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1945年に飛ばされた私、iPhoneだけ2025年と繋がってるんだけど? 〜終戦回避は無理ゲーでも、戦後復興をRTAして100歳まで君臨する〜  作者: 栗昆布
第3章 東京デフラグ ―更地をコンクリジャングルへ!編―

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建築計画1

どれほどの時間を、泥と湿気の中で這いつくばっていたのか。

 不意に、頭上のコンクリートの隙間から、澱んだ空気が吸い込まれるような気配がした。

「……どけ。俺がやる」


 工藤が泥まみれの肩を怒らせ、力任せに瓦礫の塊を突き上げた。その瞬間――**「オオオオッ」**と地鳴りのような低い唸りを上げて、外の風が猛然と地下へ流れ込んできた。


 サオリは思わず顔を背けた。吹き込んできたのは、街の煙と湿り気を孕んだ、重く不気味な風だった。這い出した先は、街路ではない。床に転げた古い缶詰、湿気でカビだらけになった布団、そして銀食器が乱雑に散らばる、廃ホテルの地下倉庫だった。


「……ここは?」


 サオリは震える手で、相変わらず「白いリンゴ」を映したまま固まっているiPhoneを抱きしめた。

 工藤は荒い息をつきながら、倉庫の隅に座り込み、拳を握りしめてブツブツと呟き始めた。


「紙はあいつの手にある。……クソ、どうする。憲兵まで抱き込んでやがるんだ、力ずくじゃ勝ち目はねえ。あの舎弟頭、憲兵の中尉を後ろ盾にして、親分にいい顔をするために、あの紙切れ一枚で全部を飲み込むつもりだ。……何か、何かあるはずだ……」

 工藤はサオリを見ることさえせず、前かがみになって指を噛みながら、呪文のようにその絶望を反芻していた。

 その隣で、真っ先に這い出した竹本は、服の汚れを払うことさえせず、倉庫に転がっていた真鍮の燭台を手に取り、天井の梁をなめるように凝視していた。

「ああ、幾何学的な偶然、あるいは必然だよ。それよりサオリくん」

 竹本が唐突に振り返った。その眼鏡の奥の瞳が、獲物を定めた爬虫類のように冷たく発光している。


「君は、未来から来たんだろう? ちがうかね? ……その手に持っている、薄い鏡のような板。そして、これから起こる『災禍の日付』を正確に言い当てた預言。……かなり進んだ時代から我々を見下ろしている未来人とみえる」


 サオリは息を呑んだ。否定する言葉さえ、竹本の圧倒的な「確信」の前に霧散する。竹本はサオリの返事を待たず、今出てきたばかりの足元の裂け目を指差した。


「工藤くん。先ほど私たちが体験したあの突風……あれは『スタック・エフェクト(煙突効果)』の端緒だよ。温度差と気圧差が、この地下空間を巨大な吸気口に変えているんだ」

「……あ? スタック、なんだと? お前、さっきから何を言ってる……」


 工藤が顔を上げた。竹本の異様な熱量に、自らの思考の行き止まりを破壊する「可能性」を感じ取ったのだ。


「いいかい、ここは理想的な『底』だよ。この倉庫と、真上の部屋を一本の筒として直結させれば、この建物そのものが巨大な『煙突』になる。……工藤くん。君がその紙切れに殺されるのが嫌なら、構造ルールを書き換えればいい」


「……おい、竹本。お前、構造に詳しいと言ったな。……こんなものも考えられるか?」


 工藤の目が、血走った獣のように鋭くなる。

「その呪われた念書も、ふんぞり返ってる金子も、まとめてこの世から『無かったこと』にする構造だ。あんたの言うその煙突ってのは、物理的にその上の連中を丸ごと飲み込めるのか?」

「工藤くん、私はいつだって本気だよ。五月二十五日。空から降るエネルギーを『熱源』として利用するのさ。逃げ場はない。その『場所』で彼らが勝利を確信した瞬間に、物理法則が彼らを処刑する」

「……へっ、マジかよ」

 工藤の口角が、ゆっくりと吊り上がった。

「解決させるんだよ。……清算するんだ。竹本、続けろ。……俺が資材を集めてきてやる」


「……資材って。なんで急に工事の話なんてしてるの、早くここを出ません?」

 サオリの抗議は、すでに二人の耳には届いていなかった。竹本は淡々と図面を引き続け、工藤はその背中を、信頼と狂気の混じった目で見据えている。


「さあ、サオリくん。君の持つ『未来の断片』をすべて貸してくれたまえ。正確な時刻、風向き、火流の速度……。地獄への特等席を、設計しようじゃないか」

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