Case.92 ブラックマーケット
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──Case.92 ブラックマーケット
問題のトルグラムをどうやって探すのか。
まずはやつが登録悪魔かどうかを確認するところから始めるべきかもしれない。
というわけで、俺たちは軍政局へとやって来た。
軍政局でこの手のことを教えてくれそうな人物はひとりだけだが。
「地獄の国王からの依頼を受けたのですか?」
石川は驚いたと同時にちょっと呆れた様子で俺たちにそう言う。
「ああ。仕事上、どうしても必要になってな」
「仕事はもうちょっと選んだほうがいいと思いますよ、阿賀野さん。しかし、地獄の国王も阿賀野さんのことを知っていたのですね」
「そこは不思議ではないかもしれん。竜殺しとしての俺の名は、どうもあちこちに響いているみたいだからな。悪事千里を走るとは言ったものだ」
「悪事ではないでしょう」
俺がうんざりしたように肩を竦めて言うと石川は苦笑する。
「ともあれ、トルグラムという悪魔に事情を聞かなければならん。やつが本当に窃盗犯かどうかは分からないし」
「そうだな。そう主張しているのは今のところマモンだけだ。盗んだものを自分のものとか言うやつの言葉だけが根拠だ」
「そうそう。慎重にやらないとな」
カリギュラの言葉に俺は頷いて見せる。
トルグラムが窃盗とは一切関係ない可能性もある。
ただ何かしらマモンにとって不都合というだけの存在で、その不都合な悪魔を俺に処理させようとしているのかもしれない。
しかし、どうあれトルグラムの身柄は必要だ。
黄金の招き猫のためにも。
「それで、トルグラムが登録悪魔かどうか調べたい、と」
「ああ。俺たちの日頃の軍政局への貢献を考えれば、ちょっとぐらい調べてくれたっていいだろう?」
「そうですね。登録悪魔かどうかくらいは調べましょう」
そう言い石川はデスクの上のパソコンを操作し、トルグラムが登録悪魔かどうかを調べ始める。
「トルグラムは一度登録されたあとに窃盗罪で資格を剥奪されていますね。地獄の国王の宝物庫から盗んだかどうかは分かりませんが、この熊本ではどうやら盗みの前科があるようです」
「助かった、石川大尉」
「いえ。こちらとしてもお願いしたいことがあります」
「……なんだ?」
「情報軍が軍政局に対して警告を発しました。地獄による日本再侵攻の可能性があるということです。まだ確かであるという段階ではありませんが、備えるようにという命令が出ています」
「そいつは穏やかではないな」
俺もカリギュラも石川の言葉に険しい表情を浮かべる。
ミントが言っていた『地獄はまだ地球を諦めていない』という言葉。
地獄は再び熊本に、いや地球に攻め込んでくるのだろうか?
「ええ。そこで、もしまたマモンに接触することがあれば、探りを入れてはもらえませんか? 情報には報酬をお支払いしますよ」
「地獄の国王から情報を聞き出せ、と……」
「お願いできませんか?」
随分と無理難題を言われている気がするが……。
「分かった。努力はしてみるが、保証はできないぞ」
「助かります」
俺は石川にそう返し、軍政局を出た。
「なあなあ、阿賀野。問題のトルグラムが非登録悪魔だってことは分かったけど、それならどうするんだ?」
「やつが非登録悪魔であることと窃盗の前科があることを踏まえれば、探るべき場所はひとつだろう?」
「ブラックマーケットか?」
「ああ。そこから当たろう」
俺たちがまず探るべきはブラックマーケットだ。
軍の横流し品から盗品、あるいは死人から剥いできたような品、あるいは商品として非合法な品が出回る場所。
そこがブラックマーケットだ。
不幸なことに今の熊本にはそういう市場もあるのである。
ブラックマーケットがあるのは例の非登録悪魔の巣窟となっているビルのそばで、憲兵もよほどのことがないと近寄らない場所だ。
俺とカリギュラは一度自宅に戻ってフル武装してから、そこに向かう。
俺はM27 IARアサルトライフルをスリングで下げ、カリギュラはモスバーグM590散弾銃を下げ、ブラックマーケットへと立ち入る。
ブラックマーケットの住民は非登録悪魔がほとんどだ。
ここは非登録悪魔が暮らしていくための稼ぎを得る場所でもあるのだから。
「カリギュラ。財布すられないように用心しろよ」
「お前こそな、阿賀野。ぼんやりするなよ」
治安が悪い熊本の中でもここは最悪の部類だ。
俺たちを殺して身ぐるみを剥ごうと企んでいる悪魔は片手で数えきれないだろう。
「お兄さん。いいものあるよ。買って行かない?」
そこで薄汚れた服装のオークが俺たちにそう声を掛けてくる。
男の前には出どころの怪しい宝石などが並んでいた。
血の付いた首輪や……うげ、指が付いたままの指輪まである……。
「お前の扱っている品を買う気はないが、情報を買いたい」
「……何の情報だい?」
「トルグラムって悪魔を知らないか? そいつの居場所になら金を払っていい」
俺はそう言ってなけなしの万札をちらつかせる。
「トルグラムは知っているよ。ここら辺の店を仕切ってる。今は自宅にいるはずだ」
「自宅ってどこだ?」
「俺たち非登録悪魔が暮らせる場所はひとつだけさ。地下か、それかあのビル」
「トルグラムは?」
「地下だ」
カリギュラの問いにオークはそう答えて、マンホールを指さす。
「分かった。報酬だ」
俺は2万をオークに支払い、それからカリギュラとマンホールを見つめる。
「俺様、こういう地下は嫌いだ。臭いし……」
「文句言うなよ、これも仕事だ」
俺たちは慎重にマンホールを外すと、そこから地下に入った。
中には風雨を凌ぐために暮らしている悪魔たちがいて、俺たちが下りてきたことに一瞬びくりとした様子を見せた。
「さて、トルグラムを探すか……」
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