第11話 【本日のスキマバイト】繁忙期ギルドの補佐
金曜日夜、私は久しぶりに王都冒険者ギルドの受付に立っていた。
魔王城やら王宮やらに呼ばれているうちに、気づけばこちらのギルドへの訪問は三週間も空いてしまっていたのだけれど、カウンターの向こうのセレネさんは私を見つけるなり、蜂蜜色の髪を揺らして両手を振ってくれた。若草色の制服に『セレネ』の名札、長い耳が嬉しそうにぴこぴこ動いていて、この人は感情が全部耳に出るんだなあ、かわいいなぁ、と思う。現実世界の後輩にいても、可愛がってしまうだろう。
「なの花さーん!じゃなかった、スキミーさーん!お久しぶりです〜!」
「ご無沙汰してます。あの、これ、よかったらもらってほしいの」
久々のギルド、何か贈り物をしたくて持ってきた手土産は、鈴懸の鈴乃最中にした。鈴の形をした小さな最中で、見た目が可愛くて日持ちがして、休憩室でつまみやすい。デパ地下で見た瞬間に、なんとなくセレネさんの顔が浮かんで、選んでしまった。
「可愛い……!鈴?これ、鈴の形なんですか?」
「“あんこ”がいっぱいはいってます」
「あんこ……?」
「あ、お豆を砂糖で煮た……まぁ、一度食べてみてください」
こんなに喜んでもらって、選んだ甲斐があったと思う。
さて、今夜のギルドは、いつもと空気が違った。掲示板の前に冒険者が鈴なりで、依頼書が貼られたそばから剥がされていく。聞けば、二週間後に王都で収穫祭というお祭りがあるらしい。その前に護衛だの魔物払いだの納品だのの依頼が一気に増える、一年でいちばんの繁忙期なのだそうだ。クリスマス、みたいなものなのかな?
「毎年この時期は、依頼の取り違えとか、集合場所の勘違いとかが多発するんですよ〜。今日もさっき、護衛先を間違えた冒険者さんが隣町まで行っちゃって」
「書類の様式のせいかもしれないですね、それ」
「よ、うしき…?」
依頼書を一枚もらって眺めてみると、報酬と討伐対象はでかでかと書いてあるのに、集合場所と日時が依頼主の手書きで隅っこに小さく載っているだけだった。これは前の会社の、会議室予約のホワイトボードで散々見た光景で、つまり書式に欄がないと、書かなくてもいい項目になってしまうのだ。
私はセレネさんと相談して、依頼書の下に「集合場所」「集合日時」「締切」「担当者」の四つの欄を足した新しい様式を作り、今夜受け付けた分から使ってもらうことにした。本当はもっと項目足したいけれど、急に様式が変わったらそれはそれで混乱を生んでしまうだろう。二時間の受付業務のうち、半分は様式づくりになってしまったけれど、セレネさんもギルド長も喜んでくれた。
退勤の打刻をしたあと、セレネさんが最中の箱を大事そうに抱えたまま、少し口を尖らせて言った。
「ところで、なの花さん。最近、魔王城とか王宮とか、ずいぶんモテてるって聞いてますよ〜」
「え、なんで知って」
「雇用主側には、ワーカーさんの評価履歴が見えるんです。星五つがずらーっと並んでて、コメント欄がなんか、どこも必死でぇ」
あ、見えるんだ、あれ。ちょっと恥ずかしい。
「もう!うちが最初なんですからね!収穫祭のときは、うちの案件取ってくださいよぅ!」
最初の職場に囲い込みをかけられている。ありがたい話ではある。
その夜の評価画面はこうだった。
【 本日の給与:8400ゴールド 】
【 このワーカーへの評価:★★★★★ 】
【コメント:書類の様式、大好評です!ギルド長が額に入れて飾ろうとしてました。また来てくださいね〜】
額縁に入れてかざられる様式を想像して、一人、笑ってしまった。
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