第16話 ランクアップと、「T」さんのレビュー
収穫祭が終わって、最初の月曜日が来た。
金曜も土曜も“あっち”の世界にいたせいで、昨日は一日ぼんやりと過ごしてしまった。体に不調はないけれど心が疲れている。さすがに働きすぎたので、しばらくスキマバイトは週に一回に戻そうと決めた。私の生きる世界は、“こっち”のはずだから。
その本業のほうでは、部長との面談の日程が来週に決まった。マネージャー打診の返事は、それまでに出さなければならない。三か月前なら、間違いなく断っていたと思う。人をまとめる自信もなかったし、責任が増えるくらいなら今のままでいいと本気で思っていた。
なのに今は、少し違うことを考えている。この前の設営の夜、三つの班の間を歩き回って伝言をすると、こんがらがっていた現場が動き出した。あのとき私は、確かにやりがいを感じていた。マネージャー、案外向いてないことも……いやいや、“現実”はそんなに甘くない。
もう三十二歳?まだ三十二歳。なんだってできるよ!と人には言えるけれど、自分のこととなるとそれは別で。結局その夜も答えは出ないまま、ベッドの中でスキミーを開いてしまった。……ん?いつもと画面が違う。
【 おめでとうございます! 】
【 あなたのワーカーランクが「シルバー」に昇格しました。特別案件が解放されます 】
ランク制度なんてあったんだ。無駄にキラキラと銀色に光る画面を眺めてみたけれど、何を基準に上がったのか、シルバーの上にゴールドはあるのか、説明はどこにも書かれていない。相変わらず、この運営は肝心なことを教えてくれない。
新しく解放された特別案件の一覧を少しだけ眺めてみた。王宮の宝物庫の棚卸し、エルフの森の薬草畑の検品、転移門の定期点検の立会い。時給は普段の案件とほとんど変わらないのに、並んでいる内容だけが妙に豪華だった。なるほど、ランクが上がっても賃上げというわけではないのか。悔しいけれど……ワクワクしてしまう……宝物庫、行ってみたい!
そして最後のひとつの案件のレビュー欄で、私の指が止まった。
【 転移門 定期点検の立会い 】
【 難しそうでしたが、一回抜いて入れ直したら直る、と教わりました。電子機器を直したことがあれば、誰でもできると思います 】
投稿者の名前には「30代/T」……これ、絶対戸倉さんじゃん。初めて、アプリと現実が繋がっている気がした。レビューは書いても書かなくてもいいから私はスルーしていたけれど、戸倉さんはマメなんだな。
日本の、どこにいるんだろう。案外近くにいるんだろうか。ゴールドの換金所で、うっかり会えたりしないかな。
そこまで考えて、ハッとする。ここ数年、男性に「会えないかな」なんて思ったこと、なかったのに!




