49話 36歳、どうにか1日を締めにかかる
イブキ帰宅後、物事はすぐに鎮火した。
娘は強かった、という感想だな。
なにせ、なあ。
娘からのジト目からの「2人とも、仕事は!?」の一言で、まともに戻ったよあの夫婦。
チハヤには効果はなかったが。
そして、チハヤともども「夕飯が」とか「おっと打ち合わせが」と逃げ出した。
チハヤにいたってはそれに便乗して「じゃ、わしもネトゲに」と逃げ出しやがった。
その言葉にイブキが睨んだが、すでに逃げ出した後。
これが本当の神隠れとかいうやつか? 居場所はPCの前と、もう知れているが。
しかし、オレをどう話したのかは気になる。
有名人になったつもりもなければ、人様に褒められる何かを表で行なった覚えはない。
『ユナイト』としてこそこそやっているのは、あれは裏だから関係ない。
「全く……! 学校から帰ってきたらこんな顛末なんて。ヒロユキさんすみません」
「いや、助かった。それにしても大学か……。大変だろ? お疲れさん」
頭を下げるイブキを見て、ふと大学時代のオレを思い出す。
経済学をやってたはずなんだけど、まともに知識として残ったのは少ない。
友人は多くはなかったが、馬鹿はそれなりにやったと思う。
馬鹿だけど犯罪はしてないぞ!
寺社仏閣については大学生時代にやったゲームの影響で、軽い旅までしてしまった覚えがある。
黒歴史というレベルではないが、うん。卒論をそれにしようと思ったくらいだ。
実際は書いても書かなくてもいいということだったので、やめたのだが。
オレの人生の中で、充実はしていたが、有意義なムダとも言える。
悪いことではないとも思っているが、人から見ればどうなんだろうか。
オレ自身は後悔はしてない。動機のゲームからの影響、という部分については黒歴史チックではあるが。
「そういえば、うちに来るの初めてですよね? ヒロユキさん、どうですか? 桜千早神社」
「いや、それなりにでかいなーと。家族で維持するのも大変だろ?」
田舎神社や街中のそれなりにメジャーな寺社とは違い、敷地内の玉砂利の整備や木々の剪定。
他にも境内の掃除なども見る限りでは行き届いていた。
また鳥居からこの社務所までの距離はおよそ50メートル。
そこの石畳やら、両脇に塀のごとくそびえる、防風林なのか分からないがヒノキ? とにかく緑樹。
もし、家族がこのイブキを含めて3人だけで切り盛りしてます、とか言われたら、どんな人間だよと思う。
基礎体力とかだけなら戦闘員スーツとタメ張れそうだな、なんて。
「あははは……。さすがに道周りとかは定期的に人を雇ってますけどね。でも境内とか神社の建物の掃除とかは全部わたしたちですよ?」
「遠めで見ても、伊勢の内宮……とは言わないが、でかいと思ったが」
「伊勢……って異世界にもあるんですね。そもそもあそこはトップ規模なので比べられたらたまったもんじゃないですよ」
日本だと天照大神というトップ神の神社なのだが、ヤマトでもトップ規模のようだ。
となると出雲とかもありそうだが、むぅ。昔の血が騒ぐ感じがするな。
「掃除については、たまにチハヤ様にも手伝わせてますから。自分のところぐらい自分で掃除しろ、って」
軽く腕を上げながら、その時怒った口調を笑いながら話すイブキを見て。
「まあ、自分の住まいだからな……。イブキもチハヤに対しては家族対応だよな」
なんとなく、微笑ましくなったのは年のせいか。
「そうですよ! 全く困った姉さんです」
いや、そんなことを言うのに満面の笑みな彼女のせいだろう。そうしておこう。
そんな話をしながら、社務所を出て。
住まい、つまりイブキの家で、オレのしばらくの仮住まいの場所へ歩く。
日もいつの間にか暗く。
思うことは、ホームレス脱却おめでとう。オレ。
「さて、と。じゃあ、帰りましょう! お母さんがご飯の準備してますし」
「親父さんもイブキのお叱りから速攻で逃げたしな」
靴を履き、立ち上がる。後は電気を落とすのと、戸締りだけだ。
「う。いや、あれはお父さんとお母さんが悪いのであって。あとチハヤ様も」
先に外に出ていたイブキに、笑いながら言葉のちょっかいをかけて。
それをいい反応で返される。
『うーわー。人の微妙ラブコメは砂糖吐けますね、クワーっ! あ、砂糖吐いた時の擬音を表現してみました。あ、イブキしかいないことは分かってましたので声を周囲展開してます』
「出てきていきなりご挨拶だなユーナ」
声が妙に不機嫌だが、おっさんにラブコメを求めるな。
ただ、甘ったるい雰囲気とかで砂糖吐く気持ちは分かる。
オレも日本にいるときはどんだけ吐こうと思ったか。
実際吐けたら、砂糖吐きダイエットとか、糖尿病防止の砂糖吐きストレッチとかでメジャーに!
とかありもしない事業を考えたこともある。
特にバレンタインデーとかホワイトデーとかクリスマスとか近づくと、そういうことを考えたくなるんだよ、というか実践したくなるんだよ、日本の男としては!
「微妙ラブコメって」
『意識してないとは言わせませんよ、このライバルが! さっきの「じゃあ、帰りましょう」なんて予測では、家に着いたときに「お帰りなさい」「ただいま」を言い合う確率が高い状態でしたから! あの言葉に含まれる甘さはマスターには感知できないかもしれませんが、この! 私は! ごまかせません!』
「ぅうぅっっっ!」
外は暗くなってきているのに、元気な掛け合いがオレの周りに駆け巡る。
遠くに、目指す家の明かり。
きっと、この足場の悪い玉砂利を踏みながらでも、数分で着いてしまうだろうけど。
心地よい喧騒に、少しだけ足をゆっくりにして進むことにした。
ふと、脳裏をよぎったのは。
バイト内容を詳しく聞いてないけどなあ。
ささやかかもしれない、疑問だけだった。
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皆様のご愛顧、誠にありがとうございます。
戦わない、料理作る、あるいは観察という名の及び腰の主人公ではありますが、
今後とも生暖かく読んで頂けるよう非才ではありますが努力いたします。
というわけで、バレンタインデーに砂糖吐けるんじゃないだろうか → 駄目だった作者。
ホームレス脱却からのバイト編は、まだまだ続きます。
なんたって約1週間分ありますので(汗
次回は初日の一日を締めてからの、次の日のヒロユキのとある経験が光りそうになるところまでの予定。
頼むから暴走しないでくれよユーナ(笑




