Case.91 強欲のマモン
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──Case.91 強欲のマモン
地獄の国王は7名いる。
そのように地獄戦争の際にブリーフィングで説明を受けた。
強欲のマモン。
嫉妬のレヴィアタン。
色欲のアスモデウス。
暴食のベルゼブブ。
怠惰のベルフェゴール。
傲慢のルシファー。
──そして大君主たる憤怒のサタン。
それらの情報は捕虜にした悪魔から得られたもので、地獄には恐ろしい君主たちが君臨しており、巨大なドラゴンであったカリギュラすらも彼らに従う存在だと俺たちは知ったのだった。
そんな地獄の国王たちは、結局は一度も戦場には姿を見せなかった。
地獄戦争で目撃された最高位の悪魔はカリギュラである。
俺たちはそんな謎に満ちた地獄の国王に接触しようとしている。
──黄金の招き猫のために。
いや。改めてみると訳の分からないことに命懸けてるな、俺ら?
「カリギュラ。準備はいいか?」
「ああ。行くぞ、阿賀野」
カリギュラは帽子とサングラスを身に付けている。
流石に地獄の国王が相手では、カリギュラが女性の姿でも正体がばれかねない。
そして、今のカリギュラは地獄の元帥として復帰するつもりはなかった。
「では、行くぞ」
俺たちはまず新谷と待ち合わせしている熊本城ゲート前に向かう。
熊本城を引き裂くようにして穿たれた地獄と繋がるゲート。
そのゲート付近には大勢の悪魔や人間がいる。
「あ! 阿賀野さーん! こっちです、こっち!」
「新谷さん」
そこで新谷が俺たちを待っていた。
彼女が今日、問題の骨董市でマモンの元まで案内してくれる。
「早速ですが行きましょう。きっとマモンさんも来るはずですから」
「ええ」
骨董市は熊本城ゲート付近で開かれている。
そこは地獄の品と地球の品が入り混じる奇妙な骨董市となっていた。
日本の品だろう陶器が並んでいる横の店では、明らかに地獄の品である怪しげに輝く水晶玉などが売られている。
中には謎の生き物の骨を売っているような店まであり、市場はカオスそのものだ。
「わあ。今日もいろいろと賑わっていますね~!」
新谷はそんな市場をにこにこの笑みで見て回っている。
リッチーの魂が収まった宝石もこんな場所で買ったんだろうか?
「新谷さん。マモンは……?」
「ああ。すみません。用件はそっちでしたよね」
新谷が市場の商品に目が釘付けになる中、俺が声を掛けると彼女は市場を奥に進む。
「こっちです、こっち。高額な品が並ぶ場所にいつもいらっしゃるんですよ」
新谷はそう言って人混みを掻き分けて、市場の奥へ奥へ。
「あそこです」
「あれが……マモン……」
マモンは少女の姿をしていた。
外見だけは16、17歳ほど。
明るいサンディブロンドと黒髪が混じった奇妙な頭髪をツーサイドアップにしてまとめている。
そして、悪魔としてほぼ例外がないように瞳の色は赤い。
だが、それより目を引くのは身に付けている服とアクセサリーだ。
身体には動物の毛皮で飾られた真っ赤なマントを翻し、白と金を基調に、フリルと金糸がふんだんに使われた露出度の高いドレス。
首には何重ものネックレスを下げ、指には全ての指に宝石の輝く指輪を身に付け、耳にも煌びやかな宝石が下がったイヤリングをしている。
それは、まるで歩く宝物庫とでも言うべき存在だった。
「思った以上に派手なやつだな……」
強欲というからには金銀宝石が好きなのだろうとは思っていたが、ここまでクソ目立つ格好でうろうろしているとは思わなかった。
しかも、しっかり武装した悪魔の護衛を付けている。
数は見えているだけでは8名。
恐らく周囲には私服の護衛もいるのだろう。
まあ、いくら警備を掻い潜ったところで、地獄の国王を暗殺できるとは思えんが。
「さて……どうやって接触するか……?」
「別に悪いことをするわけではないですし、普通に話しかけてみたらどうです?」
「そうですね。そうしましょう」
新谷にそう言われて俺とカリギュラはマモンの方に歩み寄っていく。
俺たちが近づくのを見て、護衛の悪魔が反応するのが分かった。
鋭く警戒の視線を向けてくる護衛の悪魔。
しかし、市場の店を物色しており、こちらに視線すら向けないマモン。
「よう、マモンさん。ちょっといいかい?」
俺がそう声を掛けて、初めてマモンはこちらを向いた。
「やあ。どうしたのかな?」
怪しげなマモンの笑み。
相手は大悪魔の中の大悪魔だ。カリギュラ以上の力を持つ地獄の国王だ。
少しばかり緊張する。
「黄金の招き猫について聞きたいことがある。お前の部下を名乗る連中が、以前この黄金の招き猫をお前の所有物だと主張して盗んでいったんだが……」
そう言って俺はマモンの護衛に金元から渡された黄金の招き猫の写真を渡す。
それをマモンが受け取り、しげしげと眺めた。
「ああ。これなら僕のものだよ。これでしょう?」
そう言ってマモンは──ふたつの黄金の招き猫をどこからともなく取り出した。
黄金の招き猫は本当にそっくりで、見間違うのも無理がない造形だ。
「待った。どちらか一方はお前のものじゃないはずだ。底に刻印があるのは片方だけ。違うか?」
「ほう。面白いこと言う人間だね。地獄の国王である僕の言葉を嘘と断じるのか」
「ああ。悪魔ってのは嘘を吐くものだろう?」
くすくすと小さく笑うマモンに俺はそう主張する。
「まあ、そうだね。片方は宝物庫から盗まれたもので、片方は最近部下が持って来たものだよ。君が探しているのは、こっちかな?」
そう言って片方の招き猫の底を見せるマモン。
そこにはやはりマモンの刻印はない。
新谷の証言通りだ。
「勘違いだったなら、返してもらえないか?」
「それはダメ。盗品だろうと何だろうと僕の手に入ったものは僕のもの。君に返すいわれはないよ」
そう言ってからかうようにマモンは笑う。
クソ。こいつ盗人猛々しいな……。
「けど、君が僕の仕事を受けてくれるならば、返すことを考えてもいいよ、便利屋の阿賀野君?」
「……仕事とは?」
俺はまだ便利屋の阿賀野だとは名乗っていないが、どういうわけかマモンは俺のことを知っていた。
不気味なやつだ。
「僕の宝物庫から盗みを働いた悪魔の捕縛。そもそものトラブルの原因になった悪魔が行方不明でね。そいつを僕の元まで連れてきてくれるなら、この黄金の招き猫を返してもいいかもね」
「なるほど。情報はあるのか?」
「これが問題の悪魔だよ」
そう言ってマモンは羊皮紙を取り出して俺に渡す。
そこにはトルグラムなるオーガの情報があった。
名前の他に顔を描いた写し絵と背格好が描かれている。
「分かった。近いうちに捕まえてこよう」
「お願いするね。それから──」
マモンの視線が俺の斜め後ろにいるカリギュラに向けられる。
「──カリギュラ。君が戻ってきても、別にお咎めはないよ? サタン様だって理解してくださっている」
「カリギュラ? 俺様、何のことか分からんな~?」
「あはは。そっか、そっか。まあ、こっちの方が地獄より楽しいみたいだからね。好きにするといいよ」
マモンはそう言って再び市場の物色を始めた。
「新谷さん。ありがとうございました」
「いえいえ。それより大丈夫ですか? 地獄の国王からの依頼って……」
「まあ、何とかしてみます」
新谷が心配するが、俺はそう返した。
「行こうぜ、カリギュラ」
「……ああ」
カリギュラは僅かにマモンの方に視線を向けたのちに、俺とともに骨董市を出た。
さて、次は盗人の捜索だ。
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