第20話 部長との面談、そして
月曜日、部長との面談だった。
会議室に入る前にトイレの鏡で髪型を直しながら、珍しくちょっとだけ緊張していることに気がつく。ちゃんと向き合っている証拠……なんだろうか。
「お疲れ様です。あの、マネージャーの件なんですが……」
「うん。あ、というか……先に言っておくと、あれ、三月に高野さんが産休に入るから、ってのもあって。ちょっと詳しく言えなかった中での打診で申し訳なかったんだけれども」
まぁ、そんなことは知っていた。高野さんから直接報告はまだされていないが、少し前に休みがちだったのもあり部署の女性はうっすらみんな気がついている。打診が来たのは高野さんの席が期間限定とはいえ空いて、その穴を埋められそうな部署にいる人間が私だったから、だろう。
「……是非、お受けさせてください。正直、全然自信ないですが、チャレンジしてみたいです」
意外な返事だったのだろうか、部長は「お、おお!」と身を乗り出してから、塩谷さんならできると思ってたよ、と笑った。できるかどうかは正直まだわからないし、高野さんが戻ってきたときにこの席がどうなるのか。まあ、そのときはそのときだ!
「では、引き継ぎをしてもらって、年明けから正式にお願いします。何かやってみたいこと、ある?」
「う〜ん……まずは、担当が決まっていない案件を、なくしたいです、かね」
「担当が決まってない案件?そんなのあったっけ」
「細かいことなんですけど、展示会の会場費の精算とか、廃番になった椅子の在庫の扱いとか、歓迎会の幹事とか。ああいうの、今までは気づいた人がやってたんですよ〜。私とか、高野さんとか……」
うちはオフィス家具のメーカーで、営業も生産も物流もそれぞれの持ち場はきちんとしているのに、そのスキマに落ちる仕事だけが、いつも宙に浮いてしまっていた。
「なので、“気づいた人がやる”んじゃなくて、小さくても案件ごとの担当と期限を決めて、回せればなぁと」
「……今までみたいに、塩谷さんが全部やってくれるほうが早くない?……ってのが、よくない、ってこと、だ!はは」
自分で言って自分で気づいたらしく、部長は気まずそうに笑った。そこで開き直らないところが、この人のいいところだと思う。まあ、この件に関しては黙って拾い続けていた私も同罪ではある。ただ、高野さんが抜けた穴をまた誰かが黙って埋める形にならないようにしたい。
ちなみにうちの部長は、挑戦の背中を押してくれて、失敗したら率先して一緒に謝りに行ってくれるタイプで、悪い人ではない。考え方も常々アップデートしてくれるので、伝えればわかってくれる。
「じゃあ、引き継ぎしつつ案件を洗い出すところからはじめてみます」
「うん。……頼りにしてます。よろしく!あ、給与の件は、この次の査定で説明するから」
そうか、昇進、だと給料もあがるのか。
面談室から出ると、高野さんがそこに立っていて、私を自販機の前まで黙って引っ張った。
「……OK、した?」
「……しちゃいました〜、はは」
「よかった〜……なの花ちゃんなら、絶対できる!」
高野さんは、三歳年上の優しい先輩。自販機のミルクティーを買ってくれて、休憩がてらお話しをすることになった
「……というわけで、産休にはいります〜」
「おめでとうございます!そうじゃないかな、とは思っていたんですけど、聞くわけにもいかなくて」
「そういう気遣いも、ほんとありがとうね。……あのね、私が抜けたあと、全部一人でやろうとしないでね。ま、適当に、適当に」
「はい。安心して帰って来れる部署にします…!」
仕事の話はそれだけで、あとは雑談を楽しんだ。高野さんがいなくなってしまうのはさみしいけれど、赤ちゃんはとっても可愛いんだろうな。生まれたら会わせてください、と約束をした。
その夜、スキミーに新着案件が届いていた。
【急募】王立厩舎 冬支度の準備補助
備考:担当騎士より、記録係の指名希望あり
厩舎!担当騎士……!!
現実世界でドっと疲れてしまったから慎重に仕事を選びたいのに、私の指は迷うことなく【承諾】ボタンを押していた。
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