Case.90 アンティークの専門家
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──Case.90 アンティークの専門家
俺たちが向かった先は他でもない。
新谷の自宅だ。
アンティーク愛好家の新谷ならば、地獄産の招き猫なんてものがあるのか知っているかもしれないからな。
事前に俺たちは新谷に連絡を入れて、それから彼女の家を訪問した。
「ようこそ、阿賀野さん!」
「突然すみません、新谷さん。お邪魔します」
新谷は笑顔で俺たちを出迎え、お茶まで出してくれた。
「それで私に聞きたいことがあるとか?」
「ええ。変な話に聞こえるかもしれませんが、地獄で招き猫が作られている、なんて話を聞いたことはありますか?」
「……地獄製の招き猫、ですか?」
俺たちの言葉に新谷は明らかにきょとんとした様子だった。
「まずはこれを見ていただけますか? 数日前にある骨董品店から盗まれたものです」
俺はそう言って盗まれた金元の招き猫の写真を見せる。
「ああっ! これは……!」
「ご存じなので?」
「ええ。金元さんという骨董品を扱っている方ですよね、これの所有者は」
「ええ。ですが、どうして……」
「私も買おうとしたんですよ。けど、高くて諦めたんです……」
もしや、金元が言っていた招き猫を買おうとした人間の女というのは、新谷のことだったのか?
「新谷さん。あなたは今や地獄のアンティークについてもお詳しい。この招き猫がマモンのものだったと証明する印があると悪魔たちは言っているのですが、そのような印を知っていますか?」
「マモンというと、地獄の国王の?」
「ええ。そのマモンです」
新谷が確認し、俺は頷いて見せる。
「ええ。確か私もかつてマモンさんの所有物だったアンティークを持っていますから」
そう言い新谷は様々な品が並ぶ戸棚から、ある陶磁器を持ってきた。
「ほら。ここにマモンさんの刻印があります」
そこには翼を広げた鳥の紋章と地獄の文字でマモンという名が刻まれていた。
「なあなあ。あの黄金の招き猫にその刻印はあったのか?」
「う~ん。なかったように思います。よく見たつもりなんですけど……」
すでにマモンの刻印を知っている新谷が、招き猫の底に刻まれたその刻印を見逃すとはいまいち考えにくい。
となると、妖狐たちが嘘をついていることになる。
「けど、待ってください。黄金の招き猫って確か……別のお店でも見た気がします」
「え?」
ここにきて新谷から新しい証言が出る。
「そうです、そうです。リッチーさんと一緒に悪魔が営んでいる骨董品店を見に行ったときに、黄金の招き猫をそこでも見たんです。確か金元さんのお店からそこまで遠くない場所にありましたよ」
まさかとは思うが……。
「なあなあ。妖狐が言っていた黄金の招き猫は金元のそれとは違うものか?」
「かもしれない。妖狐は黄金の招き猫は自分たちのものだと言っていただけだ」
黄金の招き猫がまさかの2体あるという可能性に俺たちは考え込む。
「しかし、どうやってそれを確かめるか、だが……」
「マモンさんに会って聞いたらどうですか?」
「いやいやいや。地獄の国王にはそうそう簡単には会えないでしょう?」
「会えますよ? 彼女も熊本にはよく来ますから」
「マジですか」
「マジです」
地獄の国王がよく熊本に来る……?
かなりやばい情報のような気がするが、確かにそれなら本人に聞くのが早い。
俺がカリギュラの方を確認するように見るとやつは『好きにしろ』というように肩を竦めて見せた。
「本当にマモンが熊本に来るんですか? 来るとしていつ来るんです?」
「そうですね。明日辺りにでも会えると思いますけれど」
「そんなに早く……?」
「ええ。ちょうど明日マーケットが開かれるんです。地獄や地球の品を扱った骨董市がですね。そこに顔を出されると思いますよ」
「骨董市、ですか……?」
またしても骨董品関係である。
というか、地獄の国王が骨董品漁りに来るのか……?
「そうなんです。遠目にですけど、3回ほどお見掛けしましたね」
「直接会ったことはないのか~?」
「それは流石に。周りに警護の悪魔がたくさんいますし……」
「まあ、そりゃそうだよな~」
地獄の国王と言えば地球でも通じるVIPである。
それに地獄戦争からまだ月日の浅い今の日本では、その命を──奪えるかどうかは別として──狙うものはいるだろう。
「けど、一般の悪魔の方でも声を掛けているみたいでしたから、ひとこと質問することぐらいはできるのではないでしょうか?」
「ううむ。今のところ、それしか手はなさそうですね……」
黄金の招き猫の本来の持ち主は不明。
それを盗んだであろう妖狐も行方不明。
となると、マモン本人に勘違いなら返してくれと頼むしかない。
「では、明日の正午に熊本城ゲート前で待ち合わせましょう」
「はい」
そんなわけで俺たちは地獄の国王本人に黄金の招き猫の所有権を質問しに行くことになったのだった。
俺たちは新谷の家を出て一度帰路に就く。
「なあ、カリギュラ。お前はマモンと会ったことはあるんだろう?」
「あるぞ~。その名に違わぬ強欲な悪魔だ」
そしてカリギュラは少しばかり険しい表情を浮かべる。
「気を付けろよ。あいつはすぐに珍しいものを欲しがる。竜殺しの英雄も珍しい品と言えば、そうなんだからな」
「分かった。持ってかれないように気を付けるよ」
俺はカリギュラの言葉にそう返しながら、実際に明日マモンに会ったら何というべきかを考えていた。
カリギュラの言葉が正しければ、マモンは自分が手に入れた品を返してくれなさそうだが……はてさて……。
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