↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/18

第18話 駅前のドトールと、数年ぶりの連絡先交換

 月曜日の会社帰り、なんとなく足が向いて、駅前の路地を通ってみることにした。


 両替するゴールドは手元に今はないのだけれど、あの店の前を通ると、この毎日が夢じゃないことを確認できる気がするから。店の前を通りかかると、珍しくお客がいた。灰色の上着に黒縁眼鏡、少し猫背の後ろ姿……。


「……え、戸倉さん?」


 振り向いたその顔はまさに先日異世界で会った人で、彼は、私を見て三秒固まってから言った。


「……え。塩谷さん?なんでここに」

「私、この街の先に住んでます」


 聞けば、沿線は同じの二駅違い。私は社会人になってからずっと同じ場所に住んでいるから、現実で戸倉さんとすれ違っていたのかもしれない。まぁ、現実世界での私たちはなんていうか、ちょっと地味だからお互いに景色の一部だったとは思うけれど。


   流れで、私たちは駅前のドトールに入ることにした。奥の方の二人席を確保して、戸倉さんはアイスコーヒーを、私は夜ご飯前だったけれど小腹が空いていたのでミルクレープとブレンドを頼む。後の用事が特になかったこともあって、それから一時間近く話し込んでしまった。異世界のことを気兼ねなく話せる人と現世で向かい合っているのが、なんだかとても変な感じだ。


 わかったことがいくつかある。


 戸倉さんの年齢は私の二個下の三十歳。スキミー歴は九か月で、私より半年先輩。最初の案件は「風車小屋の点検」で、やっぱり夜中にアプリを開いていたらタップしていないのに転移させられたという。こちらの世界ではシステムの受託会社?で保守運用をしていて、夜間の障害対応が多いから、深夜に動く生活は特に苦じゃないらしい。


「ランク、ゴールドなんですか? 一個上じゃないですか。え〜、すごい」

「すごいんですかね? 基準がわからないから、単純に登録期間とかかも」

「ゴールドの上って、あるんですかねぇ」

「あるらしいですよ。あっちの世界の人がなんか言ってた気がします」


 窓の外を帰宅ラッシュの人が流れていく。私たちの前にはほぼ飲み切ってしまったコーヒーがあり、異世界の話をするには、あまりに現実的な景色だった。


「……お腹空いたんで、サンドイッチ買ってきていいですか?」

「いいですね、私も夜ご飯、食べちゃおうかな」


 二人で再びレジに向かう。ドトールといえばミラノサンド。私はエビが入っているやつ、戸倉さんは……牛? そんな味、ミラノサンドにあるんだ!?


「異世界、怖いですか?」

「いえ。……毎日、わくわくしてます」

「ですよね、俺もです。こっちの世界でも頑張りたいんですけどね〜」


 戸倉さんはそう言って、また少しだけ笑った。ついでに会社の話も少しした。現職で、マネージャーの打診が来ていること、返事の期限が来週だということ。


「やらないんですか?」

「うーん、マネージャーって、人のマネジメントするってことじゃないですか。私、いままでそんなことしたことなくて」

「でも、あっちではやってるじゃないですか。この前の設営、俺、見てましたよ。上手に捌いてたじゃないですか。しかも、ドワーフとか、エルフとか、もはや人間じゃないやつを」


 言われて、返事に詰まってしまう。見られてたのか。


 ミラノサンドのお皿もからっぽになり、私たちは店を出た。改札の手前で、戸倉さんが少し言いにくそうに切り出す。


「あの。今後、色々トラブルもあるかと思うんで、連絡先、いいですか」

「あ。……そう、ですよね。はい。お願いします」


 いいですかと聞かれて、はい、と答えるまでの一秒くらいの間に、私の頭の中では余計なことが高速で駆け巡っていた。いや業務連絡だから。情報共有だから。というか私、最後に男の人と連絡先を交換したのっていつだっけ?それも業務連絡用だったな。あれ、LINEの連絡先交換ってどこからやるんだっけ。QRコードみたいなの、どこから出すんだっけ。


「あ、すみません、私、こういうのちょっと久しぶりで」

「俺もです。会社の人以外だと、たぶん二年ぶりくらい?」

「結構レベル高いですね」


 いい大人が、駅の改札前でもたもたと画面を突き合わせているのはだいぶ滑稽だ。登録できて、当たり障りのない某ちいさくてかわいいスタンプを送付する。それだけのことなのに、なぜか少し、そわそわしてしまう。


「じゃあ、また、どこかの現場で」

「はい。どこかの現場で」


 改札で一礼し、家の方へ向かった。LINEに増えた登録に、どうしてもそわそわしながら。……いや、そんなことにそわそわしてどうする。業務!仕事〜〜!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。