第19話 【本日のスキマバイト】魔王城、祭りの企画会議
月に一度の魔王城の書類整理の日がやってきた。しかし、魔王城の会議室には、今月も書類の山がなかった。
その代わりテーブルの真ん中に紙が一枚置かれていて、魔王の字で『祭』と書いてある。先日行われた王宮の祭に、どうやらこっそりと参加して……いたのを、私は実は天空から見た。変装していても、この大きな体は隠しきれていませんでしたよ。
「収穫祭のことが、忘れられないのだ……。我が城でも、祭りを開催したい」
「……わかりました。では今日は、企画会議をしましょうか!」
今日の手土産は、マーロウのプリンにした。先日が和菓子だったので、洋菓子にしようと思ったのと、あの店のプリンは味がいくつもあるので、複数人で選び合うのにちょうどいいと思ったのだ。
「なにこれ、ガラス……? 瓶に入ってるの?」
「ビーカーっていう、元々は実験に使う入れ物なんです。食べ終わったら洗って使えて便利なんですよ。再利用できて、サステナブルです」
レヴィナス様にこの器を目盛りの意味を真剣に聞かれたので、量を測るためのものだと答えたら、たいそう感心していた。
味は五つ。カスタードが二つに、抹茶、チョコレート、エスプレッソ、かぼちゃ。テーブルに並べた瞬間、全員の熱い視線が刺さった。
「余は……この、緑のものが気になるわ」
興奮しているのか、なんだか語尾まで変わっている。ガルガンチュア様はチョコレートを取り、カーミラ様はエスプレッソを取ってから「やっぱり抹茶にしようかしら」と魔王のほうを見て、魔王がそっと自分のビーカーを抱え込んだ。ネクロス様はかぼちゃ。余ったカスタードは私がいただいたけれど、定番はやっぱり間違いがない。会議室で五人が黙々とプリンを食べている絵面は、魔王城で見るにはあまりに平和だった。
さて、お祭りの企画会議である。とはいえ私は月に一度しか来られない(来ない)ので、決めるのは具体的な内容ではなく進め方だ。まず、目的をひとつに絞ってもらう。城の皆をねぎらいたいのか、外から人を呼んでもてなしたいのか。魔王は少し考えてから前者だと言った。それなら規模はそこまで大きくなくていいだろう。実施は、年末に二日間の開催を予定することになった。準備期間は約二ヶ月だ。
次に、実行委員長を決める。ここが一番大事なところだ。やる気がある人がリーダーに立つことで、大概のことは進んでくれる。
「どなたか、やってくださる方はいますか」
しばらく互いに様子を見る沈黙が続いたあとで、フードの奥からぼそりと声がした。
「……名簿を、作ったので……誰が、何を、できるか……全部、書いてある……」
まさかの、ネクロス様が手を挙げていた。三百体分のあの名簿は、いつのまにか人員台帳に育っていたらしい。
「おお、ネクロス、実行委員長をしてくれるのか!」
「……はい」
「まぁ、ネクロスが!? でも、向いてるかもしれないわね」
一瞬不穏な空気が流れそうになったが、やると言ったらやってもらおう。あとは他の人の役割を割り振って、期日を決めればいい。予算はレヴィナス様、催しの企画はガルガンチュア様、広報はカーミラ様になった。
「私が次に来るのは一ヶ月後ですけれど、皆さんならできるはずです」
「本当に、できるだろうか……」
「朝に三十分、夕方に三十分、報告会を開くようにしてください。そこで、困ったことなどあれば、意見を出し合って解決してください。解決しなさそうなことがあれば、わたしが一ヶ月後に確認します」
そう言ってから、自分で少し驚いてしまった。前の私なら「仕方ないので来週も来ます」と言っていた気がする。私が動くことで解決することは、少しでも減らしておきたい。
帰り際、カーミラ様が扇の陰から言った。
「ねえ、あなた。最近、いい顔してるわね〜」
「そうですか?」
「ええ。仕事の話をしているときの顔が、前より楽しそうだもの。……それとも、他に理由があるのかしら? うふふ」
この人はどうして、こういうことにだけ勘が働くんだろう。
その夜の評価画面はこうだった。
【 本日の給与:10000ゴールド 】
【 このワーカーへの評価:★★★★★ 】
【 コメント:祭りの準備が始まりました。ネクロスが委員長です。信じられない 】
信じられない、は失礼だと思うけれど、気持ちはわかる。




