第57.5話 閑話・換金所のPC入れ替え <換金所のおじさん視点>
閉店の準備をしていると、視線の端で手をひらひらと振られた。顔を上げると、久世が白くて平たい箱を抱えて立っている。
「もう閉めたよ〜」
「そりゃ困ったな……って、開けてくださ〜い」
「あいよ」
裏口を開けると、狭い部屋の机に白い箱を置いた。
「新しいパソコンか」
「それ、もう寿命だと思うんで。スペック高いやつ持ってきました」
「大したことしてないけどねえ。て、わざわざ部長さんが持ってきてくれたんかい」
「設定もあるんで、はい、これ、ゴンチャ」
普段、缶コーヒーばっかり飲んでいる俺だが、久世が持ってきたものだけは飲むようにしている。
「これ、この前見たな。『気が利くな〜』ってやつだろ」
「変なこと知ってますね。はい、それ飲んで待っててください」
一吸いすると、もちもちしたタピオカと芳醇な香りのミルクティーが同時に口の中に入ってくる。確かにこれは気が効くな。
「今日のお客は……四人ですか」
「ああ、あの、人の良さそうな女の人と、メガネの男と、金髪とあのラガーマンみたいなの。最近、あの女の子は全部換金しなくなったね、そっちで使ってるんじゃない」
「そうみたいです。なんか、いい感じの竜人がいるみたいで」
この換金所を任されて数年、結構な数の客を見てきた。一度きりしか来ない六十代ぐらいの男、頻繁にきていたのにめっきりこなくなった若い子、ずっと三ヶ月に一度くる女性……。全員の人生に深入りするつもりはないが、やはり頻繁にくる子のことは気にかけてしまう。
* * *
「よし、っと。ちょっと触ってもらえますか」
「あいよ、っこらしょっと」
「……なんか、じじくさくなりましたね」
「お前と違って俺はもうじじいなの」
この前、あの子に話した久世の新人時代の冷凍庫エピソードを思い出す。いつのまにやら世界を行き来して、ちょちょいとパソコンの設定もして、頼もしくなっちまった。二回目の人生をうまく乗りこなしすぎだろ。
「ん、大丈夫そうだな」
「なにか不具合あったら連絡してください」
「あいよ。さーて、今日は何が食いたいの」
「寿司!」
「はぁ?」
「回ってるやつで」
「そりゃどうも」
店の電気を落として、鍵を閉める。二人で商店街を歩くと、久世はチェーン店を興味深く覗いていた。
「日本のご飯は美味しそうなものばっかりだ」
「もっとこっち来たらいいんじゃないの」
「いや〜、意外とね、あっちでね、忙しくて」
「どうせ色んな人のお願い断れないだけだろ。お前は早く人に仕事を任せられるようになれ。いつまでも“自分がやったほうがはやい”って思ってるから時間がないんだ」
「はいはい、ありがたいお言葉どうもです」
「ま、じじいの戯言よ」
そうこうしているうちに店につくと、数組が待っていた。番号札を出して、店先の椅子に座ると、久世は一人楽しそうにガチャガチャを見ている。こっちの人生とあっちの人生、足してもう結構生きているはずなのにいまだに子供みたいな振る舞いをする。
番号が呼ばれ席に着くと、久世はタッチパネルを器用に使って寿司を頼み始めた。俺は流れてくるものを適当にいただく。回転寿司ってのはそういうもんだろ。
「おい、ビール頼んでくれ」
「はいは〜い、あ、茶碗蒸し食べます?」
「おー、食おうかな」
その後は、あっちの世界でのトラブルや異人怪人(と俺は思っているが、なんかそういうものでもないらしい)のエピソードを面白おかしく話してくれた。こいつが楽しいなら、俺はもうこの人生はそれでいいのかもしれない。誰にも求められていなかった、なんて言っていたお前が、今は忙しいとぼやきながら寿司を食っている。
「この店にも、スキミーさんいるんですよ」
「へぇ、あっちもこっちもスキマバイトかい」
そんなことを話していたら、アボカドが乗ったのや、ハンバーグにチーズまで乗ったのや、食べたことのない寿司が次々に運ばれてきた。なんだそれ、何のフライが乗ってるんだ? それはもう寿司じゃなくないか? なんか赤い……。
「うっまそ〜〜〜!いただきます!」
なんでも食える力が、どこの世界でもやっていける秘訣なのかもしれねえな。
お読みいただきありがとうございます。
毎日更新をしておりましたが、来週より更新頻度を少し落とさせていただきます。
毎日読んでくださる方、リアクション、感想くれる方、本当にありがとうございます;;
これからも連載は続きますので、ぜひお楽しみください!
過去の話も読んでくれると嬉しいです(好きな話があればそれも知りたいです)




