異界の冒険:超巨大異形との邂逅と意外な救世主
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隊の最後尾を歩きながら横のサンディを小突く。
「なあ、さっきのってアルマじゃないよな」
「それってどういう…?」
「ただ錯乱してるっていうより、中になんかいただろ…俺みたいに」
サンディはハッとする。
「ベルナルダも急におかしくなった。誰か、いや、何かが操ってるってこと?…可能性はある…かも?」
「…まさか操縦者はカミサマだったりしないよな?」
サンディはしばらく考えていたが力なく首を振った。
「わからない…」
操る側に詳しそうなサンディならなんかわかるかと思ったが。
俺の視線を責めていると捉えたのか、ただでさえひょろい方をさらに縮こまらせる。
俺はサンディのミルキーベージュの髪を見下ろし、ため息をつく。
ゾワッ。
そして不意に背筋が粟立つのを感じた。
殺気だ。
周囲を見渡す。暗くなりかけている木々の隙間のナニカと目が合った。
「獣だ!」
大剣を抜くのとソイツが飛び掛かってくるのは同時だった。
交錯する。
ボトリ。
胴と首が地面に落ちる。
石畳を転がった頭は猿とロバを足したような顔で、やはり目は4つだ。
茂みがざわめき、視線が増える。
「シザリア…!」
「ああ、囲まれているな」
シザリアは剣を抜き、地面に突き刺した。
「切り裂け」
小さくつぶやくと、銀色に輝く刀身から同色の光る斬撃がほとばしる。
一瞬、辺りが光った。
ドサドサドサ。
ぶつ切りにされた猿の死体が道のあちこちに落ちる。
「一気に駆け抜けるぞ」
シザリアが切り開いた道を隊は続いていく。
俺も後ろから横合いから飛び掛かってきた猿をいなして後に続こうとした。
ふと、道に影が差した。
嫌な風が肌を撫でる感触。
第六感が警告を発する。
「危ないっ…!」
サンディの首根っこを掴んで後ろに飛びのいた。
風圧と共に地響きが鳴る。
舞い上がった砂埃に思わず目をつむる。
目を開くと黒く毛深い壁が立っていた。
いや、違う。
恐怖に指先が冷えるあの感覚。
「これ、腕…?」
腕を辿るように見上げる。
「…!」
顔が見えた。今俺たちを襲っている猿とロバのあいの子みたいな化け物の顔が、はるか上空に。高木の枝の隙間から何かを探すかのようにこちらを覗いていた。
俺の生存本能が警鐘を鳴らす。これまで戦ってきたどの巨大生物より遥かにでかい。比べ物にならない。闘技場で俺が命がけで屠ってきた『巨大生物』なんてアレに比べれば中型猛獣だったようにさえ思えてくる。
というか、コロッセオに収まりきらない巨躯だ。
木の幹よりも太い腕がゆっくりと持ち上がる。
「ひっ…!」
サンディが喉の奥で悲鳴を飲み込む。
地面にはぺしゃんこに潰された兵士傀儡だったものがペースト状に広がっていた。
かすかに頭上の枝が揺れる。
俺はサンディの首根っこを掴んだまま脇の茂みに転がり込んだ。
シザリアも同じ考えだった。
俺たちが低木の陰に伏せた瞬間、頭上を痛いほどの風圧が通り過ぎる。
石畳の上に木が次々と倒れた。
巨大な猿の手が何かを探すように山道をかき回す。木をなぎ倒し、小型の猿もそのついでに叩き潰していく。
「アレがさっきの足音の主か…」
シザリアが呟く。
「とんでもないな…」
大いに同感だ。
あの膂力とサイズはなんなんだよ。
まさかただ来た道を戻るだけの任務その3が一番難しいとはな。
巨大猿の様子をうかがう俺の横でサンディが小さく呪文を唱える。
青い膜のようなものが空中に広がり、落ちてきた木を跳ね返した。
身をかがめながら残った隊のメンバーは魔法のバリアの下に集結する。
「シザリア、あの手の奴は頭を潰せば一発で仕留められる。さっきの奴で何とかできないか?」
木々が倒壊する騒音の中で俺は声を張り上げた。
シザリアも同じ声量で言い返す。
「こんな見通しの悪いところで!?頭をピンポイントで狙わないならできなくもないが、フルパワーは温存したい」
「なんで!?」
「あの猿以上に厄介な奴がこの先にいない保証がないからだ!」
「でもっ…!ここで全滅したら元も子もないだろ!」
「だから考えているところだ!」
バリアに小型の化け物が体当たりし、ひびが入る。
すかさずマヌエラが呪文を唱え、バリアが元通りなる。
「これ、どんぐらい持つ?」
「この調子じゃ3分が限界」
持久戦じゃ圧倒的に不利なようだ。
コロッセオで戦った中で一番でかかった奴を思い出す。
高さだけでいえばやたらに首が長い爬虫類だった。あの時は槍を投擲して脳みそを直接破壊したんだったな。
今、俺の得物はこの大剣しかない。
シザリアの言う通り、こんな見通しの悪いところで頭なんて小さな的を潰すのは無理だ。もし、外したら、身を守るすべさえ失う。
不意に、耳鳴りがした。頭の奥が痺れるような痛みにこめかみを押さえる。
なんだこの感覚。
「…貸せ」
耳鳴りに声が混ざった気がした。
低い男の声だ。
確か巫女院で聞いた。
「助けてやる。その代わり…」
あの時よりも鮮明に聞こえる。
「…」
「ニック!」
サンディが俺の肩を揺さぶる。
「大丈夫?まさか、けがとか…!?」
「いや、違う…」
嫌な汗が額から滴り落ちる。
なんなんだ。今のは…。
動悸を抑えるために深呼吸する。
不意に、視界の端で何かが動くのが見えた。
「ん…?」
今度はなんだよ。
猿にしては色が白い。
遠い木の陰で何かが覗いている。
「シザリア、見ろ!」
視線の先にいたのは人間だった。
ロマニア風の格好をした少女。
必死の形相で手招きしている。
シザリアも巨大猿から少女に視線を移した。
「アレは…?新たな罠か、それとも…」
美しい頬に手をあて、考え込む。
倒木がバリアを直撃し、ヒビが入る。
そのヒビに猿が体当たりをする。
バリアに入ったヒビが広がる。
「将軍!もう持ちません!」
マヌエラが叫ぶ。
「よし、乗った」
シザリアが剣を一閃し、バリアと共に正面の化け物を3体切り伏せる。
その死体を蹴飛ばしながら駆け出す。
「死ぬ気でついて来い!」
俺もその最後尾をサンディを担いで走り出す。
「キーッ!」
猿が走って追いかけてくる。
「グギャッ!」
黒い腕の一振りで潰れる。
その風圧が背中に迫る。
サンディが早口に呪文を唱えた。
背後で衝突音。
振り返ると、巨大猿とバリアが押し相撲をしている。
「ニック!走って!走って!」
「うるさい、のろま。指図すんな!」
「早く…!」
兵士傀儡が前方の洞穴で手招きしている。
あの狭さなら巨大猿も追って来られないだろう。
背後でバリアが割れる音がした。
風圧が迫る。
俺はサンディを正面に抱え直し、洞窟に飛び込む。
「わあああっ!」
猿の腕はギリギリで空を切り、俺たちは岩の傾斜を滑り落ちていった。
岩肌をしばらく転がり、止まる。
「どわっ!」
「大丈夫ですか?」
顔面から着地したサンディを兵士傀儡が起こした。
全身についた泥を叩きながら立ち上がる。
少女を先頭にシザリア、アルマを担いだマヌエラが遥か前方を歩いていた。
俺たちもそのあとをついて行く。
薄暗い洞窟を進んでいくと、前方に光が見える。
一瞬、ノイズが聞こえた気がした。
嫌な汗が背中を伝う。
だが、違った。
「海…?」
サンディにも聞こえていた。
かすかに磯の香りがする生ぬるい風が洞窟内にも吹き込んでくる。
「こんな森の中に海…?」
なんか聞いたことのある話だな。
やがて洞窟を抜けた。
海面に沈みゆく夕日の眩しさに目を焼かれて思わず立ち止まる。
「ニック、アレ」
サンディが袖を引かれ、向いた先には木と葉で作られた簡素な小屋があった。
「民家…いや、集落か?」
申し訳程度の高さの柵で囲まれた内部に同じ造りの小屋が点在しているようだった。
ロマニア風の少女は柵の入り口で立ち止まった。
そして笑顔で俺たちに告げた。
「ようこそ女神の集落へ。あなた方の到来は運命の女神様から聞いてました!」




