第4話 【本日のスキマバイト】ドラゴン厩舎、清掃補助
今日の勤務内容は、ドラゴン厩舎の掃除だ。
前回の反省を踏まえて、今回は最初から働きやすそうな格好をしておいた。といっても、Tシャツにパーカーに履き慣れたジーンズ、髪はひとつ結び。動きやすさ最優先のオシャレとは無縁な三十二歳である。
厩舎は、馬小屋のでっかい版でしょ!と想像したけれど、規模が段違いだった。小屋が体育館サイズで住人が観光バスサイズ。
「新人さんは尻尾側から近づかないでくださいね。あと、闘志出さないでください。誘発されちゃうので」
教育係のドワーフのおじいさんはそう言って私に巨大なブラシを渡した。生まれてこの方、闘志なんてかけらもないけれど、出したらどうなるのか正直興味はある。
「かわいいだろ。こいつはメスのフローラってんだ。鱗の間の苔を落としてやってくれ、気持ちよかったら喉を鳴らす、嫌だったら鼻から煙が出る。煙が出たら一回やめて、落ち着いたら再開する」
わかりやすい労働安全マニュアルだ。厩舎の壁には申し送りのボードが掛かっていて、竜ごとの注意書きが並んでいる。フローラの欄にはこう書いてあった。
『フローラ:右肩に戦闘の古傷があり、時たま痒がる。丁寧にやれば大人しいので、無理はしないこと』
やたら端正な字だった。この前の戦士のおじさんといい、この世界、字がきれいな人が多い。
「ああ、それはうちの副長の字だ。フローラの担当騎士でな。今は遠征に出とるが、留守の間の世話の指示だけはこの通り、丁寧に書いていきよる」
「へえ……まめな上司ですね」
「まめというか、竜が、大好きなんだな」
ふうん、やっぱりちょっと馬の世界に近い気がする、と思いながら、私は言われた通り右肩のあたりから恐る恐るブラシをかけた。フローラはすぐに地鳴りみたいな音で喉を鳴らす。少し驚いたけれど巨大な金色の目が薄く閉じられて、寛いでいるようだった。よかった。
時給3800ゴールドで竜の鱗を撫でているなんて、人生はなにがあるかわからない。週休三日の余白の使い道がまさかこれだとは会社も思わないだろう。
その後、鼻から煙がでることなく作業は終了すると、帰り際にフローラは私の背中を鼻先でつついて、ぽとりと自分の鱗を一枚落としてくれた。
「おお!お嬢さん、フローラに気に入られたな、竜の鱗は売れば金貨二十、いや今だと三十枚にはなるぞ!」
嬉しい!目の前のフローラにありがとう、とハグをすると、満足そうに鼻から煙をだしてくれた。金貨にすることはないよ、大事にとっておくね。
その夜の通知はこうだった。
【 本日の給与:7600ゴールド 】
【 評価:★★★★★ 】
【 コメント:フローラが懐くのは珍しいです。また来てください 】
枕元には竜の鱗が一枚。夜の照明を受けて、金色の中に緑色が入り混じってキラキラと光っている。私はそれをしばらく眺めてから、ハンカチにくるんで、引き出しにしまった。
私の人生の引き出し、空っぽだけど、今日、世にも珍しいものをしまうことができたよ。




