第3話 金券ショップと週休三日
翌朝は当然のように死んでいる、はずだった。
なにせベッドに入ったのは四時前だ。ところが目覚ましで起きた私の体は、不思議なくらい軽かった。肩こりすらない。むしろいつもより……調子がいい?
「……なんでだ」
若いから、ではないことだけは確かだ。なぜなら、三十歳を過ぎてからの徹夜は一度もできていない。ただ、会社のデスクに着いてから気づいたのは、体は元気なのに心のほうが妙にそわそわして落ち着かない。会議中も、ふとした瞬間に金貨の重さとか、ゴブリンの耳とかを思い出してしまう。現実の資料が頭に入ってこない。前もそこまで入ってなかったけれど。
徹夜明けとは別種の、遠足のあとみたいな疲れ方だった。体は無事でも、心は普通に消耗していたんだろう。知らない世界で二時間気を張って働いたのだから当たり前か。
思えば私は、現世をだいぶ省エネで生きていた。会議では聞かれたことだけ答えて、飲み会は二次会に移動する時にしれっと一人で帰宅して、その代わりドタキャンや風邪を引いたりは少なめ。かなり燃費がいいと思う。その私が、昨夜は二時間ずっと、起こる事象に当事者意識を持って取り組んでいた。
だから決めた。もし、今後スキミーの案件にあっても、あっちに行くのは、休みの前日だけにする。週休三日、ありがたい。会社よ、あの制度はこのためにあったんだね。
――さて、今抱えている一番の問題は革袋だ。金貨なんて持っていても使えないし、売るにしても、どこに?メルカリ?絶対だめな気がする。帰宅して一番に袋を開けてよく見てみると、革袋の中には案内の紙が一枚入っていた。そこには、最寄りの駅前の金券ショップの名前と「ゴールド両替承ります」の一文が印刷されている。我が街にこんな場所、あったっけ?
明日食べるヨーグルトを買いたかったのもあり、もう一度家を出て半信半疑で地図の場所へ行ってみる。駅前のいつも通り過ぎていた細い路地の奥に、その店は確かにあった。古き良きタバコ屋のような見た目のその店に座っていたおじさんにチラチラと目配せをする。
「おじょうさん、なにか、ようかい?」
自分から話しかけられず相手に察してもらう、私の悪い癖だ。「あの、あの〜……」とどもりながら革袋を出すと、優しそうなおじさんは顔色を少し変えて眼鏡を持ち上げた。
「おやおや、お客さんでしたか。お預かりしますね」
目の前で袋の中の金貨を出し、確認している。電卓を叩いて、計算が終わるとレジから日本円をトレーに置いてくれた。8040円。
「あの、これって」
「また、どうぞ」
何も聞かれなかったし、何も説明されなかった。あの店は多分いろいろ抱えている。
金額は、だいたい1ゴールド1円くらいのようで、2時間のバイト代にしてはだいぶ多い。ちょっと高めのヨーグルトを買って帰れるぐらいにはお財布が潤った。
その夜から、私のスキミーの見方は変わってしまった。時給1,230円のスーパーの品出しと同じ画面に、時給4,200ゴールドの世界がある。おそらく、何かの条件が重なった人だけに表示されているのだと思うが、誰にも相談できないし考えるのはやめておこう。
そして、金曜日、休みの前日の夜がきた。ドキドキしながらスキミーを開くと……ある。
【王都ドラゴン厩舎 清掃補助 23:00〜25:00】
時給:3800ゴールド
ドラゴン!レビューにあった、あのドラゴンだろうか。一瞬悩んだが、また、軽率な指が押してしまった。だって、明日は土曜日、休みだから!




