第57話 【本日のスキマバイト】魔王城の池の水抜いてみた
金曜日。今夜のスキマバイトは、魔王城での池の掃除を選んでみた。
【 魔王城 中庭の池の清掃補助 】
【 時給:3000ゴールド 】
【 備考:落ち葉や泥の回収、底の清掃など。長靴・手袋貸与 】
池の掃除。たまにテレビでやっていると見てしまうあれと同じ感じだろうか。ゴミが出てきたり、お宝が出てきたり、外来種が出てきたり。そもそも、あの城に池があったのか。ワクワクしながら替えの靴下の準備をする。
久しぶりの魔王城の手土産には、芋屋初代仙次郎の「長竹葛きり」を選んでみた。竹を模した容器の中にくずきりが入っていて、専用の押し棒で出して食べる。魔王様、楽しんでくれるといいな。
* * *
転移すると、魔王城のいつもとは違う玄関だった。迎えに来てくれた人に挨拶をして、紙袋にはいったくずきりを渡す。
「あの、こちら、魔王様にお渡しいただけますか。みなさんでお召し上がりください」
「ありがとうございます! お預かりしますね」
「冷やすと美味しいので、冷たいところにしまうといいかと」
案内について内廊下を進み、中庭へ出る。今日は少し早い時間帯なのでまだ明るいけれど、二時間もすれば日が暮れそうだ
「スキミーさんですね。今日は、よろしくおねがいします」
麦わら帽子から角を二本出した男性が、丁寧に挨拶をしてくれた。池の水はもうほとんど抜かれていて、底には重たそうな土があった。そうそう、テレビでよく見るやつ。池の奥の方をみると、一際大きな背中が丸まっているのが見えた。
「ガルガンチュア様?」
「おお、なの花! きてくれたのか!」
「はい!ガルガンチュア様も池の掃除、するんですね」
「ああ、暇だ、と呟いたら呼ばれてしまったわ!ははは」
そう言って掬った枯葉や泥などはたっぷり盛られていて、一度でだいぶ進んでいそうだ。
「底の土や葉っぱをこの袋に入れていってください。生き物がいましたら、こちらの桶に」
指さされた大きな桶の中で、キラキラ輝く銀色の背中が動いた。日本にはいない種類だろうか。
「生き物って、結構いますか?」
「そうですね、ある程度はもう別にしたんですが、まだいると思います」
噛み付く種類がいないといいな、と思いながら打刻をして、長靴と防水の上着を着用した。池の底に足を置いた途端、ぐに、と柔らかい感触がする。わぁ。これは、なかなか。
借りた道具で泥を手前へ寄せると、葉っぱや細い枝が一緒に集まってくる。それを少しずつすくって袋に入れる。水が含まれているからだいぶ重い。これは腕と腰にくる。半分ほど入れたところで、縁にいた男性が袋を持ち上げた。
「そのくらいで。いっぱいにすると持てなくなるから」
男性は袋の中身を運搬用の荷車へ移し、空にして戻してくれた。ふぅ、あと何回、何十回で綺麗になるだろうか……。
* * *
石の隙間に詰まった葉を取っていると、奥の方で何かが動いた。足が見える……カニ? ちいさな枝で突いてみると、こちらに顔を出す、え、亀?亀みたいな、蟹!?
「すみません、この子もつかまえたほうがいいですか?」
「ああ、そうだね、そっちの浅い桶に入れておいて」
あっさり言われたけれど、どうやって捕まえたらいいんだろう。手を出すとこっちに向かってきたが、捕まえようとするとするりと逃げてしまう。何度も取り逃していると、隣から大きな手が伸びてきて手のひらにちょこんと収まった。
「ガルガンチュア様!上手ですね」
「こいつらは後ろが見えないから、後ろからさっとつかまえるんだ、ほら、そこにもいるぞ、やってみろ」
「はい!」
* * *
引き続き泥をあつめていると、道具の先に、こつ、と何かが当たった。手をつっこんで拾うと、それは小さな器だった。いや、花瓶かな?……何を入れるためのものか、わからない。
「あの、これ、拾いました」
「器?なんだろう、いつもうちで使っているものじゃなさそうだけれど….とりあえず、そっちに置いてください」
池の端まで歩いて、綺麗な水で濯いでいると向こうから魔王様が歩いてきた。
「おお、なの花殿! 今日も手伝ってくれているのか」
「はい! お邪魔しています」
「その手に持っているものはなんだ?」
水を切って手渡すと、ぐるりと一周確認して魔王様は大きな声で笑った。
「こんなところにあったのか!」
「魔王様のですか?」
「昔、作ったんだ。城へ来ていた陶工に教わってな。見ていると、簡単そうだったのだが」
もう一度、杯を見る。そう言われてみると、へこみが魔王様の指にぴったりだ。
「難しくてなぁ。これは一応、杯のつもりだったんだが、はっはっは、今見てもひどいわ」
「結構味があって、可愛いですよ」
「はっは、なの花殿は優しいなぁ。いやぁ、もう一生、陶芸はやらん」
「ふふっ、わかります、その気持ち」
家のどこかにある編みかけのマフラーのことを思い出して笑ってしまった。
* * *
最後に道具と長靴についた泥を流したところで、終了時刻になった。水を戻すのは後日らしい。綺麗に水が張られた池も見たいので、次回の魔王城の仕事の時に見せてもらおう。
ほどなく、お茶とくずきりが運ばれてきた。魔王様が竹の形の容器を手に取り、首を傾げる。
「これは、どう食べるのだ?」
「この棒で押し出すんです。器の上で、ゆっくり」
やって見せると、透明なくずきりがにゅるっと出てきた。「おお!」と声があがる。魔王様も、ガルガンチュア様も子供のような顔で「おもしろいな!」と器に出していて、これを持ってきてよかった。黒蜜をかけて一口食べると、ひんやり、つるん。よく冷やしてもらったくずきりが、体を動かしたあとには余計においしい。
* * *
【 本日の給与:6000ゴールド 】
【 このワーカーへの評価:★★★★★ 】
【 コメント:池が綺麗になりました。魔王様の落とし物も見つけてくれてありがとう 】
部屋に戻り、まずはお風呂に入った。こっちの仕事では一日デスクワークなんて日も少なくないが、最近のスキマバイトは体力勝負のものばかりだな。筋肉、ついたんじゃない?




