第12話 主任からの打診と、金貨の正体
週が明けて、現世はいつも通りに続いている。
いつも通りじゃなかったのは、会議のあとに部長から「塩谷さん、ちょっといい?」と呼ばれて、来期からマネージャーをやってみないかという打診をされたことで、私は「少し、考えさせてください」と答えてしまった。断り文句ではなく、本当に考えたいと思った。半年前の私なら、面倒ごとが増えるだけだと即答で断っていた気がする。
お昼休み、紗代に「ねえ、」と切り出された。
「先週、なの花がデパ地下で真剣に手土産選んでるのみちゃったんだけど、あれ、誰への贈り物?」
「えっ、見てたなら声かけてよ」
「だってなんか話かける隙もない感じだったよ」
「と、とりひき、さき……?」
「会社でそんな役割だったっけえ?」
嘘は言っていない。あちらのみなさんは、気持ちのうえではまだ取引先のようなものだ。お給金も発生しているし。
会社の帰りに先週の給与を換金しに例の金券ショップへ寄る。ついでに、ずっと気になっていたことをおじさんに聞いてみた。この金貨って、純金なんですか、と。溶かして売ったほうが高いのでは、という下心が半分、素朴な疑問が半分だったのだけれど、おじさんは眼鏡越しに金貨を一枚つまんで、こともなげに言った。
「こりゃあ、金じゃあないですよ。……さんの金貨はね、魔銀って合金に金を薄ーく張ったもんです。こっちの世界じゃ溶かしてもただの謎の金属で、値なんかつきません。だから額面で替えてあげてるんです。うちは良心的でしょう」
今、金貨の前に何かの名前を言ったと思うんだけど、聞いたことのない響きでうまく聞き取れなかった。聞き返そうとしたときには、おじさんはもう電卓を叩き始めていた。
じゃあこの店はいったいどこで利益を出しているんだろう、という新しい疑問が生まれてしまう。聞いても、どうせまた濁されるんだろうけれど。
そして木曜日の夜、スキミーに見慣れない形式の通知が届いた。
【指名予約】王都収穫祭「なんでも相談窓口」運営補助
日時:収穫祭当日 22:00〜26:00(四時間)
時給:5000ゴールド
雇用主:王都収穫祭実行委員会(冒険者ギルド・王宮・王立厩舎 合同)
四時間は今までで最長で、さらに注目すべきは雇用主、の欄だ。ギルドと、王宮と、厩舎の合同。つまり私の取引先が、ほぼ全部そこに集合するということになる。
合同でお祭りができるくらいなら、書類のたらい回しも部署をまたいで解決できそうなものだけど、と思ってから、うちの会社も年に一度の全社運動会だけは全部署が完璧に連携するのを思い出した。どこの世界も、お祭りだけは縦割りを超えるのかもしれない。
当日は土曜日の夜で、翌日は休みだからルールの範囲内ではあるものの、二十六時までとなると帰りは夜中の二時になる。少し迷ったけれど、屋台、という文字を見つけて迷うのをやめた。異世界の屋台を、見てみたくないわけがない。
「……お祭りに行くだけだから、ね」
その前の連休には、魔王城との月に一度の約束がある。カレンダーに並んだ異世界の予定を眺めて、私のスキマ時間、本当にスキマがなくなってきたな、と思った。
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