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第10話 【本日のスキマバイト】竜の健康診断補佐

 三週間ぶりの厩舎は、先日よりもずっと賑やかだった。


 光る石のランタンがいくつも吊られて、様々なサイズの竜たちがそわそわと首を伸ばしている。今夜は全頭一斉の健康診断で、私の仕事は記録係。ここにいる竜は、全部で十二頭……竜って、頭で数えていいのかな?


  門をくぐるとき、脇の石柱に『王立厩舎』と彫られているのに初めて気づいた。あ、え、ここ、王宮の施設だったんだ。……エルバートさん、私がここでも働いてるの、知ってるのかなぁ。まあ、部署が二百もあるんだし、スキマバイトだし、気にしないでおこう。


  前回と同じ教育係のドワーフのおじいさんが、私を見つけて笑顔で手を上げた。相変わらず、白いひげが立派だ。その隣には、初めて見る背の高い人が立っていた。


 濃紺の騎士服に、まくられた袖。短く整えた銀灰色の髪に、こめかみから後ろへ流れる二本の……角!首筋には、鈍く光る鱗がうっすら見えている。あとで聞いたら、竜人という種族らしい。目の色はフローラと同じ金色で、その目がこちらを向いた瞬間、思わず背筋が伸びた。


 顔が、いい。


 鼻筋がすっと通っていて、まつげが長い。作り物みたいに整っているのに、本人にその自覚がまるでなさそうな顔だった。彼は私に気づくと、丁寧に頭を下げて自己紹介を始めた。


「竜騎士団副長、ジェラルド・ヴェインです。フローラが世話になったと聞いた。礼を言います」


 声もなんというか、イケメン(半分竜だけど)の声がする。渡された検診記録の見本は、やたら端正な字で書かれていた。ああ!あの字が綺麗なのは、この人か。


「はじめまして。スキミーの、塩谷なの花です。字、おきれいですね」


 ジェラルドさんは少し驚いた表情をした。変なこと言っちゃったかな。


「母が、字が綺麗で損することはない、と教えてくれた」

「うちの母も、同じこと言ってました!」


 お母さんが、人間でお父さんが竜、なのだろうか。気になることはたくさんあるけれど、一旦仕事にはいらなくては。


 検診はスムーズな流れ作業だった。十二頭を二時間で診るので、一頭あたり十分もない。ジェラルドさんが竜を診て、数値と所見を読み上げ、私が記録する。体温、翼の張り、鱗のつや、食欲。読み上げの発音がわかりやすいので、記録も気持ちよく進む。


 竜の首筋に手を当てる横顔とか、まくった袖から見える逞しい腕とか、視界にいちいち“強い”ものが入ってくるけれど、記録係なので帳面に集中。仕事中です。


「――記録が、正確だな。ありがたい」

「読み上げがわかりやすいからですよ〜」


 途中、気難しくて有名だという年寄りの竜の番になった。普段は誰にも触らせないというその竜に、ジェラルドさんはゆっくり近づいて、額をつけるようにして何か、呪文のような言葉を囁いた。竜はふう、と息を吐くと、大人しく翼を広げた。


「……何を言ったんですか?」

「歳をとると診察が長い、と愚痴を言われたので、同意して少し謝った」


 竜の言葉が、わかるのか。竜人ってすごい。診察の合間に、少しだけ話をした。


「遠征って、その、戦とかですか?」

「いや、野生竜の群れの調査だ。冬の前に、山を降りてこないか見て回る」

「あ、戦じゃないんですね」

「竜騎士団は百年、出番がない。ないほうがいい出番だが」

「あの、ついでに聞いていいですか。竜って、“頭”で数えるんですか?」

「書類の上では頭でいい。騎士団では、飛べる竜は翼とも数えるな。ここの十二頭なら、十二翼」


 一翼、二翼。……ちょっと、かっこいいかも。帳面の隅に、小さくメモした。


 竜騎士団って名前だから、もっと物騒な仕事だと思っていた。

 魔王城とにらみ合っているはずの国のいちばん強い部隊が、こんな穏やかな夜中に竜の体温を測っている。この世界の平和は、こういう地味な夜でできているのかな。


 最後の検診が、フローラだった。

 フローラは私を見つけた瞬間、地鳴りみたいに喉を鳴らして、頭を肩にぐいぐい押しつけてきた。よしよし、久しぶりだね! 診察の間も尻尾の先がずっと機嫌よく揺れていた。


 その様子を、ジェラルドさんは不思議そうに見ていた。


「フローラが鱗を渡したと、爺から聞いたが」

「あ、はい。いただきました。大事にしてます」

「そうか」


   彼は一拍おいて、真顔のまま言った。


「フローラが自分から鱗を渡した人間は、あなたが初めてだと思う」

「え、そうなんですか? 光栄です!売るといい値段になるとは聞いたんですが、とても綺麗だったので大事にしてあります」

「……そうか。大事にして」


  彼は少し満足げに、次の竜のところへ歩いていった。


 検診は時間通りに終了し、帰り際にフローラが名残惜しそうに背中を鼻先でつついてくるので、また来るね、と約束して転移門をくぐった。


 その夜の評価画面はこうだった。


【 本日の給与:7600ゴールド 】

【 このワーカーへの評価:★★★★★ 】

【 コメント:記録が正確だった。また、お願いしたい。フローラが会いたがると思う。 G・ヴェイン】


   署名つきのレビューは初めて見た!しかし、顔が良かったな。アニメの世界のようだった……と思いながら画面を閉じようとしたとき、通知がもう一件届いた。今度はスキミー運営からだった。


【ご報告:先日お問い合わせの「承諾前転移」について調査した結果、原因は不明でした。今後も安心してご利用ください】  


 原因不明で、どうして安心できるのよ。運営、あなた本当に、何者なの?

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― 新着の感想 ―
これは担当者がろくでもなさそうだなぁ
何回か同じ案件でやりとりしてると、段々返答が支離滅裂になってきたら…運営=出来の悪いAIですw ※しかも大半がC国の会社だったりします
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