第46話 スキミー運営事務局での面談(後編)
「前の人生で、人材派遣のお仕事……」
「二十五歳で死んじゃったので、そんなに長くはなかったですけどね」
二十五歳。今の私より、ずっと若い。どう返していいかわからずにいると、久世さんは「こちらでは、赤ちゃんからやり直しましたよ」と少し笑った。
「それって、記憶は全部残ってるんですか?」
「ええ。もっとも、こちらでの小さい頃の記憶も、もう曖昧ですが」
久世さんは机のボールペンを指先で少し転がした。自分のほかにも転生者がいると知ったのは、こちらでしばらく暮らしてからだったという。前の世界の知識を持つ人は、昔から頼りにされてきたそうだ。道具を作る人、農業を教える人、商売を始める人。カーミラ様が、一緒に結婚式の衣装を選んだと言っていた人も、転生者、だったのかもしれない。
「あれ、でも、日本の会社とやりとりしているってことは、日本にも戻れたんですよね?」
「はい。ただ、それも大変だったんです。塩谷さんにもご利用いただいている転移門は、最初から日本へつながっていたわけではなかった」
別の世界へ渡るための研究は、この世界でずっと昔から行われていたらしい。久世さんは、その研究をしている人たちと、何年もかけてようやく道をつないだのだという。
「日本に、戻りたかったんですか?」
「そうですね。こちらの暮らしが嫌だったわけではないんですが……会いたい人が、いたので」
久世さんはハーブティーを一口飲んで、にこりと笑った。
「ご家族、とか……」
「いえ、両親は僕より前に亡くなっていて、兄弟もいませんでした。元の世界との縁が少ないことも、転生する条件の一つなのかもしれませんね。……でも、会いたい友人がいたんです。その話をすると長くなってしまうので、またの機会に」
そう言ってボールペンを持ち直したので、私もそれ以上は聞かなかった。
* * *
「こちらでは、ずっとスキミーの運営をしているんですか?」
「いえ、最初はギルドの受付なんかもやっていました。けれど、働いているうちに『今だけ誰か手伝ってくれたら』と思うことが多くなりまして」
祭りの前だけ、収穫の時期だけ、帳簿を締める数日だけ、病気で誰かが休んだ時だけ……。毎日ではなく、一時的に人が足りなくなる職場がある、それはどこの世界でも一緒だ。
「ときどき言われたんです。あなたのような転生者が、もっともっと来てくれればいいのに、と」
久世さんは、少し肩をすくめた。
「でも、それだと誰かが亡くなるのを待って、さらに赤ちゃんから育つのを待つことになります。どんな仕事ができる人なのかも、わかりません」
「今、人が足りないのに、それは待てないですね」
「ええ。僕はもう、日本へ行って戻ってこられていましたから。だったら、生きている人に来てもらって、仕事が終わったら帰ってもらえばいい。こちらの人手が足りないからといって、誰かに死んでもらう必要はないでしょう」
久世さんはそう言って、机に置いてあった私のスマホへ目を向けた。
「先ほど話した友人に相談したら、ちょうど自分の会社がやっていることだ、と。それが、スキミーだったんです」
「あ、そこからなんですね」
「はい。今の仕事や生活はそのままで、空いている時間だけ働きたい人と、その時間に手伝ってほしい職場をつなぐ。やりたいことは同じでした」
門を管理する人たちの許可や、日本側との契約。実際に始めるまでには、色々あったそうだ。生きて渡る場合にも適性が必要で、誰にでもこちらの案件が表示されるわけではないという。
「でも、来てくれた人に、ずっといてほしくもなるんですね」
「はい。短い時間だけ募集したはずが、いい人だったので常勤でお願いしたくなる。日本でもあるそうですよ。ただ、それを決めるのは働く方ですから」
今くらいがちょうどいい、と答えた時にもあっさり頷いてくれたことを思い出した。机の上でスマホが震える。もう一時間経ったのか。
「ああ、僕の話が長くなりましたね。今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。聞けてよかったです」
鞄を持ち、帰りの門までの道を教えてもらう。「何かあれば、ご連絡ください」と言われ、もらった名刺を財布にしまった。
* * *
【 本日の謝礼:3000ゴールド 】
【 コメント:貴重なお話をありがとうございました。今後の運営の参考にさせていただきます 】
部屋に戻ると、出かける前に脱ぎ散らかしたパーカーがソファの背に引っかかったままだった。冷蔵庫からお茶を出して、スマホを見ると、母から『元気?』とだけメッセージが届いている。
『元気だよ、近々そっち行くね』と返して、カレンダーを開いた。




