48話 36歳だって、分からない
義理チョコにゴディバを、って言ったら怒られました(ぇ
「な、なん……だと……っ!」
オレとそんなに年のかわらなそうな男性が、うめく。
若草色というのかどうか分からないが緑の袴を身に着けた男性が、頭を抱えてうめく。
苦悶、そう表現すべき表情.
それを顔に隠すことなく表す。
対して、隣の女性は赤の袴。巫女さんだが、こちらもオレの年と変わらない。
イブキと同じように肩くらいまでの髪で、おっとりとした印象のあるかわいらしい女性だ。
この目の前に正座している2人は夫婦だろう。
初見では多分、目の前の2人はイブキの従兄弟夫妻か何かで。
この二人がイブキの両親に替わってメインで切り盛りしてるんだろうなーとか思ってた。
それくらい若く見えるんだよ、本当に。オレと並んでもまあ、大差ないと思うぞ。多分。
が、イブキの両親と言われて。
「ご冗談を。そうでしたらお2人とも50代くらいでは? どう見てもオレと同じくらいでしょう」
と、軽く笑いながら返した、のだが。
「いや、君も見た目20台後半くらいだからね。お互い見た目が冗談レベルで若いって訳だ!」
そんなことで父親と意気投合。
母親のほうは、うふふ、という軽い笑みだけで終わっている。
母親のほうはよく言われるのだろうか、対応がそつない。
そもそも、口説きに来たわけじゃないからどうでもいいけどな。
で、イブキ父がなんでこんな苦悶しているかと言うと。
「チハヤ様が、仕事を本当にされた……っ! いつもならやらないもしくはやっても超がつくほど微妙なのに」
「それについてはわたしもそう思いますが、あなた。人前で言うのは失礼じゃ」
一応チハヤもいるんだが。そっちはどうでもいいのか母よ。
「あ、お気遣いなく。オレ……いや、私もチハヤの印象はそちらと同じですから」
チハヤについてはもはやフォローできないので、せめてイブキ父をフォローしよう。
そんな3人で頷きながら、――同じタイミングで息を吐く。
目線には、胡坐でせんべいをかじる、駄目神。
「わしってそんな風に思われてる? いや、まさか! ハッ! それこそ冗談じゃな!」
「自分の胸に手当てて聞いてみろ……」
「ふむ。わしはDカップオーバーじゃが。ヒロユキ殿はそれが聞きたかったのか?」
「反省しろって意味だ! せめてもう少し神らしく……、いや人というか家族の頼みくらいもう少し聞いてやれよ」
「む、むむぅ。家族、とな。……やはり面白いのうヒロユキ殿は、そうじゃろう2人とも」
いや、一緒に暮らしてれば家族じゃない?
ここでイブキが揃えばどうなるかというと。
若夫婦に、その妹チハヤに、さらにその妹イブキでパーフェクト。
イブキ父が婿で来たという設定なら、見た目でもう納得される家族構成の出来上がり。
そうなるとここにいるオレは……、近所のおっさんだな。
「発想がすごいというか何と言うか……。チハヤ様、よくこのような方を」
「あなた、イブキも確認したとかいう、チハヤ様を消滅させそうになった人ってこの方じゃ」
「う、それオレにとっては黒歴史にしたいんですけど」
黒川ヒロユキの歴史書があるなら、その部分の詳細は墨汁で塗りつぶしたいくらいの歴史だ。
ゆえに黒歴史と、オレは呼ぶ。決してエーをターンがする機動兵器の話ではない。
「……ああ、自己紹介せずにとんとん拍子で話してたからおかしいと思った」
そりゃあ、自己紹介せずにチハヤから「ほれ、わしの眼鏡に叶ったバイト希望じゃ!」と出されては、ねえ。
イブキの両親としても邪険にはできないし。
オレもある程度の話はついているものだ、と思ってたが。
全く話がついてないとはな! さすがはチハヤクオリティだぜ!
後から叩く! はたく!
女でも! 神でも! オレは! 謝るまで! たたくのを! やめない!
……そういう気持ちで、一回だけはたいておこう。
「なんかもうすみません。とりあえず、自己紹介ですね。私の名前は黒川ヒロユキ。チハヤ……様といぶ……、娘さんのバイト先で雇われ料理人してます」
沈黙数秒。
なにこれ? いじめ?
そして、夫婦2人で顔を見合わせる。
「うおおおっ! 本物! 来たよ母さん本物が!」
「ええ、もうやっぱり本物ね! 話の数倍いえ数乗違いのレベルねあなた!」
何、この2人のテンション。さっきの沈黙は何? ねえ、何なのこれ! 怖いよマジで怖い!
「あ、すまないね黒川……いやもう他人じゃないしヒロユキくんでいいよね! あの凶悪な異世界からの出身者なのにヤマト人よりもヤマト人らしいむしろヤマト魂の塊と聞いているよ!」
「え? 何」
ただでさえついていけないのに、何が。
「しかも顔よし器量よし、戦いを好まずに人助けのヒーロー! さらにチハヤ様を凌ぐ神の力『神使い』! まさかうちに直に来てくれるなんて……って、分かってたけど、ヒロユキさんをダイレクトに見れるなんて!」
「だから何が……」
褒められてるんだろうけど分からない。何だこれは。
「シュウイチよユキコよ! 見たかこれがわしの力じゃ! わしとて神! 願いを叶えるソハチハヤノミコトは伊達ではないぞ! クハァーッハッハッハ!」
「さすがはチハヤ様!」
「今日の夕飯はチハヤ様の好物にしますね!」
「……おーい」
食べかけのせんべいを天に掲げ、高笑いする神を称える神職夫婦。
神を崇め奉るのは、別に問題はない。むしろ職業として正しいのだが。
その内容があまりにも俗と言うか、よく分からないというか。
一体、オレはどんな存在と説明されているのか不思議でならない。
『ユナイト』がなければただの喫茶店の料理人だぞ。元事務職員で。
そんなことを思いながら、未だ「ユキコ! じゃあアイスクリームを山で頼むぞ!」「今日は奮発しますよ!」とかテンションの高い3人を遠くから見るような感じになる。
そして、目を閉じて思う。
オレ、バイト、できるかな? ここで。
このよく分からない状況の打破は、オレには無理。
頼みの綱というか、ここを沈めてくれるのは――一番の年下に頼むのも気が引けるが。
イブキに託そう。そうしよう。
だから、って訳じゃないが。
粗茶として出された湯飲みに、手を出すことにした。
ぬるい茶と固いせんべいの味は、何故か懐かしい味がした。
ご意見ご感想、ご評価お待ちしています。
はい、作者でもなんでヒロユキがここまでアイドルチックになってしまったのか分かりませんね!
あれか、バレンタインデーとかいう製菓会社の陰謀か(ぇ
嘘です。
犯人はイブキとチハヤですが、ヒロユキのスキルのせいでもありますので。
ちなみに作者はバレンタインデーが過ぎてからのチョコの安売りが大好きです(ぉぃ
次の話は、イブキに手を出すと死にませんか? いいえ、ある意味もっと恐ろしいことに。
という返答があるお話です。
バトル? 日々を生きることが既にバトルなんですよ!(謎




