Case.94 招き猫が招いたもの
……………………
──Case.94 招き猫が招いたもの
俺たちは再び熊本城ゲートまで来ていた。
そこでトルグラムをマモンに引き渡すのだ。
「マモンさん。お求めの悪魔を連れてきたぞ」
マモンは熊本城ゲート付近のカフェを貸し切りにして俺たちを待っていた。
護衛に守られる中でカフェのテラス席に座り、優雅にコーヒーを味わっていたマモンの前で俺たちはトルグラムの顔を見せる。
「おやおや、トルグラム。君に会えるのを楽しみにしていたよ」
そう言って怪しげに笑うマモン。
それを見てトルグラムは震え始めている。
「こいつを引き渡す前に黄金の招き猫を返してもらおう。片方がお前のものじゃないのは、もう分かっている」
「う~ん。どうしようかな~? こにからは凄い運気を感じるんだよね」
「おい。約束が違うぞ」
「僕は返してもいいか考えるとしか言ってないよ?」
クソ。これだから悪魔は!
「ねえ、お金は出すからこれを僕に譲ってくれないかな?」
「それは返却したのちに所有者と交渉してくれ」
「ええーっ。1秒でも手放したくないんだよなぁ」
マモンはそう言って手の中で黄金の招き猫を転がす。
「じゃあ、そのように交渉しろ。今から電話で事情を説明するから」
俺はそう言って金元に電話を掛ける。
「金元さん? 黄金の招き猫なんですが、見つかりました。けど、今それを持っている悪魔がこれを買い取りたいと言っているんです」
『買い取りたい、ですか?』
「ええ。どうします?」
『一度会ってみないことには……』
「分かりました。伝えます」
俺はそこでマモンの方を見る。
「交渉には応じるそうだ」
「どうも、便利屋君。早速行こうか?」
「ああ」
トルグラムは黄金の招き猫と交換だ。
黄金の招き猫をマモンが持ち逃げする可能性がある限り、トルグラムは渡せない。
俺たちはマモンとともに金元の家を目指す。
マモンは流石は地獄の国王なだけあってリムジンで移動だ。
「なあ、カリギュラ。マモンは本当に金を払うと思うか?」
「分からん。あいつは強欲を司っているだけあって、ただで手に入るものはただで手に入れる。しかし、同時にもっとも裕福な地獄の国王として羽振りがいいのも事実だ。だから、金元の交渉次第だろうな」
「上手くいくといいんだが……」
俺たちはリムジンの後ろから軽トラで進み、金元の店に到着した。
「ふうん。風情がある店構えだね」
「店主は中だ」
俺たちはマモンを連れて店内へ。
「金元さん。購入したいと希望している悪魔の方です」
「やあやあ。地獄の国王マモン様が来たよ!」
俺がそう言って紹介し、現れたマモンに金元は目を丸くする。
「じ、地獄の国王……?」
「そうだよ。さて、いくら積めばこれを譲ってくれる? 4億ぐらい?」
「え!? そ、その招き猫に4億ですか……?」
驚く金元。
俺たちも驚いていた。
確か金元は200万で譲り受けた言っていたが……。
「これだけ運気が強いものならば、これからもどんどん富を引き寄せるからね。それぐらいは払ってもいいよ?」
「は、はあ。では、4億で……」
「交渉成立だね!」
これも黄金の招き猫の効果なのだろうか?
200万で仕入れた品が4億で売れたのだから、物凄い幸運だな。
「では、これを」
事前に準備していたのだろう。
マモンはぎっしりと4億円が詰まった複数のアタッシュケースを金元に引き渡し、金元は目を点にしていた。
俺たちも4億円なんて見るのは初めてだ。
「これで丸く収まったね。あとはトルグラムを引き渡してもらおうか?」
「ああ。もう二度と地獄のトラブルを地球に持ち込まないでくれ」
俺はそう言ってマモンの護衛にトルグラムを引き渡す。
トルグラムは観念した様子で大人しくしていた。
「それからひとつ聞きたいんだが、地獄はまだ地球に野心を持っているのか?」
俺は石川大尉から頼まれていることを直球で尋ねた。
不意打ちでこう尋ねれば、表情や態度に僅かに変化が生まれるはずだ。
そう考えて俺はあえて直球で尋ねた。
マモンはそれに対して──。
「もちろん、持っている悪魔もいるよ。見てごらんよ。地球というのは面白いもので満ちている。地獄にはないものがたくさんある。それを手にできればと願う悪魔は少なくないはずだよ」
「具体的な計画はあるのか?」
「それは知らない。あるかもしれないし、ないかもしれない」
流石は地獄の国王だな。ポーカーフェイスはお上手だ。
しかし、この反応からすると今のマモン自身は地球に侵攻する計画を有していないように感じられる。
地球侵攻は地獄の総意ではないとでも言いたいような口ぶりだったからな。
少なくとも地獄は一枚岩ではないのだろう。
「分かった。じゃあな、マモンさん。もうお前と関わらないことを祈るよ」
「待ちなよ、便利屋の阿賀野君。君、僕に雇われる気はない?」
「なに?」
俺がマモンに別れを告げようとすると、マモンがそう提案してきた。
「今の君は人間というよりも悪魔に近い。僕なら高給で君を雇うよ。君はその優秀さを度々証明しているし、お金に苦労しているんでしょう?」
「それは……」
確かに今の俺は人間からやや外れた存在になってしまっている。
ハチの巣にされても死なないのは、人間ではない。
「いいや。お断りだ。悪魔を相棒にしても悪魔を上司にする気はない」
「それは残念だ。気が変わったら連絡してね。これ、僕のSNSのアカウントだから」
マモンはそう言い、アカウントのアドレスを記したメモ帳を俺に手渡し、リムジンで走り去って行った。
「カリギュラ。別に異論はないよな?」
「ないぞ。ただ金元からの報酬は弾んでもらおうぜ。俺様たちのおかげで4億も稼げたんだからな!」
「ああ。しっかり報酬を貰おう」
それから俺たちは金元から報酬の300万円を貰い、ほくほくで帰宅したのだった。
……………………




