第9話 街の住人になる!
私はカズナとルズナに心配されながら屋敷を出て転移魔法で正門近くの裏路地に出た。
屋敷の裏側で使ったから誰にも姿を見られていないはず。
今の私はどう見ても青年にしか見えないけれど、一応心配だからね。
身バレ防止のためにカイルという名前で活動するぞ!
カイルは私の「うみ」という名前を「海」って書いて異世界っぽく読んでみたってだけなんだけどね。
情報を手に入れるべく、街道に出ると早速この街の住人らしき人を発見した。
藍色の髪の綺麗な女性で薬草の入った籠を持っていた。
声をかけてみよう。
「すみません。こんにちは。少しお時間よろしいですか?」
「ええ、大丈夫よ」
「ありがとうございます。わた⋯僕は旅の者でして、この街についての情報を知りたいのですが、どこに行けばいいのかわかりますか?」
「あら、この街は初めてなのね。冒険者ギルドに行けば情報を得られるわよ」
「え、魔族領なのに冒険者ギルドがあるんですか?」
「この街は特殊なのよ。一番人族領に近いから、人族もよく来るの。だから冒険者ギルドの他にも様々なギルドを設置しているの」
最初に声をかけた人から有力情報を手に入れることができた。
「教えていただきありがとうございます。あの、本当に申し訳ないんですけど、冒険者ギルドまで案内してもらうことってできますか?」
「いいわよ。実は私、冒険者ギルドの受付嬢をやっているの。だから案内なんてお手のものだから。あ、もしかしてギルドカードを持っていないとか?」
「はい。世の中の事柄とは全く関係のない場所で育ってきたものでして⋯」
「箱入り娘ってことね。あなたの場合は箱入り息子か」
「そうですね、そんな感じです」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はクレデーレ。ヴァンパイアよ。あなたは?」
「僕はカイルです。よろしくお願いします!」
「よろしくね。今からギルドマスターに話をつけて来るから少しだけ待っていてね」
「わかりました!ありがとうございます」
いい人で良かった。
それにしても、どうやってギルドマスターと話をするんだろう。
クレデーレさんを観察していると、指輪のようなものが光った。
ずっと見つめていたせいか、クレデーレさんと目が合ってしまった。
「これが気になるのね。もう話は終わったから歩きながら説明しましょうか」
「はい!」
クレデーレさんが使っていたのはアーティファクトといって、様々な活用方法があるのだそうだ。
あと、結婚指輪でもあるらしい。
地球でいうスマホがアクセサリーになったみたいな感じだ。
話している間に冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドはとても大きく、大理石とコンクリートで造られていてとても豪華だった。
中に入ると30代ぐらいのメガネをかけた男性がエントランスで待ってくれていた。
インテリ風イケメンか、異世界ってイケメンパラダイスなの?
ありがとう、神様。
「おかえりなさい。そちらの方が、先ほどご連絡いただいた⋯」
「ええ、カイルくんよ」
「なるほど。ありがとうクレデーレ」
「カイルくん。この人がギルドマスターのブリランテよ。彼もヴァンパイアなの」
「クレデーレ〜。なんで呼び捨てなの?もっとギルドマスターっぽくさ、威厳を持った感じにしてよ」
「ごめんなさいね。でもあなたはブリランテって呼ばれるのが一番あっているわよ」
何だこれはっ。夫婦喧嘩みたいで微笑ましいぞ。
ワイバーンがあの時来なければ⋯。
なんて考えても仕方ないな。
「はぁ、わかったよ。すみません、カイルさん。お見苦しいところを。僕がギルドマスターのブリランテです」
「いえいえ。むしろ仲が良くていいなぁ、って思いましたよ!」
「そうですか?嬉しいな⋯。では気を取り直してこれからよろしくお願いします」
彼は少し困りながらも嬉しそうだった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「まずはギルドカードを作りましょうか」
クレデーレさんは仕事を片付けてくるそうだ。
ギルドカードはギルドに登録する際に貰える。
これは意外と便利で身分証明書にも、パスポートにもなるらしい。
初登録の場合、全員Fランクから始まるらしい。
ブライアン王国で見た鑑定石はこの世界では高価なものだったそうで、このギルドにはないらしい。
おかげでこの街の領主であることがバレずに済んだのだった。
「これで冒険者ギルドへの登録が完了しました。街の住人としても認められますよ」
「本当ですか?嬉しいです!」
「そしてこのギルドカードはランクとともに色が変化していくんですよ」
「へぇ!そうなんですね」
「僕とクレデーレ、実はSSランクで銀色なんです!今のところは僕たちが一番上ですね。SSSランクまで存在するんですけど、到達した人はいないんですよね」
「すごいですね!SSランクかぁ⋯」
「カイルさんもなれますよ!なんなら初のSSSランク行ってほしいですね!」
「行けますかねー?」
ブリランテさんと立ち話をしているとクレデーレさんがやってきた。
「やっぱり立ち話をしていたわね!早くカイルくんをインフォメーションルームにお連れしなさいよ!」
「あぁ、そうだった。ごめんねカイルさん。案内するよ」
「全然大丈夫です!お願いします!」
歩いていると、ブリランテさんが後ろを振り返った。
「あれ、クレデーレもついてくるの?」
「当たり前でしょ?そのために仕事を終わらせてきたんだから。それにあなたが何をするのかわからないからね」
「君は僕の母さんか!でも、僕の奥さんで子どももいるから、母さんなのは間違っていないか」
「ブツブツ言ってないで動いてちょうだい!」
やっぱり夫婦だったんだ。
ん?子供いるの!?
「え、クレデーレさんとブリランテさんって夫婦だったんですね」
「僕とクレデーレは昔同じパーティーにいてね、僕は『若き流星』、クレデーレは『麗しの月』なんて呼ばれてたんだ。それで僕がクレデーレにプロポーズして⋯」
「何恥ずかしい話をしてるのよ!早く行くわよ!」
二人の馴れ初め話面白そうなのにー!
それにしても厨二っぽい二つ名だな。
確かに左手の薬指にアーティファクト兼結婚指輪をつけてるわ。
着いた場所は大きな鉱石が飾られた場所だった。
「こちらがインフォメーションルームです。ここにはこの街に関係する情報がいくらでもありますから、何かあれば遠慮なく聞いてください」
「ありがとうございます!」
情報を集めること数時間。
重要な情報が3つ見つかった。
1つはこの街の治安状況について。
このインコルトの街では、隣国のヴィンズ王国の住人もダンジョン探索のためによく訪れる。
少数ではあるが獣人も訪れるらしい。
たくさんの人が訪れることを利用して、スリや強盗や詐欺、人さらいなどが発生している。
それはヴィンズ王国の盗賊がいくつか根城を構えていることが理由だった。
冒険者ギルドにも緊急要請が来ているが、盗賊の規模が大きすぎて殲滅できない。
盗賊のせいでスラム街が発生し、貧民も増え続けている。
2つ目は産業について。
表立った産業は特にはない。
それは非常に困ることだった。
ブリランテさんが教えてくれたのだが、この街は夏にダンジョンが閉じてしまうから収入源がなくなってしまうそうなのだ。
そしてその期間は物資もあまり流通しなくなるため、食糧も少なくなってしまう。
つまり、産業をどうにか作らなければならない。
3つ目は衛生環境について。
この街の衛生環境は決して良いものではない。
異世界なので当たり前なのだが、下水処理が全くと言っていいほどされていない。
この街は多種多様な人々が暮らしている。
まだ伝染病が発生していないけど、いつ起こり得るかわからない。
この3つの情報をもとに改善しなきゃ。
今、一番やりやすいのは産業を起こすことかな。
「ブリランテさん、すみません。食べ物や物を作ったり、流通させたりするのってどうやったらできますか?」
「うーん、食べ物や物ですか。それでしたら冒険者ギルドよりも商人ギルドのほうが詳しいことが聞けると思います!」
「本当ですか!」
「必要であれば僕から商人ギルドのギルド長にお話しておきますが、どうします?」
「お願いします」
「では、明日中央広場に10時集合でいいですか?」
「はい!」
ブリランテさんのおかげで明日は商人ギルドに行けることになった。
屋敷に戻るとカズナが飛びつく勢いで迫ってきた。
そしてそのままお風呂に誘導されてしまった。
「明日もお出かけされますか?」
「うん、そのつもり」
「わかりました!明日も頑張ってください!」
「ありがとう、頑張るね!あと買い物をする予定だから財布を用意してくれると助かるわ」
「かしこまりました!いくら必要ですか?」
「うーん、そうだな⋯金貨50枚ぐらいかな」
「え、そんなに!?ウミ様は一体何を企んでいるんですか?」
「この街に関係することだよ。でもまだ秘密〜」
「それなら良いですけど、無理はしないでくださいね」
「わかってるよ〜」
「それ、絶対わかってませんよね?」
「てへっ」
カズナとの雑談も終わり、お風呂から上がった。
そして吸い込まれるようにベッドにダイブした。
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