異界の冒険:謎の大型建造物と異形の生物
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異界の中は昼間だった。
日の光の下に見る異界の光景は、夜の時以上に異質だった。
黒くつるりとした石柱の砂埃を払うと、その表面に見慣れないパターンの紋様が脈打つように規則的なリズムで淡く光った。
思わず手を離す。何もおこらない。そういう模様というだけのようだ。
なんとも落ち着かない見た目だ。よくこの石材で建物なんて作ったな。
獣の姿はなかった。
ただ、砂の上にはっきりと血だまりとベルナルダの残骸が残されたままだった。
「うっ…」
サンディの視界に入る前に目を塞いでやる。
獣たちにズタズタにされ、2週間もこんな場所に放置されていれば、まあその状態はお察しってもんだ。美しいベルナルダを思わせるものは乾いた血がこびりついた暗褐色の髪しかない。
「ああ、ベルナルダ。我が好敵手よ」
シザリアはその惨状にお構いなしにかつての敵の腐乱死体の傍らに膝をつき、暗褐色の髪の一部を切り取った。
「ガリアの地で散っておけばよかったものを」
シザリアが指を振ると、兵士傀儡たちが倒壊した石像の近くに穴を掘り始めた。二人がかりであっという間に深い穴を掘り終えると、その穴にベルナルダの死体を埋めた。
簡易的な墓の前で軽く手を合わせる。
「さて、任務その1はクリアだな」
シザリアはベルナルダの墓を前にしては神妙にしていたが、立ち上がった時にはすっかり将軍の顔に戻っていた。
「次はアレだ」
シザリアが、前方のロマニア様式とはかけ離れた謎の建物を指さす。
入り口と思しき巨大な扉の下方には、人が優に通れるほどの大きな穴が開いていた。自然に風化してできた穴ではない。無理矢理外から暴力的に叩き割ったかのように断面が荒れており、周囲に散らばる石材には血やひっかき傷が大量についている。
建物内部もこの謎の材質の石でできていた。
壁も脈のように紋様が淡く浮いては消えていく。
「ちと、暗いな」
シザリアが目配せするとマヌエラが呪文を唱える。赤みがかった白の光の玉が登っていき、上空ではじけた。
こうして屋内の全容が見えた。
「でか…」
とにかく大きいというのが最初の印象だった。
神話上の巨人や神の居城の天井の高さだ。
壁に手をつくと少しざらついた感触があった。その壁は一面、長方形の引き出しのようなくぼみがあり、何か文字が彫られていた。
「なんだこりゃ」
文字を指でなぞっていると、横からサンディが覗いてきた。
「神代文字、だね」
「読めんの?」
「人名っぽい感じはするけど…」
「ふぅん?」
不意に先頭のシザリアが立ち止まった。
「シーっ。聞こえるか?」
耳を澄ませる。
黙って神経を集中させる。
ゴゥンゴゥン。
何かがぶつかり合う音と建物がかすかに揺れているのが感じられる。
どちらも足元からだ。
「地面に、何かがある…?」
地下に通じる道は簡単に見つかった。
最奥部の祭壇のような舞台。
その四隅の青い水晶から伸びたガラスのような青い管が壇上から真っすぐに地下へと通じる坂道を示すように光っていたのだ。
「なんでこれだけ残ってるんだ?」
シザリアと兵士傀儡はひどく荒らされていた壇上に上がり、ざっと物色した。
壇上は破片まみれだった。おそらくここを飾っていたであろう水晶や彫像が粉々に粉砕されてその残骸で埋め尽くされる中、四隅の水晶だけは頑丈だからか、傷だらけだが光ったままだった。
「異教徒でも押し入ったような荒れっぷりだな。それか獣か」
そう結論づけてシザリアはひらりと地下へ続く道に降りた。
「よし、ニックついてこい。ほかの者は待機だ」
「えっ、俺?」
なんで俺なんだよと思いつつ、反駁するのも時間の問題なのでシザリアに続く。
「我々が10分で戻らなければ引き返すように」
魔法使い二人がうなずいた。
シザリアが大股で地下へと降りていく。
俺は剣を構えてその横を進む。
地下通路はあの紋様が浮く石材ではないらしく、本当に真っ暗だった。
しかし、シザリアの歩みには迷いがない。
「あんた、歩くの速いな…」
「暗視くらいできないのか?こう、魔力を目にグッとやってパッとするんだ」
聞く分には簡単そうだな。何の説明にもなってないけど。
これじゃ目が慣れるのを待つしかないか…?
ザザッ。不快なノイズ音。
チョーカーのガラス石が控えめに光ったかと思うと、暗闇の中なのに物が視認できた。
これが暗視って奴か。
便利だ。確かに便利だが。
「おい、勝手に俺の体を使っただろ」
念話で叱る。
「ご、ごめん、ニック…。良かれと思って…」
チッ。
暗視の視界で改めて地下道を見渡す。
これと言って特徴のない狭い通路だ。
小汚く、かすかな腐臭と血の匂いが漂う。
ゴゥンゴゥン。
何かがぶつかる鈍い地鳴りのような音は一歩踏み進むたびに大きくなっていく。
「ニック」
シザリアが肘でつついてくる。
「この先、なにがあるか賭けないか?」
「あんた、楽しそうだな…」
かなり偉い将軍様の癖に生きて帰れるかもわからない未知の土地の調査隊にシザリアは自ら志願したらしい。
神も仏も恐れない豪気な姿勢は彼女らしいと思う。
「賭けに勝ったら何をくれるんだ?」
「生きて帰ってから決めよう。私は風車のような機構があると思うな」
「えー…じゃあ俺は…うーん」
皆目見当がつかなかった。
「誰かが壁に体当たりして神殿を土台から壊そうとしてるとか?」
「ははっ、大穴だな」
角を曲がると不意に開けた空間に出た。
ゴゥンゴゥン。
地下空間に音がこだまする。
目の前に広がる光景に俺は絶句した。
「賭けはギリギリお前の勝ちだな、ニック」
シザリアはまだ愉快そうだった。
アレを見てよく笑ってられるな。英雄ってのは頭のネジが外れてないとなれないものなんだろうな。
開けた空間の奥には天井に届く巨大な漆黒の扉が見えた。
扉は固く閉ざされている。
だが、問題はそこじゃない。
音の発生源だ。
漆黒のドアに獣たちが体当たりしていた。
一匹二匹ではない。
100はくだらない。
数える気にもならないほど大量の獣が。
大小さまざまな異形の生き物たちが。
扉の横幅いっぱい埋め尽くし、順番待ちさえして。
入れ替わり立ち代わり扉に体当たりを繰り返している。
壁にぶつかってつぶれた先陣の異形の体液を塗り広げるように。
次弾の獣が扉に挑む。
ゴゥンゴゥン、と。
「で、どう思う?」
「どうって…えっ?」
「あの先に何があるか気にならないか?」
そりゃ気になる。気になるが。
この数の獣と戦ってまで開けたいとは思わない。
「冗談だ」
シザリアは金褐色の髪をなびかせて扉に背を向けた。
「主席巫女たちがあの量を捌けるとは思わないし、戦力はまだ温存しなくては」
そういって剣の柄を撫でながら足早に来た道を戻る。




