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1945年に飛ばされた私、iPhoneだけ2025年と繋がってるんだけど? 〜終戦回避は無理ゲーでも、戦後復興をRTAして100歳まで君臨する〜  作者: 栗昆布
第3章 東京デフラグ ―更地をコンクリジャングルへ!編―

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座標の査定人

銀座四丁目の祠を後にし、朝日の中で意気揚々と歩いていたサオリが振り返る。だが、念書を握りしめた工藤の足は、アスファルトの裂け目に根を張ったように動かない。

「……工藤さん、何立ち止まってるの? 早く瑞穂屋に戻って、これからの計画を……」

「サオリ。お前……二十日にあの路地裏でひったくられたあの紙切れ。……あれ、まさか『本物』だったのか?」

 工藤の声は、地を飛ぶように低く、冷え切っていた。

「え? ええ、そうよ。築地の経営権の原本。あれを餌にしないと、ヤクザが動いてくれないと思って……」

「馬鹿野郎!!」

 工藤の怒号が、静まり返った銀座に響き渡った。

「俺はてっきり、お前のその『魔法の板(iPhone)』にある未来の地図を適当に書き写しただけの、ハッタリの偽物だと思ってたんだぞ! 銀座を根城にする経済シノギに長けたヤクザどもを舐めるな! 実印と原本さえ揃ってりゃ、名義なんていくらでも書き換えられる。あいつらは今ごろ、当局に申請を出してる。俺たちが気づいた時には、権利はもうあいつらのものだ」

「えっ、でも、この念書に『好きにしろ』って書いてあるし、まだ私、判も押してないわよ?」

 サオリが震える手で、金子から手渡されたばかりの念書を掲げる。だが、工藤は吐き捨てるように言った。

「判がないなら無効? 甘いんだよ! サオリ、そもそもこの祠の土地は、誰のものでもねえ『空白地』だ。あいつらはそこに目をつけ、占有屋として居座ってるだけに過ぎねえ」

 工藤が、くしゃりと歪んだ念書をサオリの眼前に叩きつけた。

「いいか。あいつらは築地の原本を盾にして、行政に対し『瑞穂屋から全権を譲り受けた』と報告する。原本を渡した事実は、あいつらにとって『瑞穂屋という看板』そのものを手に入れた証拠になるんだ。 お前は、自分の居場所をあいつらに『定義』されちまったんだよ!」

 念書には、空襲後の銀座を封鎖するための毒針が仕込まれていた。

『乙(サオリ側)は、物件が滅失した場合、自己の費用を以て現状復旧の責を負う。……但し、新築、地盤の変更……を為すに当たっては、予め甲(地主を名乗る金子側)の書面による承諾を要し、承諾を留保する間、乙の占有権は当然に停止する。』

「……あいつら、自分たちの土地でもないのに、書類の上だけで勝手に『地主』に成り済まして、俺たちを更地の檻に閉じ込める気か……ッ!」

 サオリの顔から、急速に体温が消えていく。暴力が法を凌駕し、嘘が真実を上書きする時代のルールに、現代人の彼女はなす術もなかった。

「――構造ハードだけでなく、法理ソフトの脆弱性までも露呈したか。実に滑稽だな」


 瓦礫の影から、不気味なほど冷ややかな声が響いた。

 煤けた国民服に、抜き身の刀のような計算尺。

 本郷を捨て、己が導き出した「座標」に辿り着いた男――竹本だった。


「……誰だ、てめえ」


 工藤が鋭く睨みつけ、懐のドスの柄に手をかける。だが、竹本は一瞥もくれず、サオリの胸元にある「光る物体」を凝視した。


「……おい。女。その手にある『発光体』は何だ。……なんだ、そのワイヤーフレームは。君が指を滑らせるたびに、重力計算の結果パースがリアルタイムで書き換わっているのか?」


 竹本は工藤の殺気も無視し、吸い寄せられるように歩み寄る。彼が驚愕しているのは、iPhoneが叩き出している**「物理演算の異常な速度」**だ。


「……お嬢さん。君を縛っているその『紙切れ』の呪い……そんなものはどうでもいい。相手が占有屋だろうが偽の地主だろうが、この板の示す『解像度』で建物を打てばいい。圧倒的な物量と物理的正しさで、この空間を『既成事実』として制圧してしまえば、書類の嘘など塵に等しい」

 計算尺が、カタカタと音を立てて竹本の指から滑り落ちた。

 昭和の詐術に敗れた二人の前に、物理の「神」をその手に宿した狂人が、今、最悪のタイミングで合流した。

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