者、ですよ」


 仕分けを続けながら、トビーはこの仕事を始めたきっかけを教えてくれた。


「今、戦争はしていないので、勇者の仕事はいざという時のための訓練と、あとは魔物退治です。スキミーさんは魔物、みたことありますか?」

「いえ、生きている魔物はまだ。でも、ギルドの冒険者さんが退治していることは知っています。ゴブリンの耳とか、見たことあります」

「魔物退治は、冒険者もできる。勇者は、王宮の所属なのはご存知ですか?」


 前に、『勇者の雇用は王宮マターで離職率が高い』と誰かが言っていた気がする。


「王宮は……魔物を退治しにいくのにも、申請書がいるんです。名前書いて、目的地はどこで、どのぐらいの予算がいるのか……。訓練所は王都の端にあって、そこから王宮に申請書を取りに行って、書いて、それを王宮に提出する。そんなことしてたら……」

「冒険者さんが、先に退治してしまう?」

「その通りです。申請書を受け付けてもらえた時に魔物はもう焼けちゃってます。巨大な魔物退治には竜騎士団が出ますし、畑を荒らす小さい魔物は村の人がギルドに頼んだほうが早いんです。最近は、冒険者もレベルが上がって中型も退治します。……やりがいなさすぎて、ここに転職しました」

  

 苦笑いをしたトビーに何て声を掛ければいいのか迷っていると、さっきギルドに飛んで行った緑のルッカがもう帰ってきた。速い!


「……ルッカは、使えないんですか?」

「え?」

「この子達に、申請書を運ばせられないんですかね?」

「この子たちが運ぶのは郵便なので……」

「申請書は、郵便にしちゃだめなんですか?」


 トビーが、仕分けをする手を止めた。


「えっ、そんな、え、どうだろう。申請書は窓口へ持っていくように教わったので」


 ああ、そういうの、うちの会社でもある。メールで申請が済むもの、フォームで申請するもの、紙に書いて社内便でおくるもの、申請番号が必要なもの、総務でハンコを押すもの……。もちろん、色んな理由や事情があることはわかっているけれど、申請する側からみると困ることも多い。トビーは、手を止めて考え込んでしまった。


「確かに、郵便扱いにしてルッカを使えば……、いいのか……?」

「申請した後、承認とかもあるとは思うんですが……」

「そうですね、でも、その発想はなかった! ルッカを使って申請を早められないか、考えてみます!これで、勇者の活躍がまた、見てもらえるようになるかも……!あ、もう僕は勇者じゃなかった」


 トビーは、嬉しそうにエルバートさんのもとへ駆けていった。私は、残りの仕分けを終わらせなければ。


* * *


【 本日の給与:6000ゴールド 】

【 このワーカーへの評価:★★★★ 】

【 コメント:助かった。仕組みの提案も、検討する 】


 こっちの会社の申請ルールを見直す提案も、してみようかな。

昨日、新作の短編を公開いたしました。

こちらの連載中ではありますが、もしよかったら読んでやってください。

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