10話 名前はいつも、シンプルに
かるうまカフェの朝は早い。
営業は7時半。
料理やコーヒーの仕込みがあるので、他の喫茶店よりも若干遅め。
周り、と言っても競合している他の喫茶店は……それなりに距離があるし、ここも表通りにあるわけではないから、本来なら売り上げはそれなり程度しかないはずなのだが、そこは置いておく。
オレは5時半には起床する。
寝るときも変身スーツだが、仕方ない。
快適でかつ、心地よい目覚め。そして寝ながらマッスル鍛えてくれるし、体調管理もお手の物。
AIもスーツのメンテナンスのために着たままでいてほしい、と推奨しているからだ。
今じゃ、変身を解除するときは食事・風呂・外出・身辺整理といったくらいか。
とことん変身ヒーローの意味がない気がする。
最初から最後までほとんど変身しっぱなしだからな。
もう一段階くらい変身しないと、変身ヒーローじゃないかもしれない。
着替えるために、変身解除し、洗顔など身辺整理。
変身しなおし、厨房や住居区画に電気を入れる。
で、そのまま厨房で朝食を作る。
面倒なときはシリアルだが、それでもプラス1品。
今日は、和食で行こうと思う。
夕食のご飯の余りが多いので、味噌汁とさばの塩焼き、ほうれん草のおひたし……昨日作って保存したやつ。
で、牛乳とウーロン茶と、緑茶。コーヒーはヒロシがやる。
オレがやってもいいが、「まだ貴様には早い!」とはヒロシの談。
一番うまい湯の温度とか、豆を挽くことなど、その日によって違うとのこと。
AIなしで、感覚のみに頼って作るため、そんな器用なことはできない。
というか、アイツ……本当に科学者か?
オレのイメージする科学者とは毛色が違う。……変人だからかもしれない。そう納得するしかない。
そして、アヤ。
基本はここで寝泊りだが、定期的に実家に帰っている。
今日は泊まっているな。アヤがいるときは、テーブルに「います」と猫の札が置いてある。
看板の、猫の絵の札だ。
曰く。研究は実家ではできないから、どうしても篭もるならここ、と。
年頃の娘さんが野郎の家に寝泊りとはいいのか? と思う。
オレ? オレの好みではないな。かわいい系のやや年齢より幼い外見で、言動と行動を無視すれば、美少女の類となるだろう。だが、オレは、言動と行動を重視するタイプだ。
そもそも、その言動や行動から言ってもヒロシにぞっこんなのは分かるからな。
そして、ヒロシは「おおおおお! やはり私は天才だ! 見るがいい! この断熱式コップを!」と。
つまり、研究やコーヒーとかが好きでともかく恋愛にはノータッチ。
アヤ、頑張れ。
とか思いながら、料理を作り、空調を最適温度にする。
作り終えたら、住居区画の6人用のテーブルの3人分の食事を置く。
このテーブルの広さにした理由は、聞いたことがない。
もしかするとまだ、人数が増えるのだろうか。
聞いてないからかもしれないが、ヒロシは何も言わない。変人は増えてくれるなよ。
さて、用意も出来たから、起こすしかあるまい。
……面倒なんだよ、本当に。
住居区間のトイレの隣のドア。
『秘密の地下室行きドア』と丁寧に毛筆で縦書きしてあるが、秘密でもなんでもなく地下研究所への入り口。またの名をヒロシの部屋。
2回ノックして、開ける。
普通に部屋だが、ここからさらに続く。
生活感のないベッドにクローゼット。机。
そのうちクローゼットを開き、――何も入っていないのだが、そこにあるものを置く。
1分くらい待てばいいが、面倒なので、アヤを起こしに行こう。
女性の部屋? いや、ただのガラクタの多い汚部屋だ。
こちらは、食卓のある住居区画から2階に上る。
すぐの一室が『アヤの部屋』だ。丁寧に看板猫のシルエットプレートに書いてあるが、
中は見ないほうがいい。夢なんて、見ないほうがいい。
というわけで、ヒロシの仮部屋のクローゼットに置いたものと同じものを置く。
『おはようございますマスター』
今日も時間通りにスリープモードから戻るAI。
となると、あれが起動しただろう。
階段からバタバタと降りる音と同時に、金属音とともにヒロシの「うほぉ! なんだこれは!」と、まあ日常茶飯事だな。
しかし、効果はばつぐんだな。
ただ、目覚まし時計で、アラーム音にAIの機械音声で「起きなければ、メシ、抜き」って淡々と流れるだけだぞ。
最初は普通に声かけてたんだが、起きないんだあの二人。
で、しばらくは朝の営業時間ぎりぎりで二人とも動いていたんだが、まあ、ヒロシよりもアヤがとんでもないことになってしまっていた。
服装や外見ではなく、行動が不味さに磨きがかかる状態。
皿やお盆は飛ぶし、注文は何を間違えたのか100%間違える。
しまいにはつまみ食いする。
ヒロシは、コーヒーが出るのが遅いだけなのだが。いや、それでも大問題ではあるか。
そういうことがあって、AIに起こし方を相談したら、1発で解決しました。
確かに朝食抜きのときの二人は、調子が悪そうだったからな。
オレは抜いても大丈夫なのだが、って言ったら、
「「体資本だろうが!」」
って二人に怒鳴られたのは、びびった。空腹で気が立っていたのもあるだろうが、怖かった。
そして、食事をする。
必ず「いただきます」をするのは、オレが言った。
二人が何を思ったかは知らないが、同意してくれたので、必ず食事には揃ったメンバーで、合掌する。
そして、食後にヒロシが最初の一杯、ということでコーヒーを入れる。
もしくはオレが店用に準備している紅茶を出す。
なお、よほどじゃない限りは全員コーヒーだな。
オレの紅茶がまずいのでなく、ヒロシのコーヒーがうまいんだ。という言い訳はしておこう。
そんな一服。
軽い苦味で目が冴えるのは、うれしいことだ。
うん。言おうか。
「ユナイトだな」
「は? 私のコーヒーはいつもグレイトだぞ」
「いや、ヒーロー名」
「「は?」」
何も分からない、という顔をしている二人。
その開いた口なら、ゆで卵が丸々入りそうだが、店の食材がもったいないな。
「ユナイドライバーが変身装置なら、ヒーローらしくそこからとってみた」
変身ヒーロー、ユナイト。なんだかナイト--騎士っぽくてよくないか? 音だけは。
「「はああああぁぁあぁああああああ?」」
『訳:訳わかんねー! とのこと』
ご近所迷惑だぞ。二人とも。
そしてAIよ。これは訳さなくてもいい。顔が表現してるから、分かる。
もちろん、無視する。
色々言われたが、ネームセンスのことは二人に言われたくない。
空間の支配者と書いて、訳の分からないルビふるとか。
さらに中二病みたいに、まあ、ダークネビュラエンペラーマスクとかよく分からん。
もう無視。
とにかく、変身ヒーロー『ユナイト』として、オレは。
今日も喫茶店の厨房に立つのだった。
ここが、オレの戦場だ!
だけど、戦場は他にもあったんだ。それをオレが知るのは、まだちょっと先。
次の話からちょっとバトルが入る予定です。
武器も導入されます。が、すぐには出てこないです。




